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四十八話:血盟四天王の実力

「バアアアァァァァッ!!」

 

 彼女の詠唱と共に、下の鉄竜の口から巨大な火炎が放射される。


「ぐつ……神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、我らが障害をこの聖域より払え――『ディヴァイン・サンクチュアリ』」


 防御魔法を展開。信乃とシラを、灼熱の炎から守る。


〝メテオ・フレイムブレス

 魔法攻撃力:360

 威力階級エクスプロージョン:×8

 魔法威力:2880〟


〝ディヴァイン・サンクチュアリ

 魔法攻撃力:150

 威力階級ディヴァイン:×128

 光属性補正:×1.2

 スフィア補正:×1.5

 魔法威力:34560〟


(余裕で……防げはする。しかし、これがエクスプロージョン級魔法だと!? 「ラタトスク・アイ」の数値で見ても、この「聖域」越しに感じる揺らぎからしても明らかに魔法威力がおかしい。なんだ、あいつの滅茶苦茶な魔法攻撃力は……!?)


 しばらく放射され続けた後にようやく炎は止まる。こちらに被害は無かったものの、その焦りだけは心に刻みつけられた。


「へえ、いい盾もってんじゃねえか。こいつは結構楽しめそうだ」

「……お前のその竜、魔物じゃないな。それも魔器なのか?」


 向こうの発言を無視して信乃がそう質問すると、スルトは尚も機嫌良さそうに答える。


「おっ、正解! 『リンドヴルム』、自立駆動魔器っつう古き魔器でも一際珍しいものでね。アタシが魔力さえ供給すりゃ、こうやって勝手に動くし、魔法だって撃ってくれる。アタシは魔物としても火属性だが、魔器適正も火属性っつう魔人でもかなり珍しいやつらしい。適当な魔法を撃つ分には、全部こいつに任せてるよ。……おら、こいつもやる気だ。これで終わりなわけねえよな?」


 スルトがそう言いつつ、魔器竜リンドヴルムが二撃目の準備をしている。


「シノブ、お願い。私の魔法の運命を……消して!」

「ああ。『泉』を開放しろ、シラ!」


 信乃達も、各々の魔法を唱えた。


「神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、我らに万夫不当の力を与えよ――『ユグノ・ブースト』!」

「我が血を喰らえ、我が血を喰らえ。我、命を喰らい蒐める者。我、泉に沈み込み、力の価値を問い続ける者。造りしは数多の像、示すは数多の意味。今、その魔泉の蔵をここに――『フヴェルゲルミル』!」


 シラはガンドに赤い結晶を纏わせ、更には極限の肉体強化がかけられる。

 これで彼女は、自傷すること無く己が魔法の力を発揮出来る。


「……リンドヴルム。『メテオ・フレイムブレス』」

「限定顕現――トライデント。『ダイダル・アクアジャベリン』!」


 相手の火魔法に対し、相性有利であるシラの水属性魔法が――


「……えっ?」


 ――出なかった。


 彼女のガンドの先端に少し水が出たものの、すぐに蒸発して消えてしまった。

 直後、相手の膨大な炎がシラの脇を通り、後ろの地面を焦がし抉った。

 その魔法は、わざと外されていた。


 思わず固まってしまったシラの様子を見て、スルトがため息を付く。


「はぁ……やっぱな。そりゃ、初見じゃそうなるわな。これで決着は流石に勘弁だよ」

「どういう……こと?」

 

 その疑問に、彼女は素直に返す。


「アタシの専用結界魔法、『ソーン・フォール』の力だよ。この結界はアタシに炎怪人スルトとしての力を付与すると同時に、結界内のあらゆる水属性魔法を無効化してしまう。つまりこの中でアタシ達の炎に属性相性有利を取るのは不可能ってことだ」

「なっ……!?」


 シラは驚き、信乃もまた深刻な顔でそれを聞いていた。


 彼女の戦闘の要が、属性相性有利で攻める戦略が、完全に潰されている。

 これが、血盟四天王(フォルス・ブラッド)、スルトの魔法。全くもって一筋縄ではいかない。


「だから、そら。アンタの次に使える属性で、アンタの出せる最大火力で来な。……次は殺すぞ」

「……ッ!」


 シラは、すぐに動いていた。


「限定顕現――グリムブック。『シャドウ・ダークネスバースト』!」


 彼女は、闇属性の強力な魔法を撃ち込む。


〝シャドウ・ダークネスバースト

 魔法攻撃力:300

 威力階級エクスプロージョン:×8

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:2880〟


 このエクストラ属性は五属性よりも火力が高めだ。相性無しにしても、かなりの威力を見込める。

 だが――


「……ぬりぃ。アタシは小手調べのためにあんな弱い魔法使ったってのによ、アンタまでその階級を使う必要はねえだろうが。――なら、アタシから一つ階級を上げてやるよ。『ハイメテオ・フレイムスラッシュ』」


