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八話:魔法チュートリアル

 □■□



 次の日の朝。ロアの家に泊めてもらい、朝食まで出してもらえた信乃は、ロアから渡された軽い金属製の胸当てと頑丈な革のベルトをTシャツジーパンの上から装着していた。


 異世界召喚(迷子)二日目、既にまともな衣食住を提供してもらえているのはまずまずの成果と言えるだろう。ちなみにロアとは部屋は別だったが、同世代の女の子と一つ屋根の下で寝るという事実にどきどきしてあんまり眠れなかった。


「家には私以外誰もいないから、好きに使ってちょうだい」ともロアは言っていたが、その理由は何だか聞けなかった。


「信乃。後ろの結びが甘いわよ、これじゃすぐに外れちゃう。私が結んであげるから」

「ひ、ひゃい(近い、吐息が首筋にあたる、なんかいい匂いする、やばい)」

「なあに、変な声だして」

「ご、ごほん。……しかし、防具は魔器ってやつじゃ無いんだな。これも実物は初めて見るんだけど、なんだろうこの親近感」

「『シールド』系の魔法が使える防具の魔器っていうのも勿論あるんだけど、こっちはまだ高価で一般には出回っていないって感じね。魔器の強力な魔法をちゃんと防ぐ安定感っていうのも捨てがたいけれど、それに高いお金を出すくらいなら動いて避けること考えて、むしろ防具は最低限でいい……っと、出来た。で、後はこれを渡しておくね」


 そう言って信乃から離れたロアは、テーブルに置かれたケースを開ける。その中でずらりと並ぶそれらを見て、信乃は思わず息を呑む。


「……拳、銃……っ!?」

「……? ケンジュウって名前では無いわよ。これは『ガンド』。私も愛用している、軽くて使いやすい最もシンプルな部類の魔器ね。『バースト』系の基本的な魔法が内包されている。私達もちゃんとあなたを守るつもりだけど、一応護身用にね」


 そうロアは説明するものの、やはり何度見ても刑事ドラマとかで警官が持っているあの拳銃そのものにしか見えない。剣銃はまだゲーム感のある武器だったが、これはファンタジーで登場するにはあまりにも生々しい。


「私たちは生まれつき、自身で使えることがある魔法属性とは別に、魔器の魔法属性へどれか一つ適正を持っているわ。つまり、魔器は一属性しか使えないの。左のガンドから火、風、土、雷、水の全五属性に対応している。順番に触ってみて信乃。起動した魔器の属性があなたの適正よ」

「お、おう……」


 属性か、ロマンがあるなと思いつつ信乃は並べられたガンドに触れていく。

 しかし、どれも反応を示すことはなかった。


「あ、あれ……?」

「うーん、おかしいわね。異世界からきた信乃には適正がないのかしら? 二十年前の勇者の文献を調べておく必要があるわね。仕方がないから、とりあえずこれはどう?」


 今度は机の引き出しから出してきた一丁のガンドを差し出されたので、それに触れるとついている文様が青く光った。


「誰でも使える無属性ならいけるわね。私と被るけど、まあいいか」


 少し視線を下に落とすと、ロアも既にガンドを二丁、左右の太ももに付けたホルスターに装着している。

 

「ロアの属性適正は何なんだ?」

「私は雷だけど、これから会う同行者も雷の魔器を使うから属性が被っちゃうのよ。だから私は無属性。こっちのほうが使いやすい場面もあるしね」

「へー、好みの問題じゃないのか?」

「というのも、属性には相性があるの。ある属性を使う相手に弱くなってしまうなんてこともあるから、パーティではなるべく属性をばらけさせることが鉄則ね」


 簡単に言えば、同じ威力の魔法を衝突させた場合に打ち勝つ方が、相性が有利となるらしい。これを有利→不利という関係性で表すと――


 火→風→土→雷→水→(火)


 ――このような相性サイクルになるのだとか。


 例えば、同威力の水の魔法と火の魔法がぶつかった場合、水は火に対して相性有利となるため水の魔法が打ち勝つ。逆に、水の魔法と雷の魔法とぶつかってしまった場合は、相性不利になる水の魔法が負けてしまう。

 また、水の魔法と土の魔法がぶつかった場合には、両者の間には相性が存在しないため相打ちになる。

 ちなみに、無属性はどの属性とも有利不利の相性とはならないそうだ。


「無属性って相性不利にはならないから、一見便利そうな属性に見えるけど、威力自体が他の魔法属性に比べて低めなのよね……。弱い敵複数相手に良いってくらいよ。私は二丁同時使用で威力を補ってはいるけどね」

「ロアの二丁持ち、かっこいいよな。俺もやってみたいぜ」

「あら。それが出来る素質と、かなりの努力が必要になるわよ。特訓してあげてもいいけど……ふふふ、あなたは付いてこられるかしら?」

「ひえ……」


 特訓の方はともあれ、今教えてもらった属性についてはすぐに覚えられそうだった。ゲーム脳を舐めてはいけない。


「あ、そしてこれも渡しておくわね。『ラタトスク・アイ』!」


 そして次にロアは、ド〇えもんよろしく目のような模様の掘られた小さな金色のバッジを掲げてきた。


「……なにそれ」

「まあその反応が妥当でしょう。これも魔器よ。昔からあるやつらしいけれど、魔法が普及し飛び交う昨今では需要が上がっているアイテム型の魔器ね。その効果とは――魔法威力を数値的に可視化出来るようになるというものよ!!」


 あ、もうこれやっぱゲームだわと信乃は悟った。数字まで出てくるのならもういよいよだ。やはり最近ハマっていたMMORPG辺りの夢でも見ているのではないかと疑いたくなってくる。あれも結局のところ火力ゲーだった。

 そんな彼の心情も知ることはなく、ロアは得意げに続けた。


「これを付ければあら不思議。発動した攻撃魔法や防御魔法の威力を自動的に計算して、視覚上に数値として出してくれるの。しかも、魔法同士が衝突した際の威力比較まで出してくれるわ。魔法はこの威力数値が大きく上回る方が勝つから、大事な情報ね。剣が廃れ、魔法が普及したこの世界ではもはや必需品とすら言える代物よ。……まあ魔法威力だなんて急に言われてもよく分かんないだろうから、これから慣れてもらうしかないわね」

「まあ、言いたいことは何となく分かる。火力は本当に大事だからな」

「あら! やっぱり信乃の世界にも魔法ってあったの?」

「ああいや、そんなものはもちろんないんだが……俺の世界ではみんな知っているものだろうし、誰もが憧れていただろうな」


 そこら辺の話は、またおいおいしてあげようと思った。

 とりあえず渡されたそのバッジを付ける。今のところは何も変化は無いので、ロアの言う通り魔法が発動された時に見えるのだろう。

 

「よし、これで準備完了ね。もう外でみんな待っているわ。また道中で色々説明するから。さあ、いくわよ」

「お、おう……!」


 朝からばたばたとしてしまったものの、いよいよかと気を引き締め、催促されるがままに玄関へ向かった。

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