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三十五話:火口の親玉

 □■□



 ファイヤー・リザード達を蹴散らすように進んだ先の、火山頂上。

 落ち窪んだ火口の中、煮えたぎる溶岩の淵にあった大きな岩場に、それはいた。


「ギギ……ゴゴ……!」


 四つん這いになった赤い巨体。その高さだけでも信乃達の身長を優に超えている。胴も、四肢も、しっぽも、全てが巨木のように太い。

 一応竜種で、顔もドラゴンではあるものの、翼がないので超巨大なトカゲと言った方がしっくりくる。


「あれが、ファイヤー・ギガスドレイク」

「ああ。……来るぞ、シラ」


 広い幅のある火口の縁から覗き込んでいた信乃とシラに気付くなり、その火山のボスは火魔法――超巨大な炎を吐き出した。

 さっきまでファイヤー・リザード達が吐いていたものとは、大きさも威力もまるで違う。


〝ハイメテオ・フレイムブレス

 魔法攻撃力:150

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 魔法威力:2400〟


「「『エクスプロージョン・バースト』!」」


〝エクスプロージョン・バースト

 魔法攻撃力:150

 威力階級エクスプロージョン:×8

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:960〟


〝エクスプロージョン・バースト

 魔法攻撃力:220

 威力階級エクスプロージョン:×8

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:1408〟


 シラと同時に最大魔法を当てるものの、貫通は出来ず相打ちに終わってしまった。


「くっ……もう一度だ。『エクスプロージョン・バースト』!」

「『エクスプロージョン・バースト』!」


 すぐに二人で魔法を放つが、再び吐かれた炎でまた阻まれてしまう。あれ程の魔法を連射出来るようだ。

 それだけではない。ファイヤー・ギガスドレイクはその巨体に見合わない俊敏さで火口の壁をよじ登り始め、こちらに接近してくる。

 しかも、その間にも追いついてきたファイヤー・リザード軍団数十体も斜面をよじ登り、火口の淵ごとぐるりと信乃達を囲んでしまった。


(奴の魔法が、強過ぎる。この攻防で倒せなかったか。やはり、魔人と大型魔物では全然勝手が違う……)


 考えてもみれば、大型魔物は信乃にとって今まで倒してきた魔人以上に強敵な存在だ。


 強化した無属性魔法で、属性相性不利を取られずにごり押すのが信乃の戦い方だ。魔人の魔法ならば威力で渡り合うことが出来たため、戦うことが出来た。

 しかし、大型魔物の魔法は更に強力だ。並の人間一人が属性相性有利を取っても負けてしまう程らしい。ならば、流石に属性相性無しで押し勝つのは信乃でも不可能だろう。


「シノブ」


 あの巨大な炎を目の当たりにし、シラが真っ直ぐに信乃を見つめてくる。

 信乃は、観念して問いかけていた。


「……使うんだな、あれを?」


 すると彼女は、なんの迷いもなく答える。


「うん。でも回復をいっぱい、お願い。シノブの魔力消費を激しくしてしまいそうだから、強化も解除してくれていい。……それでも、十分に倒せる」

「……そうか。確かに強化すらも無駄な魔力、か」


 そんなシラの案を素直に承諾しつつ、信乃は彼女に命令を下す。


「いいだろう。『泉』を開放しろ、シラ。お前に降りかかる代償は俺が全て回復しよう。だからお前の力、今ここで存分に振るえ」

「……うん」


 シラは、重いリュックをその場に下ろす。


 二人にかかっている「ユグノ・ブースト」を解除。ここからは、信乃は回復に専念するために消費魔力をカットする必要がある。


 場の空気が変わる。それを感じたのか、ファイヤー・リザード達が怯む。


 ガンドを構え、水面に飛び込む準備をするかのようにゆっくりと息を吸い込んでから、彼女は唱えた。


「我が血を喰らえ、我が血を喰らえ。我、命を喰らい蒐める者。我、泉に沈み込み、力の価値を問い続ける者。造りしは数多の像、示すは数多の意味。今、その魔泉の蔵をここに――『フヴェルゲルミル』」


 彼女から膨大な魔力が膨れ上がってくる。

前見た時と同じように、彼女の持つガンドが血のような赤い結晶に覆われ、刃が生える。


「汎用媒体、形成完了。限定顕現――トリトンスタッフ。……伏せて、シノブ」

「グオオオオッ!!」


 ファイヤー・リザード達が炎を吐いてくる。それ諸共、彼女は呑み込んだ。


「『ダイダル・アクアストーム』」


〝メガロ・フレイムブレス

 魔法威力:120〟


〝ダイダル・アクアストーム

 魔法攻撃力:280

 威力階級エクスプロージョン:×8

 属性相性有利:×2

 魔法威力:4480〟


 火山の頂上で、大きな渦潮が発生する。一斉に襲いかかってきていた火魔法は全て一瞬で掻き消え、ここに登ってきていたファイヤー・リザード達も一匹残らず流されて巻き上がった。