〝ハイメテオ・フレイムスラッシュ

 魔法攻撃力:360

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 魔法威力:5760〟


 リンドヴルムが先程よりも更に魔力を込めた翼を振って、炎の斬撃魔法を放つ。

 それを受けたシラの魔法は「黒蝕」が発動することも無く簡単に撃ち破られ、逆に彼女が貫通してきた相手の魔法を喰らって吹き飛ばされてしまった。


「がは……っ!?」

「シラ!?」

「って、おいおい。ひょっとして、それがアンタの全力なのか? だとしたら期待外れも甚だしいぞ。そんなしょっぺえ闇魔法で、アタシを倒せるとでも思ったか? ……弱ええな、アンタ」


 スルトは、失望と呆れの様子すら見せ溜息を付いていた。

 あのシラを、弱いとすら言い放ってみせた。

 

(くそ……あの竜を「古き魔器」と言った時点で予想は付いていた。あいつ……あんな滅茶苦茶な魔法攻撃力を有していながらも、更にエクスプロージョン級以上の威力階級を……!)


 スルトの魔法攻撃力はシラ以上のものを有している。そこに一つ上の威力階級の魔法を撃たれては、確かに闇属性とは言え勝ち目はない。

 信乃の戦慄とは裏腹に、装備と肉体強化のおかげで何とか耐えられたシラは、怯むことなく口元の血を拭って立ち上がる。


「だったら、あなた自身を狙う……!」


 彼女は、再び駆け出した。対するスルトは容赦なく魔法を放つ。


「『ハイメテオ・フレイムスラッシュ』」

「……ッ!」


 シラはリンドヴルムの斬撃をぎりぎりでかわし、そのまま上にいるスルト本人に向けて刃を振り被っていた。


「限定顕現――ジュレイノツイ。『シャドウ・ダークネスインパクト』!」

「おっ、その判断はいいねぇ。確かにこのリンドヴルムを操っているのはアタシ自身。アタシさえ倒せばコイツは止まる。……だがなぁ――」


 しかしそこまで言って、彼女は燃える拳を突き出し、シラの打撃魔法を止めてしまう。


〝シャドウ・ダークネスインパクト

 魔法攻撃力:300

 威力階級エクスプロージョン:×8

 闇属性補正:×1.2

 インパクト補正:×1.2

 魔法威力:3456〟


〝ソーン・フォールの炎

 魔法攻撃力:360

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 魔法威力:5760〟


「……え?」


 そのまま片足を軸に身体を回転、がら空きになったシラの脇腹に炎の回し蹴りをお見舞いした。


「――やはり火力不足だ。アタシの纏っている炎は、そんじょそこらの魔法よりよっぽど強えんだよ」

「が……は……っ!」


 シラが再び吹き飛ばされる。その際にスルトが吐き捨てるように言っていた。


「言っただろうが。この結界でアタシには炎怪人スルトとしての力を付与されてるってよ」


「シラ!! 『ディヴァイン・ヒール』!!」


 また吹き飛ばされてしまったシラに、今信乃は精一杯回復魔法をかけてやることしか出来ない。

 シラの魔法が通じない相手に、信乃の攻撃魔法など届くはずもなかった。


 従者のリンドヴルムだけでなく、それを使役する魔女(本体)すらも簡単に滅茶苦茶な魔法威力を出してくる。

 ――勝ち筋が、まるで見えない。


「くそ……つええ。これが血盟四天王(フォルス・ブラッド)の魔人の力なのか。この、怪物め……!」


 シラに駆け寄りながら、信乃は思わずそんな悪態を付く。

 しかし、それに対して言い返したスルトの言葉が、この戦況をもっと大きく揺るがすこととなってしまった。


「はぁ? それこそ今更だぞ。……アンタは、アタシよりもよっぽどの怪物を隣に侍らしているじゃねえかよ」

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