二十九話:虚構の亜人
(しまった! まずい……!!)
信乃は内心大いに焦る。
魔人が王都の中に、それも人の集まっているギルド協会にいると分かれば、あっという間にパニックになってしまう。更に、そんな魔人の隣には平然と信乃がいる。今後の冒険家活動を考えて、この光景を見られることは非常にまずい。
(まだ見られているのはこの受付嬢だけ。明後日の方向に魔法をぶっぱなして周囲の気を引いているうちにこの女を拉致。そしてアルヴ王国の記憶屋まで連行。いやその前にまずシラのフードを戻して……!)
目まぐるしく物騒な考えを巡らせる中、第一発見者の受付嬢から出た言葉は意外なものだった。
「まあ! あなた、亜人さん!? 私、初めて見ました!」
「……えっ?」
信乃は、思わず素の反応を出してしまう。受付嬢には聞こえていなかったのが幸いだ。
すかさず、思考を巡らせる。
亜人。
ロアに教えて貰ったり、文献で見たことはある。人をベースとした見た目に、獣耳や角などが生えた、人とは少しだけ違う者達の総称だ。
エルフ、ドワーフ、獣人、竜人、鬼人等、様々な種族がいるとされている。ファンタジー世界ならお馴染みのものばかりだ。
そのほとんどの種族は魔物や魔人のように自前で強力な魔法が使えてしまうわけでもなく、ちゃんと魔器も使える。中には人よりも力が強かったり魔法攻撃力が高かったり頭が良かったり寿命が長かったりする種族もいるようだ。
その見た目から近年では魔人と間違われがちだが、もちろん帝国の尖兵などでは無い。だが勘違いで攻撃されてしまうという事例も少なくはなく、ロストエッダ後は人との関わりを避けて自身の国に閉じこもってしまっているという話だ。
見た目を含めた人外要素が三割程度までが亜人、それ以上が魔人だと言われているのも聞いたことはあるが、そんな曖昧な指標をパッと見で判断しろという方が無理な話だろう。
(そうか。シラは見かけ上、角以外には顕著な人外要素はない。魔人にしては確かに、亜人とも言えなくもない見た目をしている。逆にこんな街中に魔人がいると思うよりかは、亜人がお忍びで来ていると思うわけか)
ここまでの思考、約一秒。
「すいません。このご時世では珍しくて、つい。えっと、角が生えているということは竜人ですか? それとも、鬼人?」
「竜人だ、どう見ても。ふむ……やはり、見た目の区別がつかない人間が増えてきているようだな。これでは魔人とも間違えられてしまう。一応顔は隠しておいて正解だったよ」
いやお前も竜人鬼人どころか亜人そのものすら見たことないだろという自分への突っ込みを置き去りにし、話をでっちあげていく。
「竜人なのですか!? ということは……ヘル公国から!? そんな極北の地から、こんな所まではるばる……ですか!?」
「……そう。その、ヘル……公国。かのヘル公国からだ。彼女が人の文化に興味があったのでな。俺がその国の竜人種族の男と知り合いで、娘である彼女を任された。しばらくは俺の冒険家活動を手伝うことになっている」
「……な、なるほど、そうだったのですね! これが……竜人。す、凄い別嬪さんですね! ほあー……」
受付嬢はすっかり信じ切り、シラの顔をまじまじと見ている。
彼女の馬鹿さに救われた。後から渡されるであろう「この受付嬢の応対はどうでしたかアンケート」に最高評価を付けてやらんでもない、と思いながら信乃は念入りに言葉を足していく。
「だがやはり亜人を魔人と間違える輩は多い。今後も顔を隠して、ひっそりと活動をする。お前のような理解のある受付嬢が応対してくれて良かったよ」
そう言って、さりげなくシラの頭に再びローブを被せた。周囲の何人かにもシラの素顔を見られていたが、受付嬢の大きな声のおかげで「ああなんだ亜人か。大変だが頑張れ」という空気になっている。完璧だ。
「そうですよね……この世知辛い世の中では、人の国で亜人が生きていくのは大変ですよね。……ぐすっ。でもこんなしっかりした人がついていれば大丈夫ですよシラ様! お父様があなたをこの人に任せた理由もわかります! 頑張ってくださいね! ……彼氏様と一緒に!!」
「(こくり)」
「お前やっぱり『この受付嬢の応対はどうでしたかアンケート』には最低評価な」
「どうしてですかーーー!?」
そんなやり取りをしつつ、無事にシラの冒険家登録を終えた。




