五十六話:そして勇者は、引き金を引く
「……クク」
その言葉を受け、スルトは額に手を当てて再び笑い始めた。
「ハハ、ハハハ……アハハハハハハハハッ!!」
リンドヴルムが上昇。
両翼に先程よりも更に魔力を込め、魔法を放つ。
「『カタストロフ・フレイムクロススラッシュ』!!」
〝カタストロフ・フレイムクロススラッシュ
魔法攻撃力:360
威力階級カタストロフ:×32
魔法威力:11520〟
ほぼ同時に、交差するように下ろされた両翼より、巨大なバツを描いた炎を発生させ、こちらに飛ばして来る。それにはさっきシラが使った「ツインスラッシュ」同様、二回の魔法威力判定があるようだ。
しかも更に威力階級を上げている。それがこちらに向かってくるだけでも、肌にびりびりと濃密な魔力を感じさせられた。
しかし、泉より完全な形で引きずり出されたシラの魔剣は、それにすらも食らいつく。
対する彼女も、先程よりも魔力を込めて魔法を返す。
「『カタストロフ・ダークネスツインスラッシュ』!!」
〝カタストロフ・ダークネスツインスラッシュ
魔法攻撃力:300
威力階級カタストロフ:×32
闇属性補正:×1.2
魔法威力:11520〟
相手のバツを綺麗になぞるように放つ二連撃。
そのバツが黒く染まり切るよりも早く、シラはそれを蹴り飛ばして相手に返す。
〝黒蝕
魔法威力:5760〟
「……おもしれぇ。おもしれぇ!!」
あろうことか、スルト本人がリンドヴルムより飛び出してそれを殴って破壊。そのままシラの元まで降りてくる。
そのまま相手が近接戦に持ち込んで放つのは、拳と蹴りによる連撃だ。
「オラオラオラオラァ!」
「『ハイシャドウ・ダークネスマルクスラッシュ』!」
〝ソーン・フォールの炎
魔法攻撃力:360
威力階級ハイエクスプロージョン:×16
魔法威力:5760〟
〝ハイシャドウ・ダークネスマルクスラッシュ
魔法攻撃力:300
威力階級ハイエクスプロージョン:×16
闇属性補正:×1.2
魔法威力:5760〟
それを、シラも連続の斬撃で受けていた。
十数回にも渡る攻防。剣と拳がぶつかり合う度に魔力の余波を受け、辺りで炎と土埃が舞う。
やがて、スルトの回し蹴りがシラに当たり後退させられる。
だが同時に、「黒蝕」で弱まった拳の炎がシラの斬撃を受け、スルトがそれ以上に吹き飛ばされる。
それにも関わらず、彼女は笑い続けていた。飛ばされたまま、リンドヴルムに命令を送る。
「ハハハハハ!! 『カタストロフ・フレイムマルクバースト』!!」
「オ……オ……オオオオオオ!!」
リンドヴルムの周囲の中空に、複数の魔法陣が展開。それらから、次々と巨大な炎弾が流星群のように降り注ぐ。
シラもまた素早く剣を構え直し、詠唱する。
「『カタストロフ・ダークネスマルクスラッシュ』!!」
〝カタストロフ・フレイムマルクバースト
魔法攻撃力:360
威力階級カタストロフ:×32
魔法威力:11520〟
〝カタストロフ・ダークネスマルクスラッシュ
魔法攻撃力:300
威力階級カタストロフ:×32
闇属性補正:×1.2
魔法威力:11520〟
爆発するような闇の噴出に包まれた魔剣は、落ちてくる炎弾の尽くを縦横無尽に切り裂いていく。
一切の無駄もなく、美麗に、そして神速に。ただの一つもその斬撃の嵐をかいくぐって彼女に届く炎弾はない。
次にその剣撃の軌跡が止まった時には、切り裂かれた全ての炎弾が黒く染まり、一気にスルト達の元へ返っていく。
吹き飛びから着地していたスルトは、すぐにリンドヴルムへと飛び乗り、次々と襲いかかってくる黒い炎弾をかわす。
「クッハハハハハ!! すげぇ、すげぇよ!! 笑うしかねえ! 泉にあるたったの一振りがこの力なのか!! どんだけ強かったんだよ、『血蒐の魔帝』って奴はよぉ!!」
しかし、それら全てを避けきることは難しく、一つがリンドヴルムに直撃する。
