三十二話:いつか見た面影
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「おじいさん。これ、全部魔法の発生機構……魔器だよ。シノブから貰ったものと同じ。なんでこんなにたくさんあるの?」
「これかぁ(でれぇ)? それは、ここが武器屋だからじゃ。ここにあるのは全部……そう、全部わしが造ったものなんじゃよぉ(でれでれ)」
「おい全部じゃないだろオヤジ。俺が造ったのも……」
「うっさいわ黙っとれ馬鹿息子」
「これ、全部おじいさんが造ったの? おじいさん、すごい」
「おうふ……そうじゃろ? そうじゃろぉ(でれっでれ)?」
美少女シラが興味深々に商品棚に並ぶ魔器達を眺め、それらの説明を目尻下げまくり完全骨抜きになってしまったクソジジイもといキンジがするという図を信乃とギンカが眺めながら、ギンカは信乃に耳打ちをした。
(おいいあんちゃん……女か。あんな美少女どっから連れてきた? 大丈夫かあんちゃん、若気の至りに走って誘拐とかしてないよな……?)
(言葉には気を付けろよ武器屋風情が。ここでお前の脳天をぶっ飛ばすぞ)
(怖!? じゃあ何だってんだよあの子はよぉーー!?)
想定外だ。
シラを連れているところを、唯一の知り合いとなってしまったこの親子にだけは見られたくなかった。
彼女が勝手にこの武器屋へ来なければ、絶対に別の所へ行ったというのに。
しかしもう入ってしまったものは仕方がない。咳払いをして、聞いているかも分からないキンジにも聞こえるように来店の趣旨を説明する。
「そ、そいつはだな! ……ただ成り行きで拾った。今後俺と共にクエストに同行することになったから、なんか適当な装備を見繕ってもらいたい」
それを聞いた武器屋親子は顔を見合わせ、近づくと信乃を見ながらわざと彼に聞こえるような音量で言い合う。
「拾った? あんな美少女をただ成り行きで拾ったんだってよオヤジ。聞きました? でもってクエストにまで連れて行くから、装備を整えたいんですって。ありゃもう独占欲全開だな……ぶふぅ」
「これ止めんかギンカ……ぶふぅ。信乃様も年頃の男。堅物そうな振る舞いをしながらもの、ああいったミステリアスかつ天然気質な女の子にはきっと弱いんじゃよ。あわよくば彼女の全てを開拓し、支配したいとか考えとるに違いない」
「何ィ!? じゃあもう調教中ってか!? 『おうこの無口系不思議ちゃん美少女が。お前の中の謎を全部俺に晒せ。まずは装備から俺好みに染まってもらおうか』……的な!? ……ふ、ふふ……」
「ふ、ふふふふふ……」
「「がっはっはっはっはっはっは!!」」
「『バースト』」
下品に笑いあう親子の丁度間を突き抜けるよう魔法を放ち、その先の店の壁にヒビを入れる。
「「……アノ、オキャクサマ。トウテンデハ、マホウハキンシ……」」
震える二馬鹿親子に向けて、信乃は清々しいまでの笑顔を向けたのだった。
「ああ、そうだな。俺が本当に『お客様』ならな。……もう一度言うぞ。彼女の装備を揃えろ」
「「……ハイ」」
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「で、出来たぞい。シラたんの最高の装備が……!」
キンジが「シラたんの装備にそこらの販売品!? 何をぬるいこと言っとるんじゃ信乃様! オーダーメイドじゃオーダーメイド!!」などと言ってシラを連れて奥の工房へ引き籠ってから数時間後、彼は肩で息をしながら出てくる。店はとっくに閉めているからもう貸切だ。どうでもいいが「たん」付けが気持ち悪いと思った。
その数分後、着替え終えたシラが出てきた。
「おおー!!」
「……!」
ギンカが歓声をあげ、信乃も目を見開く。
配色は全体的に灰色と黒色の二色で落ち着かせている。
上半身は動きやすさを追求したのか露出が多めだ。首から胸下あたりまでを覆う何枚かの布、それらを胸下で固定するベルト、首を守る装飾、両手の穴開きグローブ以外に装備はなく、腕とお腹はむき出しになっている。
逆に下半身は足を守るためか、装備が硬い。脚にぴっちり張り付くように履かれた革のロングパンツ、ロングブーツ、大きな硬い腰マント、そしてガンドを仕舞う腰のホルスター。かと言って動きが損なわれている様子もほとんどない。
彼女の同性すら羨むような抜群のスタイルである身体のラインがくっきりと出てしまっている、少しばかり過激な格好ではあるが、シラはどこからどう見ても立派な冒険家に見える装備を纏っていた。
「硬さと伸縮性を兼ね備えた巨大亀アスピドケロンの首革を主として、内側に仕込んだ鎖帷子は最硬度を誇るアッシュメタル合金製、ブラックワイバーンの革の腰マント、更には常に大きな衝撃を少し和らげてくれる魔法『エアロフィールド』を展開する魔器『マリアクリスタル』を埋め込んだ首の装飾。……どれも一級品の素材ばかりじゃよ。もう装備はずっとこれでもいいぞい」
キンジが説明を加える。
聞いている限りでも悪くはない。あるいは信乃の装備以上に強いかもしれないが、これからは彼女が前に出て戦うスタイルになると予想されるので、これくらいの防御性能はあっていいのかもしれない。
まじまじと装備を見ていると、シラの方から信乃へ駆け寄って見せびらかしてきた。
「シノブ、これ動きやすい」
「お前のオーダー通りに造ってもらったんだろ? 希望通りになって良かったな」
「シノブは、この装備どう思う?」
「ん? いいんじゃないか?」
「そっか」
その淡泊なやり取りを見て何を思ったのか、ギンカがため息を付くのだった。
「……なんだよ」
「だめだあんちゃん、なっちゃいねえ。女の子の服装の感想がそれだけとかあんまりだ。そんなんじゃモテねえぞ」
「!? ななな、なんでお前にそんなことが分か……ごほん。お前には関係ないだろ」
「シノブ、もっと。もっと見るべき。裏側のじゃらじゃらがすごい」
「……おい、あんまり装備を引っ張るな。男共の前でみっともない……」
「……? 二人とも、なんで顔を逸らすの?」
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(……良い、絵じゃな)
信乃とシラ。
二人の冒険家が並ぶ姿を見て、キンジはそう思う。
あるいは、二十年前の光景すら彷彿とさせるかのようだ。
『おいこの鎧、すっげえかてえぞ! ありがとうおっさん! お前はどうだアルド?』
『僕の鎧も希望通りだよディーン。軽くて頑丈だ。ありがとうおじさん。君のはどうだい、ミシェル?』
『私のローブもすごいです! 軽いし破れにくそうだし、何より魔力まで集めてくれる特殊な布ですよ。流石ですねキンジさん、ありがとうございます』
それは失われた、遠い日々の記憶。
もはや、あの伝説の勇者達はいない。
だが、今ここに新たなる希望が生まれようとしている。
(なぜ魔人の娘を連れているのかは分からん。だが、「誰も信じない」と言わんばかりに冷たい目をしとったあの信乃様が選んだんじゃ。わしからは何も言うまい。それに、信乃様自身も心なしか明るくなられた。……どうか、これからも彼を頼みますぞい。シラたん)
キンジが感傷に浸っていると、ふと何かを思い出したかのように信乃が尋ねて来た。
「……おい、ところでじいさん。これ、いくらだ?」
「うん? そうじゃな。ざっと見積もって……十三万ゴールドくらいかの」




