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五十五話:全知全能を沈めし魔泉の蔵

 □■□



「――追加詠唱」


 赤い結晶が消えたガンドを仕舞い、その手を前に掲げる。


 信乃からの魔法を受け、銀光に包まれたシラは、導かれるようにそれを唱えていた。


「我、命を振るう者。我、幾重もの血肉を喰らい、その力を泉に沈めし者。背負うは数多の罪。成すは数多の業」


 彼女の立つ地面に大きな魔法陣が展開。


 スルトの魔力に支配されるばかりだった赤い世界に、新たなる魔力の流れが生まれる。


 その空間すら引き込まんと、空気中の膨大な量の魔力が、彼女の右手に集まっていく。


「ぐっ……なに!? なんだこの魔力の収集力!? 空気中の魔力で、魔法への更なる魔力加算を……?」


 暴風に煽られ、あのスルトすらも顔を顰めている。


 集まった魔力は真っ赤に染まり、まるで血の塊のような様相を成して、どんどん大きくなっていく。


「力はやがて武器となり、魔法となる。故にそこは、蔵となる。なれば我、魔泉よりその意味を引きずり出し、今ここに――その価値を示そう」


 手のひらよりも大きくなった血塊は、ゆっくりと地面の魔法陣に落ち、その上から更に小さな魔法陣が展開される。


 大いなる力は、形となってこの世界に波紋を起こす。


 ――そこから、水面から浮き出るように現れたそれは、一振りの真っ黒な剣だった。


「魔、器……?」


 信乃が、呆然とそれの名前を口にする。

 リンドヴルムよりも更に強い魔力を発するそれの柄を握り、シラは告げた。


「完全顕現――『ダーインスレイヴ』」


 剣から、魔力の波紋が辺り一帯へ広がる。

 その波動を受け、周囲で上がっていた火が一気に消える。


 それは、「泉」にある一振りの魔剣そのものの具現だった。


「ちっ……剣の一本が何だってんだ! リンドヴルム! 『ハイメテオ・フレイムブレス』!」

「バアアアアアア!!」


 リンドヴルムが、再び炎を吐いてくる。


〝ハイメテオ・フレイムブレス

 魔法攻撃力:360

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 魔法威力:5760〟


 シラを包んでいた銀光は消えている。だが、その剣は健在だ。


(一度呼び出せばもうこちらのもの。後の代償はシノブの強化で耐えられる。うん……いける)


 それを構え、シラは魔力を今まで以上に込めつつ唱えた。


「『ハイシャドウ・ダークネススラッシュ』!」


〝ハイシャドウ・ダークネススラッシュ

 魔法攻撃力:300

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:5760〟


 闇魔法の一閃が、炎を両断。


「なっ……!?」


 それだけには留まらない。真っ二つにされた炎は動きを止め、黒く染っていく。

 闇属性魔法が相殺以上の火力を出した時に起こる「黒蝕」が、起こっている。


「ちぃ……!」


 黒く染った炎は向きを変え、スルト達を襲う。リンドヴルムは飛翔し、それをかわした。

「黒蝕」は、五属性が相性有利で相手の魔法を撃ち破ってカウンターを入れられるのとは違い、相手の魔法を染めるのに時間がかかるため避けられやすい。


 だが、魔法を撃ってきたあのスルトを逆に引かせることが出来た。


 信乃がまだ膝を付いた状態で呆然と問いかけてくる。


「……さっきまでの闇魔法とはまるで威力が違う。シラ、お前までエクスプロージョンよりも上の階級を……」

「大丈夫だよ、シノブはまだ休んでいて。私があなたの活路を開く」


 それに対して、もう怖いものなど何も無いシラは堂々と微笑み返していた。


「――スルトという魔人()を、私達という二人(正義)が裁く。ただ、それだけのことでしょう?」


 すると驚いた顔をしたのも一瞬、すぐに彼も不敵な笑みを浮かべ、頷いてくれた。


「……ハッ、言うようになったじゃないか! ああ、そうだな! 俺が何か策を練る! だから、あの女の足止めは任せた!!」

「うん……!」


 次は、シラの方から相手に迫る。


「『ハイシャドウ・ダークネス――ツインスラッシュ』!!」

「『ハイメテオ・フレイムスラッシュ』!」


〝ハイシャドウ・ダークネスツインスラッシュ

 魔法攻撃力:300

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:5760〟


〝ハイメテオ・フレイムスラッシュ

 魔法攻撃力:360

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 魔法威力:5760〟


 放った闇の初撃が、リンドヴルムの炎の斬撃で弾かれる。

 だがシラはそのまま剣を振りかぶり、「ツイン」の二撃目の闇を纏わせて、スルト本人へ振り下ろした。


「はあああああああっ!!」

「……ッ!?」


 彼女は炎の拳でそれを止める。

 だが、今度はその炎すらも黒く侵食している。


「くっ……そがああああっ!!」


 リンドヴルムが動いて距離を取られ、中断される。

 だが、明らかにスルトには先程までの余裕は無い。


「……おい。アンタのそれ、まさか……」

「そう。これこそが、『血蒐の魔帝』の魔法『フヴェルゲルミル』の本質」


 実際にこうして「泉」の魔剣に、「血蒐の魔帝」の魔法に触れて、シラにも分かってきたことがある。それを彼女は言葉に変え、口にする。


「かの魔王は、多くの人の、魔物の血肉を喰らってきた。そして蒐めた血には、元の生体が持っていた魔力や魔法が含まれていた。それらを凝縮して形を与え、全く独自の方法で神々の造った古き魔器にすら匹敵しうる魔器を造り、更にはそれらを霊体化に近い状態で己が血に貯蔵しておく力まであった。これこそが、『血蒐の魔帝』たる所以」


「泉」とは、喰らってきた多くの者の血を取り込んだ『血蒐の魔帝』の、シラの血そのもののこと。

 己の身体そのものを「魔泉の蔵」とし、血を媒介に魔器を構築、又は霊体化した魔器の再構築する魔法を、「フヴェルゲルミル」と名付けた。

 この魔王のずるいところは、自身の体内から造り出した魔器に、無理矢理自身との使用適性、属性適性を結びつける荒技までしているところだ。


「こうして数多の最強の魔器を造り、内包し、それらを自由に顕現させて、あらゆる属性魔法を使いこなす。それこそが、ニーズヘッグ・ブラッドカイゼルという魔物の力の正体」


 ――多くの人々を殺してきたその超常の力を、今度は大切なものを守るために使う。


 シラは、再構築した魔剣ダーインスレイヴを――かつて『血蒐の魔帝』も振るっていたであろう魔器の一つをスルトに向け、言い放った。


「私の力は罪の力。ここに顕現したのはただの一振り。でも、この一振りですらあまりにも重い。――あなたに、この罪を受け止めきる覚悟はある?」

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