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四十一話:代償の克服

 □■□



 音が続く方へ歩いた先は、信乃達がいた所とは別の洞窟だった。


 進んだ先は広い空間であった上、天井はほとんど崩れて空が見えており、洞窟内と言うよりは落ちくぼんだ地上という表現がしっくりくる。


 そこで、既に「フヴェルゲルミル」を使っているシラとカース・ファントムが戦っていた。


『コココ、キキキ……!』

「限定顕現――グリムブック。『シャドウ・ダークネスバースト』!」


〝ハイシャドウ・ダークネスバースト

 魔法攻撃力:140

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:2688〟

 

〝シャドウ・ダークネスバースト

 魔法攻撃力:280

 威力階級エクスプロージョン:×8

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:2688〟


 お互いの魔弾が衝突。余波が更に洞窟内を破壊していく。


「シラ……っ!」


 シラは、ポーションの入ったリュックを担いだまま戦っていた。


「……ぐっ」


 彼女の魔法では、回復までは出来ないらしい。

 自傷する度に、リュックから取り出したポーションを飲んで回復していた。


「限定顕現――パシュパタ。『シャドウ・ダークネスアロー』!」

『コカカカカカ……!』


 再び、闇魔法同士がぶつかる。だが昨日と違い、シラはその間に全然近づけていない。


 当然だ。確かに自傷は克服しているが、そんな重い荷物を持ったままで動けるわけがない。


 いつから、この戦いは始まっていたのだろう。ポーションが尽きるまで、彼女が倒れることはない。

 シラはまた相手の魔弾切れを狙っているのだろう。昨日の戦いを見ている分には、どうやら放てる魔法の量は彼女の方が上らしい。

 

 だが、敵も魔物とはいえそこまで付き合うほど馬鹿でもない。


『キキキキキキ……!』

「あっ……!」


 そこから数回の攻防の後、とうとう相手の思惑が達成されてしまう。


 相手の放った魔弾が、シラのリュックに直撃。中の瓶が割れ、中の液体が全てぶちまけられる。


 シラは身軽になったが、もう回復は出来ない。

 ここからの戦いは、昨日をなぞるだけだ。

 それでも、彼女は逃げようともしない。


「……ッ」


 再びの魔法の撃ち合いの中で、またシラは自傷する。


「『ディヴァイン』……うぐっ……」


 信乃は回復しようとするが、呪いのせいで上手く詠唱が出来ない。

 シラは血まみれのまま、勝てる見込みのない戦いを続ける。


「ああああああああっ!!」

「シラ……っ」


 そして彼女はまた、自傷した。


(……!!)


 その時、信乃ははっきりと見た。


 自傷した彼女の傷口から、ガンドにも纏わせている赤い結晶が飛び出ているのを。

 そこから飛び出た血が、濃密な魔力を発しながらマグマのように沸騰し、別の生き物のように蠢いているのを。


『簡単だ。ただ、その娘の人間をベースにした身体が、我が魔法に耐えられていないのだ。我が魔法は己の血を媒介とし、血管には強い魔力が流れ込む。体内の血はすぐさま沸騰し、暴れ回るだろう。それに人間に近い皮膚などでは耐えられず、突き破られてしまう』


 あの魔物の言う通りだ。


 こんなもの、魔法の代償でもなんでもない。あの常識の埒外にある魔法は、過剰量に活性化させた魔力を、それに反応して自然に起こる余剰な魔法を、彼女の身体の中に発生させていた。


 彼女の身体自体は、ほとんど人間のものだと言っていい。

 彼女が魔法を唱える度に、こんな滅茶苦茶な魔力と行先の無い魔法が体内で暴れているのなら、確かにその身体が耐えられるはずもなかったのだ。


 決して人の使える域にはない魔法。魔物の強い肉体だったからこそ許された強引な機構。

 ならばこれはシンプルな話、必要なのはあの魔法に耐えられるだけの肉体強度となる。


(なら、俺が彼女にかけるべき魔法は……!!)



