四十四話:天地界燼へ帰す轟火の剣
こうして、ミズル王国軍と帝国の魔人軍の正面衝突が始まった。
『アースに歯向かう咎人共に、アウン様の裁きあれ。――放て』
火、風、土、雷、水。魔器の魔法、魔物由来の魔法。様々な魔法が一斉に王国軍に向けて放たれる。
「こちらも、撃てー!!」
バンズの号令と共に、王国軍も魔器の銃口を一斉に構えて魔法を放つ。
帝国軍と王国軍の間で、絶え間無く魔法が衝突。魔力の余波があちこちで飛び散り、風が荒れた。
「……っ! 焦るな! 敵の魔法をよく見ろ! 各々が相性有利を取れる魔法に、確実に狙いを定めるのだ!!」
今はそう悪い状況でもない。バンズの指揮もあってか、何とかこの魔法の雪崩を食い止めることが出来ていた。
(そうだ、今は極力兵を減らさず持ちこたえるだけでいい。ヴァーナ連邦からの援軍……は、流石に遠すぎて間に合わん。だが国民の隣国アルヴ王国への避難、そしてアルヴ王国からの増援が来るまでは時間を稼ぐのだ……!)
ミズル王国は、長年帝国への対抗策を練ってきた。
すでに隣国アルヴ王国、そしてヴァーナ連邦との同盟は結んでいる。急遽向かった使者から此度の帝国の暴挙を聞けば、すぐにかの国々も手を貸してくれるはずだ。
ミズル王国軍だけでは帝国軍に勝つことはおろか、退かせることすらも不可能だろう。
しかし、ミズル・アルヴ連合軍、更にはヴァーナ連邦軍も加われば、それも不可能ではない。
まだ避難を始めていない辺境の村人の為にも、兵達を信じて残ってくれている国王、貴族、辺境伯達の為にも、今はここを食い止めつつ、然るべき反撃に備え兵力も極力温存しなければ――
「――なんだよ、あれ……」
一人の兵士が、呆然と空を見上げながらそう言った。
「……は?」
バンズや他の兵士も空を見上げ、言葉を失った。
まだ日中の空が、赤く暗く染まっていく。
それだけではない。地平線が、遠くの山が、陽炎のように揺れて、燃えている。
世界が、燃えている。
両軍の魔法が止まっている。皆が終末のような赤い空を見上げている。
――空と大地が、啼いた。
凄まじい音と揺れと共に突如視界を埋め尽くして現れたそれは、赤い天を衝く、人が横に千人並んでもまだ届かなそうなほど太く巨大な火柱だった。
「……!! なん……だ、あれ、は……!?」
上がっているのは、丁度帝国軍のすぐ後方だ。これも魔人の魔法なのだろうか。
〝■■■■■■■
魔法攻撃力:360
威力階級ディヴァイン:×128
魔法威力:46080〟
「それ」はただ轟轟と火を立て、愚かなるこの世界を見下ろす。
全てを灰燼の終末に還すその時を、所有者と共に待ち侘びる。
『――伝令。帝国聖裁軍・第八師団に告ぐ。道を開けよ。これより落とされるは、轟火の裁断である。繰り返す。魔人の諸君、避けてくれ。これは、我々ですら蒸発する』
帝国軍側からそんな慌てた様子の伝令が入り、魔人達が左右へ蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
燃え盛る巨塔。肌をちりちりと焦がす熱。乾いていく舌。空気の爆ぜる匂い。怪物の唸り声のような轟音。
五感全てが「まずい」と、バンズの中で叫んでいる。
「た、待避!! 横だ! 左右へ早く!!」
「で、出来ません! 軍の右翼左翼共に、魔人達の集中砲火を受けています! 中央でも、足が縺れて……!」
「な……っ!? ……ならばみ、水魔法を、早く!!」
「そ、それも……で、出ません!! 水魔法が……出ないんです……!!」
「……は……うそ。なん……で。じゃあ、どうやって、あれ、を……?」
「さっきから何度も撃とうとしているのに! なんで!? どうして!? いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ!!」
――炎の裁きが、下される。
天を支え、空を焦がしていた火柱は、莫大な量の魔力と熱をでたらめに撒き散らしながら、王国軍に向けて凄まじい速度で倒れてきた。
「あ、ああああああああああ、あああ」
「は、はは、はははははははははははは」
皮膚が焼け爛れる熱量を受けながら、兵士達は恐怖に呑まれ、バンズも壊れたように笑い続ける。
それはもう、人が邂逅していい神秘ではない。
果たして、ミズル王国は今何と戦っているのだろうか?
まるで剣を振り下ろすかのように落とされたそれは、為す術もなかった王国軍を燃やし裂いた。
□■□
『ひえ……ミズル王国軍、今の一撃で半数以上が消失!! 残った兵の士気も最早絶望的かと! 流石ですなぁ、師団長殿の魔法は! このまま奴らを蹴散らし、王都へ進軍しましょうぞ!』
『……飽きた』
『……へ?』
『アタシはしばらく軍から外れる。アンタら後は適当にやっとけ。どうせ美味しい所は第六師団に持っていかれる。行くぞリンドヴルム』
『ギャオオー!!』
『ちょ……ええ!? どちらに……!?』
『ああん? 決まってんだろ! 観光だよ! ここは腐っても別の国だろうが! 折角生まれて初めての帝国の外に出る機会だってのに、こんな軍の後ろでふんぞり返ってちゃ勿体ねえ! アタシだけで適当にぶっ殺しつつこの国を散策だ! ……そうしたらどっかで、いい土産が見つかるかも知んねぇだろ?』




