四十五話:助けてくれる人達がいた
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ミズル王国・冒険家ギルド協会内は街中よりも騒然としていた。
「冒険家の皆さん! お願いです! たった今王国から、帝国軍と戦っている王国軍への加勢依頼も来ました! きっと、とても危険な状態なんです! 誰かこの依頼を受けてくれる方はいませんか!? お願いします……!」
この仕事に着任したばかりの若い受付嬢リナは、帝国軍と王国軍が戦っている地図の載ったクエスト依頼書の束を掲げながら、まだ残っている冒険家達へ声をかけていく。
だが、どの冒険家も皆気まずそうに顔を逸らして離れていった。腕の立つ冒険家すらも、このクエストを受けてくれようとしない。
ある者は、何故か帝国と同時にミズル王国を攻めている魔物達の討伐クエストへ向かう。
ある者はこの国から逃げる準備をしている。
「……そんな」
冒険家だからこそ、分かってしまうのだろう。
王国軍が助けを求めるということは、今ミズル王国を攻めている帝国軍は自分達にも手の負えない強さなのだということを。
皆、自分の命が惜しい。
報酬目当てで魔物討伐へ行く強い冒険家達も、クエストを終えた後はもうミズル王国には戻らないつもりなのだろう。
彼らの活動に国境はない。だからこそ、留まっている国も見捨てられる。
そんな彼らに、リナはただ私情をぶつけてしまってるだけなのかもしれない。
きっと、リナの故郷の村もまだ避難出来ていない。村には、まだ幼い弟や妹だっている。
だから彼女は走り回り、叫び続けているだけなのかもしれない。
「お願いです……! このままじゃ、ミズル王国でたくさんの被害が出ます! 多くの人の営みが、文化が、一瞬で失われてしまうんです……!」
帝国は本気だ。
多分、王国軍でもまともに抑えられない以上、ミズル王国は圧倒的なその武力を前にもう滅びる。冒険家の何人かが向かったところで、その未来は覆らない。
それでも、その時を一秒でも長く伸ばせるのなら、それだけで救われる命は増える。
「無茶を言ってるのも、危険なのも分かっています! 勝てなかったら、逃げてくれてもいい! でも、少しでもいいから加勢して欲しいんです! 『人の脅威を払い、先祖の文化を採掘し、人という種の文化を守っていく』。それが、あなた達冒険家じゃなかったんですか……!? だからお願い、助けて……助けてよ……!!」
リナは足がもつれ、転んでしまう。
その拍子に落としてしまったクエスト依頼書の束が、逃げる冒険家に踏まれてしまった。
「あ……」
リナも、そろそろ避難しなければならない。
ほとんどの魔物討伐クエストが発注されたので、もう他の受付嬢は避難している。魔人討伐など、誰も受けないと分かっていたのだろう。
リナがやっていることは、やはり無意味だったのだろうか?
「うう……ぐすっ……」
リナがその場で膝を付き、下を向いてしまった、その時だった。
目の前のクエスト依頼書を一枚、拾い上げる手があった。
「……え?」
「ちっ……想像以上に状況はまずいようだ。まさかクエストまで出ているなんてな。だが……おかげで敵の場所が分かった」
「王都で待ち構えないといけない羽目になるかと思った。でも、これならすぐに向かえる。ここを、戦場にしたくない」
そこに居たのは、全身が黒ずくめの少年と、フードを被った少女だった。
「あ……あなた達は、あの時の……?」
覚えている。確かこの前、亜人の少女の方の冒険家登録に来た二人組だ。
どうやら二人は、誰も受けなかったこのクエストを受けるようだ。
「よし、これで長居は無用だ。さっさと行くぞシラ」
「了解。シノ……アルマ」
「どう……して……?」
そんな言葉を、思わず二人に掛けてしまう。
すると彼らは、何も臆することなく答えていた。
「うん? 当然だ。『魔人達を駆逐し、人を守る』。それが俺の……俺達の使命だからな」
「これで、一網打尽」
「……」
そんなことを言う冒険家を、リナは初めて見た。
呆然となってしまった彼女に対し、少年はしゃがみ込んで声をかけた。
「ああ、それとそうだ。……助かった」
頭に、暖かい感触。
少女の方もしゃがみ込み、リナの頭を撫でている。
その様子を見て呆れたようにため息を付いてから、少年は言葉を続ける。
「さっき王都に戻って帝国の襲撃を知ったは良いものの、皆慌てて逃げていくものだから現状をろくに聞き出せず、把握出来なかった。この依頼書がなければまだ王都を彷徨う必要があった。……だから、ありがとう。諦めずに声をかけ続けてくれて。助けを求め続けてくれて」
「あ……」
無駄ではなかった。待ち続けていて、良かった。
助けてくれる人達が、ちゃんといた。
それを知り、彼女の胸の中に暖かい何かが込み上げてくる。
少年がリナの手を引き、立ち上がらせてくれる。
少女が散らばった依頼書の束を拾い上げ、渡してくれる。
「後は、俺達に任せておけ。お前も早く避難しろよ」
「ばいばい」
「……っ! は、い……! ありがとう、ございます……! どうか……お気を付けて……っ!!」
二人はリサに背を向け、颯爽とギルド協会から去っていく。
「うう……うう、ううううう……!」
リサは込み上げ続けるものを抑えられるまで、依頼書の束を抱きしめたままその場を動けなかった。