 □■□



「『ディヴァイン・ヒール』!」


 自傷に耐えながら、シラが再び魔法を唱えようとした瞬間、洞窟の入口から酷く苦しそうな詠唱が聞こえた。

 直後、シラの怪我が回復する。


「シノブ……!?」


 彼は、呪いで酷く苦しそうだ。そんな状態で魔法を唱えるなど、自殺行為に等しい。


(だめ……やめて、シノブ。これじゃあ、あなたを置いてきた意味が……!)


 彼はよろけて倒れそうになったが、左足をしっかりと地面に踏み込み、ぎりぎりで耐える。


 そしてすぐに、肺から絞り出すような声で、その詠唱を捻り出した。


「神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、かの者に万夫不当の力を与えよ――『ユグノ・ブースト』!!」


「……っ!」


 シラの身体を、黄光が包み込む。


(これは、魔法威力の強化? ……違う、魔法攻撃力の強化は少しだけで、肉体への耐久強化にその分全部を回されている……まさか……!)


 再び、シラは信乃の方を見る。

 彼はもう虫の息で、杖で身体を支えながらも、目でシラに「行け」と訴えている。


「……うん!」


 シラは、再びカース・ファントムの方へ走り出した。


『カカカカカカ……!』


〝ハイシャドウ・ダークネスマルクバースト

 魔法攻撃力:140

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:2688〟


 魔力を溜め込んでいたカース・ファントムは、これで終わりだと言わんばかりに連続で魔弾を放ってくる。それに真っ向からシラも魔法をぶつけた。


「限定顕現――ハデスの書。『シャドウ・ダークネスマルクバースト』!」


〝シャドウ・ダークネスマルクバースト

 魔法攻撃力:300

 威力階級エクスプロージョン:×8

 闇属性補正:×1.2

 魔法威力:2880〟


 濃密な影を凝縮させたガンドの銃口から繰り出される無数の魔弾が、飛んできた魔弾の尽くを撃ち落としていく。


 やがて来るはずの代償は――来なかった。


「……!!」


 身体の中で強い力が動く、嫌な感触はあった。だが身体が破られることはなく、そのまま抑え込まれる。

 これが、彼の強化の狙いだったようだ。


(……嬉しい。身体が軽い。やっぱり、シノブは凄いよ)


 彼の魔法が、この魔法の定めすらも打ち消してくれた。

 ならば、撃ち続けられる。


「はああああああああっ!!」


 魔力の放出を、魔法の行使を続ける。

 魔弾を撃ち落としながら、どんどんカース・ファントムへ近づいていく。痛みで足も魔法も止まってしまうことすらももうない。


 代償もないのであれば、元より実力は足の速いこちらの方が圧倒的に上だった。


『ココ……キッ……!?』


 カース・ファントムは大いに焦る。上空に逃げ始めていたが、もう遅かった。


「……捕まえた」


 跳び上がったシラは、しっかりとカース・ファントムの仮面の縁を掴んでいる。これでもう「反霊体」を使えない。


『コッ……コッ……!?』


 悪足掻き。相手は仮面を激しく揺らし、シラを落とそうとする。


「だめ、もう逃がさない。シノブをあんな目にあわせたお前だけは、絶対に許さない……ここで潰れろ。限定顕現――パンドラボックス。『シャドウ・グラビティホール』」


〝シャドウ・グラビティホール

 魔法攻撃力:300

 威力階級エクスプロージョン:×8

 闇属性補正:×1.2

 グラビティ補正:×1.2

 魔法威力:3456〟


 シラは、最後の魔法を唱えた。

 突き付けたガンドの銃口の先、仮面の目の前に、小さな黒い穴が発生する。


『キ……ギ……ッ』


 カース・ファントムはそれの中に吸い込まれていく。

 仮面はひしゃげて壊れ、手袋は潰れ、あっという間に取り込まれてしまった。

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