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三十四話:大型魔物

 □■□



 魔物全てが魔人より弱いかと言われれば、全くもってそうではない。


 例えば魔物達の群れを率いる長になるような大型魔物は、武器型魔器が普及した現在でも危険視される存在だ。

 その脅威はシンプルで、小型魔物よりも力が強く、魔法攻撃力が高くて、更に使える魔法自体も強い。


 小型魔物が使う魔法の想定威力階級は、初級〜エクスプロージョン級。上位ならギガント級〜エクスプロージョン級。

 そして、大型魔物が使う魔法の想定威力階級は、エクスプロージョン級〜エクスプロージョン級よりも更に上位――「ハイエクスプロージョン級」となる。


 確かに、魔物の魔法が使える上、魔器まで使える魔人は強い。

 だが上位の小型魔物が素体となった一般兵レベルの魔人だと、属性有利が取れなければ魔法自体が遥かに強力な大型魔物には絶対に勝てない。魔人のアドバンテージとは二属性を持つことで魔法の相性有利を取られにくい・取りやすいところであり、決して単純な力比べが強いというわけではないからだ。


 このように、魔人とは強さのベクトルが全然違うが、やはり冒険家が好んで倒したいと考えるのは大型魔物だろう。

 昔からいるので知見も多く、情報を得やすいから対策を立てやすい。

 いくら魔法が強力とは言え、使う属性も一つ。数人がかりでそれへの属性有利さえ取れれば、倒せない相手ではない。

 頭もそれほど良くないものがほとんどで戦い方は単調のため、魔人のような狡猾な戦い方はあまりしてこない。

 そして被害をむやみに大きくしやすいから、報酬金が高くなりやすい。

 

 近隣で一緒に受けていた魔人討伐クエストを二人で迅速に片づけた後、信乃とシラは大型魔物である「ファイヤー・ギガスドレイク」を討伐するため、ミズル王国南部の今も噴火活動をしているガルナ火山にやってきていた。


「結局、ちゃんと魔人も倒せたね。初陣成功」

「当たり前だ。俺達の目的はあくまでも魔人を倒すことだからな。こっちはついで……そう、ついでだ」


 金も大事だが、やはり日々人間を脅かす魔人を倒していく必要もある。今後も魔人討伐と金銭稼ぎのための大型魔物討伐を兼用出来ればよいのだが。


(……とは言え、初の大型魔物討伐で気を引き締めるという意味では、今回はこっちが本命なのは否めない)


 まだふもと付近ではあるものの、そのすぐ横では溶岩が流れていて暑い。何度か小さな噴火が起こっているのか、巻き上がった火山灰で空が暗い。


 使い捨て魔器等をほとんど買えなかったから、信乃のバックは軽い。一方で、律儀に買ってきたポーションを全部持ってきたのか、シラのリュックは大きかった。


 彼女は、黒い岩肌や溶岩をじっと見ている。


「……これが、本に載っていた火山」

「こういうのも見たことが……いや、覚えていないのか?」

「うん。でも、何となく覚えていないというよりは初めて見た気がする。この火山だけじゃない。シノブと見た景色の、何もかもを」

「まあ火山は流石に珍しいが……そうか」


 街、草原、村。これまでにも彼女は目に飛び込んでくるあらゆる景色を感慨深そうに眺めていた節があった。

 もしも本当にそれらを初めて見たというのなら、彼女のいた帝国とはどんなところだったのだろうか?


