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二十七話:命とは、喰らうもの

 □■□



 魔人ビリガエルの討伐を終えた晩。

 

 その日の内には王都に戻れなさそうだったので、途中の平原で野宿となった。


「ほら、食べろ……シラ」


 この平原は、食料にもなる魔物「ツノウサギ」の生息域になっている。それらを数匹狩り、その肉や適当な木の実を焚き火で煮込んだ鍋を作り、皿に取り分けてシラに渡した。


「……美味しい」


 それをぎこちない持ち方をしたフォークで食べると、彼女は少し目を丸くする。


「……そりゃ良かったよ」


 魔人が何を好んで食べるのかはよく分からなかったが、どうやら人の料理でも問題はなさそうだ。


 誰かと食事を共にするというのは、いつぶりだっただろうか。

 食事の間、特に会話は無かった。聞きたかったことはだいたい聞いたし、他愛無い世間話をする性分でもない。シラも、基本的には無口無表情で大人しかった。

 

 ツノウサギを狩り過ぎたのか、鍋はかなりの量になってしまっていたらしい。二人で食べ終えた頃には、信乃は充分な満腹感を得てしまった。


「きゅきゅっ!!」


 その時、数匹のツノウサギがこちらへ来た。ウサギの頭頂に小さなツノが生えた愛くるしい見た目。魔物ではあるものの、彼らにほとんど害はない。ただ見慣れない人型の二人組への好奇心で来たのだろう。

 それにしても、気付いていないにしても今仲間が食われたというのに寄ってくるとは大したものだと、信乃は変な感心をした。


「きゅー!!」

「きゃっ」

 

 彼らは一斉にシラの方へ飛びつき、彼女は小さな悲鳴を漏らす。甘えているようだ。

 ちなみに、信乃の方には一匹も来なかった。


「良かったな、懐かれたみたいじゃないか」

「……懐いた? 私に? えっと……どうしよう」

「頭を撫でてやれば喜ぶんじゃないか?」


 少しだけ慌てた様子を見せていたシラは、一匹のツノウサギの頭を撫でる。そのツノウサギが気持ち良さそうに身じろぎするのを見て、彼女は僅かに表情を緩めた。


「ねえ、シノブ」

「なんだ」

「この子達も生き物。じゃあやっぱり……生きたいのかな? 殺意だって向けられる、襲われる。それでも死にたいなんて……これっぽっちも思わないのかな?」

「……? 当然だろう。本当に死にたい奴なんか、そうそういるもんじゃない。自ら命を絶つなんざ、結局はそうせざる負えない状況に追い込まれた奴がほとんどだ」

「……そっか」


 今の会話に何の意味があったのか、信乃にはよく分からない。

 だが、何故か彼女は少しだけ悲しそうに見えた。


 それも一瞬で、また信乃の方を無表情で見てくる。


「シノブ、もっと魔人の私に冷たくあたってくるかと思った」

「まあ、なか……協力者になったからにはな。お互い邪険な関係では今後の戦闘にも支障が出る。無意味に会話を拒もうとは思わない」


 あと命を助けて貰った手前、この少女には恩義を感じていないでもない。それは口が裂けても言わないが。


 シラはツノウサギを抱えたまま立ち上がると、信乃の方へ来て今度は彼の頭を撫でた。


「……何をしている?」

「頭を撫でたら喜ぶって、シノブが」

「俺は喜ばねえよ」

「だめ?」

「……はあ。変わった奴だな、お前」


 そうは言いながらも、その手をどける気が起きない自分に驚く。

 今までずっと気を張りつめていたのに、彼女といるとどうにも落ち着いてしまう。


(……本当に、変わった奴だ)


 その時、急に眠気まで襲ってくる。今日は特に良く動いた一日ではあったし、仕方がないのだが。

 今度こそ彼女の手をどかし、馬車に向かうとそこに積んだ毛布一つを彼女に放って渡す。二つ積まれていて良かった。


「俺はもう寝る。お前はどうするんだ」

「じゃあ私は……もう少しこの子達と遊んでからにする。先に寝てていいよ。おやすみ、シノブ」

「あっそ。お前が朝俺より寝てても、勝手に馬車に放り込んで出発するからな。……おやすみ」


 彼女も魔人とは言え、可愛いものは愛でたいと思うのだろうか。

 そう言い残し、信乃は馬車の上に寝転んで毛布を被ると、すぐに意識が沈んでしまった。

 


 □■□



「……」


 まだ日が山の間から顔を出しきっていない早朝に、信乃は目を覚ます。


 シラは、信乃の隣でまだ眠っていた。何故か彼の腕に捕まって。

 不覚にも、その綺麗な寝顔に見とれてしまいそうになる。


「……ちっ。年頃の女が、距離感考えろってんだ」


 信乃はその手を静かに振りほどくと、彼女に自分が被っていた毛布も被せてやり、馬車から降りて周囲を見渡す。


 シラがあれからどれくらい起きていたか分からないが、もうツノウサギ達はいない。

 天気は良好。視界も良い。今日の昼頃には王都に着くだろう。


 彼女を起こさないよう、馬車を静かに走らせ始める。

 しかししばらく進んだ小川が流れる辺りで、それを見つけて顔を顰めてしまった。


「……なんだ、これは?」


 あちこちの草むらに付いた血。数体の小動物の死骸。

 ツノウサギだ。それも、尋常な死に方では無い。


 皆一様に腹を食い破られ、内蔵や骨が飛び出ている。生きたまま貪り食われたのだろうか。


「肉食の魔物か? 野宿した地点からは、気がついてもおかしくはない距離だが。……まだいるかも分からないし、警戒はしておくか」


 シラを起こさなくて良かった。昨日食べた信乃が言えたことではないが、爽やかな朝だと言うのに気分が悪い。


 今の嫌な光景をさっさと頭から追い出し、再び馬車を走らせた。

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