四話:黒き死神、赤銀の悪魔
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(……まずいわ。これは想定外ねェ……)
魔人ポイズン・ビー達の包囲網の外で、魔人ポイズン・ホーネットは焦る。
帝国の外で、単独で周辺各国の侵略を行う「開拓兵」の魔人達が、あちこちで討たれているという報告が上がるようになった。
その原因の解明、及び抹殺を行うために「帝国聖裁軍」より遣わされた大型魔人達の内の一体が、この魔人ポイズン・ホーネットだ。
彼女は魔法「女王フェロモン」によって各地で開拓兵をしていた魔人ポイズン・ビー達を集結。単独行動をしたがる魔人達を操る素晴らしい魔法だ(魔人ポイズン・ビーに限るが)。脳の働きを操作するので、魔人としての知性ありきの戦闘能力は些か落ちるが、数で補って余りある。
ちょっとした分隊を形成しながら、人間を餌に「それ」をおびき寄せる。
どうやらその思惑は成功したようで、やってきた「それ」は僅かな情報にあった特徴に類似する。
曰く、それは暗殺者のような格好をした、人の形をした「黒き死神」。
曰く、それが着き従えているのは、角の生えた「赤銀の悪魔」。
出会ってしまった魔人は、尽くを殺害されてしまう。
故に、「それ」に与えられた肩書きは――
(――「魔人殺し」。どうやら出会えたようなのは僥倖よ。僥倖だけどォ……これはちょっと、強すぎない?)
魔人ポイズン・ビー達が一斉に魔器の魔法を発射。
黒い男が少年諸共冒険家の娘の襟首を掴み、角の女と共に真上へ高く跳躍してそれらをかわす。宙に浮いたまま男が何かのスイッチを押すと同時に、その真下から白い煙が発生。あっという間にポイズン・ビー達を覆いその視界を奪ってしまう。
使い捨て魔器の一種、魔法「スモーク」を発生させる魔器「タイムスモーカー」だ。
「限定顕現――スサノオノタチ。『ライジング・ボルトマルクスラッシュ』」
女が先に地面に降り立つと、雷を纏った刃を構えて高速回転。
その風圧で晴れた煙の中から、バラバラになったポイズン・ビー達が出てきた。
「ぎ……ぎ……」
「ひっ……『ギガント・ボルトバースト』!」
上半身だけになって動いていたポイズン・ビー一体に、男に降ろされた娘がとどめを刺す。
「ごめん……ミルラ。こっちも視界が悪くて、仕留め損ねてた。多分アルマが悪いと思います」
「うるせえな。この使い捨て魔器は『タイムスリーパー』よりコスパいいんだよ」
「いや充分過ぎですー!! あっという間に全滅ー!? 本当にあなた達なんなんですー!?」
ポイズン・ホーネットの心境を、そのまま娘が言葉に発してくれる。
「……ぐっ。もう全員よ! 出てきなさいアンタ達ィ!!」
また、新しい魔人ポイズン・ビー達を呼び寄せる。数にして二十以上。これだけ使い潰しては、帝国にお叱りを受けてしまうだろう。
だが、これだけやらなくては勝てる気がしない。
まず、「赤銀の悪魔」の方の火力が半端ない。
先程はハイエクスプロージョン級に相当するポイズン・ホーネットの魔法が、他のポイズン・ビーの魔法諸共撃ち破られてしまった。赤いブレード・ガンドなど見たことがないが、どうやら雷属性らしい。
だが、今ポイズン・ビー達が魔器から発する相性無しであるはずの魔法すらも打ち破られていく。どうにも「アンチ・ラタトスク」によって隠されているようだが(ポイズン・ホーネットは帝国から「ラタトスク・アイ」も支給されている)、その魔法攻撃力が大型魔物相当かそれ以上だ。
亜人なのか、それとも帝国を裏切った魔人なのか。残念ながら、後者の方が納得出来てしまう実力だ。
そして、大型魔物レベルの魔法攻撃力を持つポイズン・ホーネット自身も魔器ローリング・ガンドで魔法を放つものの――
「『トルネード・ウインドバースト』!」
「設定完了、二つ目は火属性。限定顕現――カグツチの杖。『ギガント・フレイムシールド』!」
〝トルネード・ウインドバースト
魔法攻撃力:145
威力階級エクスプロージョン:×8
魔法威力:1160〟
〝ギガント・フレイムシールド
魔法攻撃力:300
威力階級ギガント:×4