(……そろそろ敵地だ。呑気に別のことを考えている暇はない)


 信乃は、そんな脱線しかけた思考を戻す。


(今回の内容自体はシンプルな魔物退治。普段はこういう依頼を受けないからよく分からないが……しかし魔物達が急に暴れ出した、というのが何か引っかかるな……)


 そう考えながら登山をしていると、前を歩くシラが立ち止まる。


「シノブ。来てる」

「……早いな。親分は火口付近にいるって話だが……こんなところからもう子分でもてなしてくれるのか」


 ごつごつとした斜面の向こう側から、男性の背丈程はある二足歩行の赤い大トカゲが十数体、ぞろぞろと姿を表した。


「フシュルルルル……」


 クエストにもあった、取り巻きの魔物『ファイヤー・リザード』だ。彼らは群れを成し、『ファイヤー・ギガスドレイク』を守っているのだろう。


 出会い頭に、彼らはいきなりこちらに向けて火魔法を一斉に吐いてくる。


〝メガロ・フレイムブレス

 魔法攻撃力:60

 威力階級メガロ:×2

 魔法威力:120〟


「神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、我らが障害をこの聖域より払え――『ディヴァイン・サンクチュアリ』」


〝ディヴァイン・サンクチュアリ

 魔法攻撃力:50

 威力階級ディヴァイン:×128

 光属性補正:×1.2

 スフィア補正:×1.5

 魔法威力:11520〟


 継世杖リーブを顕現させ、信乃とシラの周囲に防御魔法を展開して防ぐ。ユグノ・ブーストの強化はまだだったが充分だ。魔物相手ならば、惜しみなく神杖を晒せるのはありがたい。

 シラも、魔法を唱えようとする。


「『フヴェル……』」

「……っ」


 ――信乃の頭に過ぎったのは、全身から血を吹き出して倒れる彼女の姿だった。


「待て、シラ。まだそれを唱えるな」

「……? どうして? 水属性なら、彼らを簡単に倒せるよ?」

「そこまでやってやるほどの相手じゃない、その魔法はまだ取っておけ。さっきの魔人討伐と同じだ。俺が強化するから、一緒にガンドの無属性で切り抜けるぞ」

「分かった」


 そんなやり取りの後、信乃は再び魔法を唱える。


「『ユグノ・ブースト』!」


 強化が終わり次第、防御魔法の切れたその場からすぐに二人で駆け出す。


「「『ギガント・バースト』!!」」


〝ギガント・バースト

 魔法攻撃力:150

 威力階級ギガント:×4

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:480〟


〝ギガント・バースト

 魔法攻撃力:220

 威力階級ギガント:×4

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:704〟


 シラと、魔法の詠唱が重なる。

 その先手で、場にいたファイヤーリザードの半分以上が吹き飛んでいた。「エクスプロージョン・バースト」なら、全滅も狙えたかもしれない。


 残ったファイヤーリザード達は怯んだが、その中の一体がまた火魔法を吐いてきた。


「『メガロ・バースト』」


〝メガロ・フレイムブレス

 魔法威力:120〟


〝メガロ・バースト

 魔法攻撃力:220

 威力階級メガロ:×2

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:352〟


 シラが放った魔法は、炎魔法を貫通。そのまま術者のファイヤーリザードに風穴を空けていた。


 流石は魔人。どうやら「フヴェルゲルミル」を使うことで滅茶苦茶に魔法攻撃力が上がるようだが、素でも全然高いようで(大体120はあるようだ。これでも人間ならばほんのひと握りにしか入らない数値だ)、強化すれば無属性ガンドでも充分すぎる威力を出してくれる。小型魔物どころか、そこら辺の魔人を数体相手するのにも全く不足はないだろう。実際、さっき戦った魔人もこの状態のシラとの連携で余裕で倒せた。


「『メガロ・バースト』」

「『バースト』」

「ギ、ギィィィィ!?」


 二人の連携射撃で、あっという間に相手の第一波が壊滅。

 だがそれも束の間、ぞろぞろとまたファイヤーリザードの群れが這い出てくる。


「ちっ……キリがないな。ならば先に火口へ向かい、親玉を仕留める。行く手を塞ぐものだけを削りつつ進むぞ、シラ!」

「了解」


 声を掛け合いつつ、二人は火山の斜面を駆け上がった。

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