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五話:トネリコ村へ

 □■□



 ロアと名乗った少女は、兵士に見つからないように信乃を荷物をどっさり積んだ馬車に乗せ、王都から出て街道を進んでいた。


「ふぅ……酷い目にあった」

「お疲れ様。ほとぼりが冷めるまでは、あなたはあのミズル王都に行かない方がいいかもね」

「うっす……ありがとうございます、助かりましたロアさん」

「畏まらなくていいわよ。ロアも呼び捨てでいいし。私もあなたを信乃って呼ぶわ」


 気さくな笑顔がひたすらに眩しい。間違いなく彼女は光属性、陽キャ、リア充の部類であろう。学校のクラスなら中心掌握間違いなしだ。

 闇属性、陰キャ、非モテとまるで正反対の信乃が相入れられるかどうか分からないが、恩人兼貴重な情報源でもあるし邪険には出来るはずもなかった。


「……ん、了解っす。そうさせてもらうよ、ロア」


 そう何の気もなく返したものの、同世代の少女を、しかも美人を呼び捨て。それを自覚した途端耐性の無かった信乃は赤面してしまう。


(落ち着け……異世界で美少女エンカウントはお約束、異世界で美少女エンカウントはお約束……!)


 馬の手網を引くロアから目を逸らし、信乃は荷台の端に頬杖を突きながら日の傾き始めた外の光景を眺める。


 舗装のされていない土の道。その両側に広がるだだっ広い草原に山。


「こんな雄大な風景、アニメやゲームとかでしか見たことなかった。やっぱりここはファンタジー世界、なんだよな……?」

「どうしたの? 馬車にでも酔った?」

「あ、気にしないでくれ、大丈夫。馬車の乗り心地は存外、いやびっくりするくらい最高だよ」

「それならいいけど。……あ、見えた。あれが私達のトネリコ村よ」


 ロアの指差した、今いる丘のふもとの方を見ると、これまたファンタジーの村があった。

 人の背丈の何倍もの高さがある外壁にぐるりと広く囲われた村の内部では、街のレンガ造りの建物とは違う、木材を頑丈に組み上げた大きい家々が並んでいる。畑には作物が実り、家畜までいた。


「こりゃまた、見事な村……!」

「ふふ。お気に召したようで何よりでございますよ、勇者様」


 またその呼び名を言ったロアを見る。


「なあ。王都でもあんな反応だったのに、どうしてあんたは俺を勇者だと言うんだ?」


 召喚者は不在。国も信乃の召喚など知らない。見た目は非武装の変な格好をした少年。

 自身が思うのもなんだが、今の信乃にはとても世界を救う勇者の要素はない。


「まさか、あんたが俺の召喚者だったり……?」

「あはは、違うわよ。私にそんな異世界召喚魔法なんて大層なものは使えないわ。まあ、詳しいことは村に着いてから色々話してあげる。それも含めて、ね」


 しかし、ロアはまた笑顔を向けるだけだった。


「色々と知りたいんでしょ? この世界の現状、とかね」



 □■□



 村に着くと、年老いた男性が出迎えてくれた。


「おお、おかえりロアや。作物の売れ行きはどうじゃった?」

「良好よ村長。戦いも多いのか、食糧は必要みたい。貯まったお金で不足してた香辛料とかも買えちゃった」

「それはそれは。……ところで、そちらの方は?」

「あ……うっす、どうも。えっと……」


 村長に見られた信乃はどう自己紹介したものかと言葉を濁していると、代わりにロアが得意げに紹介してくれた。


「こちらは街で出会った有麻信乃君よ。どうやら困っていたようだったから連れてきちゃった」

「おお……これはどうも、こんな辺境の村まではるばると。何もない所ですが、ゆっくりとしていってください」

「どうもっす、信乃です。お世話になるっす……」


 我ながら陰キャ全開の挨拶だなおい、と信乃は思う。


「それよりも、この不思議な衣装。これって村長が語り継いでる伝承通りじゃない?」

「ん……お、おお……!?」


 ロアの言葉に不思議そうに眉を細めこちらを見ていた村長だったが、すぐに目を見開き崩れ落ちてしまった。


「お、おい。じいさん……!?」

「……間違い、ない。性別こそ違えど、その服装。間違いなくあの時村に留まってくれていた――『銀麗の巫女』の最初の服装に類似したもの。では……貴方様は……!」

「え、えっと……?」

「あれを見て、信乃」


 全く身に覚えのない肩書きを聞いて困惑する信乃に対し、ロアが村長の後方を指差す。


 その先の村中央の広場に、銀でできた像がある。お姫様のようなドレスを身にまとった少女と、その手に持った杖が端正に掘られていた。

 少女はとても凛々しく美しかったが、杖もどこか人の物を超越したような造形をしている。先端の球とそれを螺旋状に幾つも囲むように伸びる突起達は、華を示しているのか、それとも珠と龍を示しているのか。


「あの人こそが、二十年前に世界を救うために異世界より現れた勇者達の一人。神器である杖を携えて魔物達を聖なる光で浄化し、数多くの者の傷を癒した伝説の杖使い。美しい容姿と長く煌びやかな銀髪にちなんで『銀麗の巫女』なんて呼ばれていた人よ。彼女が一番初めに訪れた村がここだったから、記念に像を立て、その武勇を村の伝承にもしているの」

「……! 二十年前の勇者……じゃあ彼女が、彼女達が魔王を倒したっていう……!」

「そう、彼女達は大冒険の末に魔王を倒し、世界には平和が訪れる……その、はずだった」


 ロアの表情が急に曇り、信乃はその先こそが自分がここに喚ばれた理由なのだと悟る。


「教えてくれロア。今、この世界では何が起こっている?」

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