 それだけでは終わらない。


「限定顕現――シャムシール。『メガロ・アクアマルクスラッシュ』」


〝メガロ・アクアマルクスラッシュ

 魔法攻撃力:280

 威力階級メガロ:×2

 魔法威力:560〟


 念の為の追撃。上に一飛びし、赤いガンドの刃の角度を少しずつ変えながら高速回転。再び彼女が地に降り立った一瞬後、中空にいた彼ら全ての首元から水しぶきと血しぶきが飛び散る。その生死はもはや問うまでもない。


「……すっげ」


 信乃の口から、思わずそんな小声が漏れてしまう。

「ストーム」や「マルク」の攻撃形態詠唱が付く魔法は、所謂「全体攻撃魔法」と呼ばれるものだ。

 前者は発生させた魔法竜巻のあらゆる箇所に同数値の魔法威力判定を有し、どれだけ相手の魔法が来ようがその一つ一つの威力が負けていれば全て弾いてしまう。後者はもっとシンプルで、同じ魔法を連続で撃ち続けるというものだ。


 つまり、その二つの攻撃形態詠唱まで使えてしまう彼女にとって雑魚が何体来ようが敵ではない。属性数や魔法威力も凄いが、使用できる詠唱の幅広さも彼女を強者たらしめている。


 こうしてここに集結していたほぼ全勢力のファイヤー・リザード達が、あっという間に全滅した。


「……ッ」

「『ディヴァイン・ヒール』」


 彼女に代償が来たのか、身体の数か所に裂傷を覆う。だが、信乃がすぐに回復をしていた。


「大丈夫か?」

「うん。まだここで倒れるわけにはいかない、ありがとう。……来た」


 哀れ、登っている間にほぼ子分を失ったファイヤー・ギガスドレイクが目の前に現れる。いよいよ火口淵での決戦となった。


(……?)


 その時、信乃は少し違和感を覚える。

 ファイヤー・ギガスドレイクの赤い身体が、思った以上に赤ではない。少しくすんだ茶色にも見える。あと、よく見ると身体のあちこちに傷跡がある。

 それに、目が何やら虚ろのような――


「……ゴ……キ……ッ」


 しかし、呑気に観察している暇もない。

 相手はこちらに向けてまた大きな炎を吐いてくる。


「属性相性有利とはいえ、相手の魔法は強い。ならばなるべく威力を減衰させないよう、魔力を一点集中させて貫通させる。限定顕現――トライデント。『ダイダル・アクアジャベリン』」


 そう呟いたシラは、赤いガンドの前に巨大な水の槍を呼び出し、勢いよく発射。


〝ハイメテオ・フレイムブレス

 魔法攻撃力:150

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 魔法威力:2400〟


〝ダイダル・アクアジャベリン

 魔法攻撃力:280

 威力階級エクスプロージョン:×8

 ジャベリン補正:×1.2

 属性相性有利:×2

 魔法威力:5376〟


 それは相手の炎を突き破り、その脳天に突き刺さる。一方信乃達には残った炎が飛んできたが、中央を大きく貫通された穴を潜り避けられた。

 属性相性有利とは言え、大型魔物の魔法を彼女は一人で易々と撃ち破ってしまった。


(ハイエクスプロージョン級と相性有利のエクスプロージョン級がぶつかれば、それはもう計算上単純な威力比べみたいなものになる。だがシラは「フヴェルゲルミル」を唱えることで、俺の強化以上に魔法攻撃力が滅茶苦茶に上昇し……こうして大型魔物の魔法を圧倒した。まじでなんなんだこいつ……)


 何とか見慣れてきたとは言え、やはり彼女の叩き出すその威力数値は暴力的と言わざる負えなかった。


 ちなみに今更の補足ではあるが、魔法同士が衝突した際に「ラタトスク・アイ」によって表示される「属性相性有利:×2」によって増えた数値は実際の魔法威力ではない。あくまでも相手の魔法と威力比較するためにつく補正値が伴った誇張だ。それが相手の魔法を突き破り、術者に与えるダメージはこの補正がかかる前の本来の魔法威力のものとなる。この仕様だけ少し間違えやすくややこしい。


「……キ……キ……」


 ファイヤー・ギガスドレイクの動きが止まった様子を見て、シラはすかさずとどめを放った。


「限定顕現――クビラノタチ。『ギガント・アクアスラッシュ』」


 水の斬撃が、ファイヤー・ギガスドレイクを両断。

 これで終わった――と安堵した信乃だったが、次の瞬間にはその表情が凍り付くこととなる。


 真っ二つに切られた断面。

 そこから血しぶきは一切飛び散ることはなく、代わりに腐った肉がドロリと滑り落ちていた。 

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