四十三話:その滅びは唐突に
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ファイヤーギガスドレイク及びカースファントムの討伐を終えた信乃とシラは、周囲に草原以外の何も無い、街道を歩いてミズル王都に向かっていた。
朝一でカースファントムを討伐してから数時間、もう日はすっかり高く登っている。
王都に着いたら、まずはギルド協会で報酬を貰わなければならない。
今回は想定外の収穫があった。魔人討伐、大型魔物討伐のクエスト報酬に加え、「危険指定大型魔物」としてギルド協会に認定されていたカース・ファントムまで倒したのだ。手元にある仮面の破片を討伐証拠として提示すれば、ギルド協会からの特別報酬も降りるはずだ。
これらを全て合わせれば、借金を返済出来るどころか資金もかなり貯まるだろう。
(まだ目標金額には届かないが、それでももうそう遠くない日に達成出来るはずだ。……呪われた甲斐は、あったな)
信乃はあんな目にあった直後にも関わらず、内心期待を膨らませながら歩いていると、隣のシラが話しかけてきた。
「シノブ。そろそろ王都に着くけど、まだ昼頃。ギルド協会でクエスト完了の手続きをしても、日没までだいぶ時間がある。それまでは、どうするの?」
「ん、ああ。そうだな……新しいクエストを受けるには遅い時間だからな……」
表情では分かりにくいがどうにも期待の目を向けているシラには気付かない振りをし、考える。
今から近場のクエストを受けに行っても、さほど報酬は見込めない。ならば、今日のうちに装備を整えて、明日の朝一で複数のクエストを受けに遠出した方が良いだろう。
「買い物、だな。時間もあるし、あちこちの店を見ながらゆっくりと何を買うか吟味するか」
「……そっか」
そう言うと、シラは心無しか嬉しそうな顔になった。
彼女は、王都を見て回りたかったようだ。
(まあ、束の間の休暇くらいはくれてやるか。……頑張ってくれたしな)
そんなことを考えているうちに、王都の外壁が見えてくる。
朝の命懸けの討伐を終え、もう今日は穏やかな時間を過ごすだけなのだろう思っていた、そんな矢先のことだった。
「……?」
信乃は、違和感を覚える。
正門から出ていく馬車が、やたらと多い。見ている間にもどんどん出ていく。
しかも、その馬車の荷台に乗っているのはたくさんの人だ。
「……? 王都から、どんどん人が逃げてる?」
シラも違和感に気付いたようだ。
丁度その時、信乃達の近くを一台の馬車が通る。
馬の手網を引いていた、若い男の商人に尋ねた。
「すまない。王都には今戻ったばかりなのだが、何やら慌ただしく見える。何があったんだ?」
すると、男は顔を真っ青にしながら答えた。
「……アースだ。アース帝国が、魔人の軍を引き連れてこの王都に攻めてきた。もう今日の日没を待たないうちに、ここに到達するはずだ。……もう、ミズル王国はおしまいだ……!」
――今日という日は、まだ始まったばかりであった。
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――信乃達が王都に着く、少し前。
「総員、警戒態勢に入れ! 帝国の魔人達はもう目の前にいるぞ!!」
ミズル王国北部、マーナ高原。
草木が僅かに生い茂る平地で、ミズル王国軍は陣を構えていた。
軍の指揮を取りながら、ミズル王国将軍・バンズは内心の焦りを抑えられない。
(くそ、いずれ奴らが攻めてくる覚悟はしていた。だが、なぜこんな何の前触れもなく……?)
北方向、切り立った崖の上に、白い軍服を来た魔人達からなる大軍がこちらを見下ろしている。
数にして、約二万。これ程の数の異形の群れを見たことなど、一度もない。魑魅魍魎とはまさにこのことだ。
ミズル王国軍内でも怯えてしまっている兵士が多かったが、彼らの士気を上げるためにバンズは叫ぶ。
「恐れるな!! 別方向から攻めてくる魔物達は、勇敢な冒険家達が食い止めてくれている! おかげで我々ミズル王国軍はこことガウナ渓谷からの魔人軍の進行を止めるだけで良い! 実際ここに我々が割いた兵力は六万! ただ食い止めるだけならば、充分な戦力バランスが保たれているであろう!! 何も臆することは無い!! ゆくぞ!!」
「「お、おおおおおおおおおおっ!!」」
兵士達が立ち直ったのも束の間、魔人軍は一斉に魔器の銃口を向けた。




