三十七話:噴火は赤く、血も赤く
『コ……!? ギギィ……!!』
カース・ファントムが驚いた様子を見せる。
魔弾が影の矢と衝突すると、何事もなく相殺した。
「シラ、今の魔法……まさかお前も闇属性を!?」
彼女の隠し玉に、信乃は驚く。
以前のキンジの話に付け加えると、このエクストラ属性の特性は、同じエクストラ属性の魔法相手には働かないそうだ。
つまり実質、エクストラ属性に有効なのは同じエクストラ属性ということになる。
しかも、彼女の高い魔法攻撃力のおかげで威力階級がひとつ上の闇属性とも渡り合えている。
しかしこの朗報とは打って変わって、シラは苦悶の表情を浮かべていた。
「う……くっ……!」
代償が彼女を襲い、血を噴き出して膝を付く。しかも先ほどまでのよりも裂傷が多く、出血量も多い。
「『ディヴァイン・ヒール』!! おい、大丈夫か!? 闇属性は、代償が大きいのか!? 『回復頻度を増やしてほしい』とは、そういう……!」
「……うん、大、丈夫……ありがとう」
回復の終わったシラはそう言って立ち上がるものの、少しふらついている。
回復魔法は肉体の時間遡行ではない。肉体再生力・再生速度を上げて怪我を治すが、失った血や肉をきれいさっぱり取り戻せるわけではないのだ。
彼女は代償を負う度、回復をしようが確実に身体の組織を失っていく。
(クソ……この戦い方、これ以上は長引かせるべきではない……!)
『キキキキキ……!』
カース・ファントムは、再び魔弾を放ってくる。シラも動き出し、応戦した。
「『シャドウ・ダークネスアロー』……!!」
この戦いに必要なのは、ただ闇雲に高い火力ではない。相手の魔弾をいなしつつ、接近していく根気強さだ。
その意味ではシラの火力は充分。あとは耐久力を信乃の回復で補う必要がある。
シラが闇魔法を放って魔弾を迎撃し、代償で負傷。極力血が流れ出す量を減らすため、それを即座に信乃が治す。
何度かそれを繰り返すうち、勝機が見えてきた。
カース・ファントムは飛んでいるが、動きが早いわけではない。魔弾を打ち落としながら俊敏な動きで近づいてくるシラに対して、距離を放せるどころか近づかれている。
彼女があの仮面に触った瞬間に勝利が決まる。その距離まで、あと魔弾数回分だ。
(俺の魔力もまだ余裕はある。これなら……!)
――ゴシャアアアアアア!!
だがその時、本当にタイミングの悪いことに、火山が噴火した。
「な……っ!?」
火口からの噴火ではない。近くの斜面一部崩壊する小さな噴火であり、溶岩や火山灰が巻き上がるものではなかった。
だが大きな揺れが起こり、シラの動きが止まる。その隙に、カース・ファントムが距離を離す。
「ぐっ……!?」
そして、今の揺れで信乃は足を滑らせ、火山の斜面へ落ちていってしまった。
「……!? シノブ!? シノブーー!!」
シラの声が遠くなる。揺れの中での魔弾の迎撃に精一杯で、こちらに来られる余裕もなさそうだった。
「く……っ! 『ユグノ・ブースト』!! 全て肉体強化に回せ!」
自分の肉体耐久や装備耐久強化に、魔法攻撃力や移動といったそれ以外への強化分もほぼ全て回した強化魔法をかける。掛ける際にこのような調節を行える所も、この強化魔法の利点の一つだ(残念ながら魔法攻撃力強化は今までのものが最大で、あれ以上は増やせないが)。
そうして防御力を極度に上げ、何度か落下の衝撃に耐えた後、ようやく斜面に捕まって止まった。
火山の噴火も終わっていた。地震も収まっている。これだけの激しい落下に関わらず、とてつもない肉体防御強化のおかげで信乃にもほとんど怪我はない。
だが、信乃の内心の動悸は全く収まらない。
(まずい、シラが火口に取り残された。ここからでは、回復も届かない……!)
すぐに、必死によじ登り始める。火口までの距離はかなりある。随分と転がり落ちてしまった。
(回復をしてやるって言ったのに、何をやっているんだ俺は!! 早くしないと、あいつが……!!)
しかも、途中でまだ生き残っているファイヤー・リザード達が現れ、行く手をふさいでくる。
「邪魔だ雑魚共!! どけええええええええええええっ!! 『エクスプロージョン・バースト』!!」
魔法で相手を蹴散らしながら、信乃は再び火山を登っていった。
□■□
また火口に戻ってきた信乃が見たのは、目を覆いたくなるような光景だった。
カース・ファントムは、ほとんど弱っているようには見えない。魔弾を撃ちすぎて魔力が減ってきているのか、周りで揺らめく黒いオーラが少し小さく見える程度だ。
「あ……」
そして、その前にいるシラの全身には多くの裂傷が走り、大量の血が流れ出ている。黒と灰色の装備も赤く染まっている。まだ立っているのが不思議な状態だった。
しかもその少し後ろ、信乃が登ってきた側には数体、ファイヤー・リザードが腕を組んで立っている。彼女が逃げ出せないように見張っていたようだ。登ってきた信乃に気付くと、こちらに向き直ってくる。
「『エクスプロージョン・バースト』」
最大級の殺意を込めて彼らを粉々に吹き飛ばす。そしてすぐに彼女の名前を呼ぶ。
「シラ……シラァァァァァァァァァッ!!」
だが、それすらも聞こえていないようだった。彼女はまたカース・ファントムの方へ前進する。
「『シャドウ・ダークネスアロー』」
魔弾と黒い矢が同時に放たれる。
魔弾はシラのすぐ横の地面に着弾し、その余波で彼女が横に倒れる。黒い矢はカース・ファントムの仮面をすり抜ける。
『……キィ……』
向こうもあまり魔力が無かったのと、信乃が戻ってきたからこれ以上の戦闘は出来ないと判断したのだろうか。
そこで、カース・ファントムは撤退していった。
だが、もうシラにそれを追える余力は残っていない。
「『ディヴァイン・ヒール』!! 『ディヴァイン・ヒール』!!」
信乃は何度も回復をかけつつ倒れている彼女に駆け寄る。裂傷は全部回復出来たが、とにかく流れ出た血の量が酷い。
「大丈夫か!? しっかりしろシラ!!」
抱き起し呼びかけると、彼女はゆっくりと目を開ける。
虚ろな目でこちらを見て――
「……あ……う……ッ」
余りにも突然の出来事に、身体が動かなかった。
彼女は信乃を、押し倒していた。
「ッ!? シ、ラ……?」
その顔が、近くにある。
息が荒い。見開かれた目の焦点が合っていない。その口元からは、涎が垂れている。
「が……あ……!」
「……!」
シラはそのまま、こちらに向けて口を大きく開けて――