「ギィイイイイ!!」
リンドヴルムは吹き飛ばされる。しかし着弾するよりも早く飛び降りていたスルトは、その影響を受けることなく地に降り立っていた。
「良いだろう! 認めてやるよ、魔人ニーズヘッグ!! アンタは――この魔剣を抜くに相応しき相手だ!!」
「……ッ!!」
いよいよ、彼女も本気だった。
右手を天に掲げ、叫ぶ。
「天を焦がせ!! 地を焦がせ!! 全てはやがて界燼となる!! 世界をも切り裂く一閃よ!! 終末に咲く魔炎の剣よ!! 今再び、かの者に訣別と断罪をもたらせ――『レーヴァテイン』!!」
再び、巨悪の炎剣が世界を燃やしながら立ち上る。
今度こそ、シラはそれに真っ向から立ち向かい、魔剣ダーインスレイヴが出せる最強魔法を唱えた。
「『アルゴル・ダークネス――カイザースラッシュ』!!」
剣より噴き出した膨大な闇が形を成し、炎の巨塔にも届きうる巨大な剣となる。
レーヴァテインが、倒れ落ちる。
決着の時だった。
魔剣と魔剣が、激しく魔力の余波を周囲に撒き散らしながらぶつかり合った。
〝レーヴァテイン
魔法攻撃力:360
威力階級ディヴァイン:×128
魔法威力:46080〟
〝アルゴル・ダークネスカイザースラッシュ
魔法攻撃力:300
威力階級アルクトゥルス:×64
闇属性補正:×1.2
カイザー補正:×1.5
魔法威力:34560〟
「……くっ」
苦悶の表情を浮かべていたのは、シラの方だった。
スルトの放ってきた魔法の中でも、この魔剣だけは別格だった。
ダーインスレイヴの全力を以てしても、「黒蝕」を起こすどころか徐々に押されている。
「ハッ! 終わりだ魔王! この魔剣に勝てる奴なんざ誰もいねぇ!! アンタの負けだ!! 潰れ燃えろ!!」
認めざるを得なかった。
「……そう、だね。この勝負は……私の、負け……」
だが、その直後に彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「……でも、私達の、勝ち」
「は……?」
一瞬不審そうな表情をしたスルトだったが、すぐにそれが凍り付く。
「――そんなに、シラとの勝負は楽しかったか? 随分と、周囲の警戒が疎かじゃないか」
リンドヴルムは機能を停止し。
その身体を包んでいた炎すら消えている状態の、丸腰のスルトの背後に、ガンドを構えた信乃が立っていた。
「いつの……間に……っ!?」
「言ったろ、お前はシラとの勝負に執心し過ぎた。おかげで、接近は容易だったぞ。……お前の負けだ、魔人スルト・マイヤード」
スルトとの攻防中、炎と土埃で視界が悪くなる中、回復した信乃はシラの視界の隅にだけ映るように移動し、シラに目で合図を送っていた。
相手の大きな隙を、レーヴァテイン発動中の完全無防備状態を狙っている。
ちゃんとそれが理解出来たシラも、わざと土埃を派手に上げながら戦い、スルトに背後へ移動する信乃の存在を悟られないようにしていたのだ。
始めから、シラは信乃と共に戦っていた。
それを理解したスルトは、戦慄と焦りをその顔に浮かべる。
「ぐっ……だが! これでも血盟四天王と融合した身体だ! 今まで後衛に徹していた奴の攻撃魔法などたかが知れてる! アンタのそんなへっぽこガンドで撃てる魔法なんぞ、生身でも耐えきって……」
「そいつはどうかな?」
そう言って信乃が懐からスルトへ向けて放ったのは、大量の小型チップ形状――使い捨て魔器「タイムボンバー」だった。
「なっ……なああああああああっ!?」
流石のスルトも、動揺の声を上げる。
それに対して信乃は不敵に笑い返し――
「これが俺とシラと……金の力(貰い物)だ!! 『エクスプロージョン・バースト』!!」
「アタシとの死闘の末になんて決めゼリフ吐いてんだああああああっ!! うがああああああああああぁぁぁ!!」
――そして勇者は、引き金を引く。