シールド補正:×2
魔法威力:2400〟
彼女自身の魔法なのだろうか、風属性に相性有利の魔法で防がれてしまう。
偶然にも運の悪いことに、魔人ポイズン・ホーネットの持つ二属性に属性相性有利を取られてしまう二属性を持っている。
(きぃー! これアタシじゃ手も足も出ないじゃナイー!! 他のポイズン・ビー達にも一斉攻撃させて数で押そうにも……)
次に、「黒き死神」の方の動きが的確で、そして全く読めない。
人間にも見えるが、人間とは思えない速度で動き、魔法をかわされてしまう。
攻撃力もやはり人間では有り得ないが、「赤銀の悪魔」には及ばない。そのガンドから放たれる無属性魔法は、魔人ポイズン・ビー達の魔法と相殺出来る。
だが、彼は正確に女の雷魔器魔法と相性不利になる土魔法に、自身の魔法を相殺させている。
更に、使い捨て魔器を用いた奇策がとにかく厄介で――
「「「『毒噴射』!」」」
ポイズン・ビー達が一斉攻撃。すかさずポイズン・ホーネットが上空に飛び、ローリング・ガンドの銃口を回転させて魔法を唱える。
「『ウインドストーム』!!」
相手を囲うように広範囲な竜巻を発生。それを受けた毒液達は、予測不可能な軌道を描き始めて冒険家達に迫る。ポイズン・ホーネット軍団最強の連携攻撃だ。
〝毒噴射(群生乱舞)
魔法攻撃力:95
威力階級エクスプロージョン:×8
他魔法による補助:×1.2
魔法威力:912〟
「……回避は無理か。シラ、『マルクスラッシュ』で捌けるか?」
「ちょっと、難しそう……」
「そうか。なら、『スフィア』だ。雷は『スラッシュ』系しか放てない魔器の魔法だと思われているだろうから、まだ自然な方の火でいけ。ギガントでいい」
「了解。限定顕現――グランヌスの書。『ギガント・フレイムスフィア』」
小声のやり取りの後に、彼らの周りに球形の盾が展開する。
〝ギガント・フレイムスフィア
魔法攻撃力:300
威力階級ギガント:×4
スフィア補正:×1.5
魔法威力:1800〟
「スフィア」は一方向しか展開しない「シールド」と違って全方向を守ってくれる変わりに、防御魔法としての性能が少し下がってしまう魔法だ。確かにこれなら何処から飛んでくるか分からない複数の毒液にも対抗出来るだろう。
だがそれを見て、ポイズン・ホーネットは嘲笑した。
「馬鹿なのォ!? 毒液と相性不利の盾なんか、しかもギガントなんて弱い威力階級で展開しちゃってェ! その見えない魔法攻撃力がかなり高いってのは何となく分かったケドぉ、例え毒液一つとの相殺でも盾は砕けるのよ!? その後は、あっと言う間にこの数の毒液達に蹂躙されて……」
「うるせえよ、馬鹿はてめえだ。……誰が、てめえらの魔法を遮る盾だと言った?」
直後、球の外側で複数の爆発が連鎖して一斉に起こり、毒液達の行く手を阻む。
「なっ……!?」
〝毒噴射(群生乱舞)
魔法攻撃力:95
威力階級エクスプロージョン:×8
他魔法による補助:×1.2
魔法威力:912〟
〝エクスプロージョン・バースト
魔法攻撃力:160
威力階級エクスプロージョン:×8
無属性補正:×0.8
魔法威力:1024〟
どうやら、予め地面に設置していた使い捨て魔器「タイムボンバー」の魔法であるらしい。ぎりぎり盾に爆風が当たるか当たらないかといった距離だ。
しかし、その周りを舞っていた毒液達には全て命中し、消されてしまう。しかも、魔法発動直後かつ完全に勝ったと油断して全く身動きが取れなかったポイズン・ビーが五体程爆風に巻き込まれて逆にやられてしまう。敵ながら見事なカウンターを入れられてしまった。
まるで、こういう攻撃が来ることが事前に分かっていたかのようだ。
一体、どれだけの魔人との戦闘経験によって、これほどの策略を編み出したというのか。
(本当に、何なのよこいつらァ……!)
ポイズン・ホーネットは苛立たしさに顔を顰め――だが、防御魔法の中で密集している彼らを見て再び笑みを浮かべていた。
(……まあでも、これはアタシの勝ちかしらァ? アンタ達の敗因は――そのお荷物達よ)
そして、彼女は切り札の魔法を唱えた。
「『超絶・毒爆弾』……♡」




