二十八話:冒険家登録
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あれからしばらくしてシラも起きたため、馬車をとばして王都には予想通り昼頃に着いた。
まず始めたことは、ボロボロの布を纏うだけの裸同然だったシラの衣服調達だった。
人気のない王都の外に止めた馬車でシラを待たせている間に、適当な生活服と角と顔を隠すためのローブを信乃が買い、それに彼女を着替えさせ(信乃が彼女から背を向ける前に着替え始めて、素のリアクションで慌てて止めた話は割愛する)外に出られるようにした。
次に魔人ビリガエルの報酬を貰うために、そしてシラを冒険家に登録するためにギルド協会に訪れていた。
クエストを複数人で行った場合、少し報酬が増える仕組みになっている。信乃のようにソロで無謀なクエストに挑み、怪我や殉職を防ぐ狙いがあるようだ。
この恩恵には是非ともあやかりたくあり、魔人であるシラを表に出すというリスクを冒してでも、何とか彼女を冒険家にしておきたい。
クエスト受付のカウンターに向かう前に、信乃はシラに耳打ちする。
(いいか、お前は何も言うな。全部俺に任せておけ。お前はただ黙って頷いていればいい)
(分かった)
彼女がこくりと頷いたことを確認してから、カウンターに向かった。
「お疲れ様です! 冒険家様ですね? 本日はどのようなご用件でしょうか?」
相手はフードを被った男とローブを被った女という、顔も分からないなかなかに怪しい二人組。にも関わらず受付嬢は、元気な声で応対してきた。
「冒険家アルマだ。魔人ビリガエルを討伐した。報酬を貰いたい」
信乃は依頼主のサインを見せ、受付嬢は目を通してから、クエスト進行中になっているであろう手元の依頼書を探す。新人だろうか、動きがぎこちない。
因みに「アルマ」というのは冒険家としての信乃の偽名だ。さすがに指名手配中の信乃の名前を出すわけにもいかず、元いた世界でのゲームやネット上でのハンドルネームをそのまま使っていた。
すかさず横目でシラを見ていた。名前が違うという違和感に一瞬だけぴくりと強張っていたものの、こくりと頷いただけに終わった。何に対しての頷きなのかは知らない。
やがて確認を終えた受付嬢が報酬を持ってくる。
「はい、確認しました! アルマ様、クエストお疲れ様でした!」
「ありがとう。……それと、冒険家登録だ。この子を登録したい。『シラ』だ」
報酬を受け取った信乃は、次にシラを前に立たせる。
「分かりました! ええっと……アルマ様が同伴しているということは、パーティギルドの登録でしょうか? すみませんが、パーティは四人以上からとなっておりまして……」
「いいや、違う。個人登録だけでいい。この子は……まあ、ずっと辺境の地にいた俺の知り合いでな。世俗に疎いから、俺が代わりに彼女の冒険家登録をするというだけだ」
「まあ、そういうことでしたか! お優しい! 素敵なお連れ様ですね、シラ様!」
「(こくり)」
心無しか勢い強めで頷くシラ。
要らん世辞はいいから早くやれクソ女、という言葉を信乃は呑み込んでいると、受付嬢は冒険家登録の書類を出してくる。
「では、こちらにお願いします! 現在の冒険家加入条件は、魔器を使いこなせるかということだけです! お名前、現在使っている魔器名と、その属性は必須記入項目となります。記入後、冒険家になるあたっての細かい注意事項を説明をしていきますね。以上、よろしくお願いします!」
大体信乃が冒険家登録した時と同じ説明を受けながら書類に記入しようとした、その時だった。
『サイッテー!! ふざけないでよ!!』
『ま、待て落ち着けハニー!!』
『今まであなたのこと信じてきた。あなたの為に頑張ってきた。なのに、どうしてそんな酷いことをするの? もう嫌、私何も信じられない!! あなたとはもう一緒にクエストを受けられないわ!!』
『許してくれ。もう二度と、二度としないから……!』
『嫌、絶対に許さないから!! どうして、どうしてよ……どうしてあなたの方が、報酬を三ゴールドも多く貰っているのよおおおおおおっ!!』
『ぐああああああっ!!』
後ろで痴話喧嘩してた男女の冒険家のうち、女に殴られた男がその勢いでシラに当たる。
その拍子にシラの頭のローブが落ち、顔と角が丸見えになってしまった。