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十六話:神器の秘密

「おお……これが……っ!」

「……また、その姿をお目にかかれる日が来ようとはの。長生きはするものじゃ……」


 ギンカが息を呑み、キンジも感慨深そうに拝む。


「――神器。遥か昔、神々が造り、人類に賜ったとされる最も古き魔器。神剣しんけん神槍しんそう神弓しんきゅう神斧しんぷ神書しんしょ神手しんしゅ神鎧しんがい、そして――神杖しんじょう、全部でこの八つが存在する。使用適性者――勇者は、世界すらも跨がねばなかなか見つからぬという話じゃ。しかしその力は絶大で、八人の勇者でかの『血蒐の魔帝』すらも倒してみせた。今の技術ですらも解明できない謎の多い、不思議な武器じゃよ。……とまぁ、わしも知識としてはこれくらいじゃし、実際にその力を見させてもらおうかの」


 それからキンジは水晶球のようなものを持ち出し、神器に向けた。


「魔器『ステータスビュアー』。対象魔器の魔法属性や、使える魔法が分かるものじゃ。もちろん、神器に使えることも二十年前に確認済みじゃよ」


 彼が説明をしている間に、水晶球の上にホログラムのウインドウのようなものが浮かび上がり、そこに神杖についての情報が書かれ始めた。


「そういや前は聞けなかったが、あんちゃんの魔器属性適正って何なんだ? この神器の属性がそうなるってことだろ? 無属性だけじゃ厳しいだろ。後でその属性の魔器を買うといいじゃないか。ええっと……」

「いや、それは……」


 信乃が言う前にギンカはウインドウの属性欄を見て、目を見開く。

 そこには、こう書かれていたからだ。


 ――光属性、と。


「な……! エクストラ属性だと……!?」

「……ああ、そうじゃったな。ミシェル様も……」


 キンジも、気まずそうに目を伏せる。


「エクストラ属性。信乃様の光属性と、あとは闇属性がこれに該当する。その二属性は、相性は存在しないが魔法そのものが強力。簡単に言えば、無属性の完全上位互換とかいうとんでも属性達じゃ。……しかし、現在それらの属性魔器を人工で造ることは技術的にほぼ不可能。対応する魔晶石が採れた試しが無いからの」


 以前、勇者の伝承を調べて神杖が光属性だと分かり、落胆していたロアにも似たようなことを言われた。


『ごめんね、信乃。凄い属性ではあるんだけど、光属性の魔器っていうものがそもそもないの。今の魔器はもちろん、古き魔器にすらほとんど例がないわ。そもそも、そんな属性の適正者はこの世界にほとんどいないから需要もない。だからあなたの使える魔器属性は……実質無属性のみだと思った方がいいかもしれない』


 これも悩みの種の一つでもある。

 現在では、攻撃は低威力相性有利無しの威力的に限界がある無属性ガンドしか使えない。 

 そして、肝心の神杖は光属性の攻撃魔法を使えないと来た。本当に難儀な神器である。


「……属性はいい。他に、何か分かることはないのか?」

「ふむ……使用できる魔法欄、何か書いてあるのに読めないというのが多いの。……いや待て。そうか、神器だからじゃったな」

「どういうことだ?」


 確かに、「■■■……」と書かれて読めなくなっている欄がいくつかあるが、どうやらキンジは腑に落ちたらしい。


「神器とはさっきも言った通り、それは不思議なものでな。魔器とは違い、所有者と共に成長するんじゃ。つまり、これから使える魔法が増え、この欄も開放されていく。そういった経験はないかの?」

「……確かに」


 そう言えば、防御魔法「ディヴァイン・サンクチュアリ」も最近使えるようになった。この調子で、これからどんどん使える魔法が増えていくということだろうか。


 しかし、再び魔法欄を見てキンジは更に眉根を寄せていた。


「……なんじゃこれ、『ユグノ・ブースト』? こんな魔法、ミシェル様は使ってなかったはずじゃぞ」

「……なに?」


「ユグノ・ブースト」は、信乃が神杖を手に入れた当初にはもう覚えていた魔法であり、現在の戦闘の要だ。

 それを、先代の勇者は使えなかったことに驚愕する。


「ミシェル様も強化魔法は覚えておったが……どうにもそれよりも強力な魔法に思える。しかし、彼女は代わりにもっと強力な回復魔法を覚えていたような。……それに、他も優秀な補助魔法ばかりじゃが、光属性の攻撃魔法はまだ覚えておらんのか? あまり攻撃向きの神器ではなかったが、ミシェル様でもだいぶ序盤に一つくらいは覚えていたはずじゃが……ううむ」

「……爺さん、あんたはそれをどう見る? いいことなのか、悪いことなのか」

「……分からん」


 信乃の割と深刻な問いに、キンジは首を振っていた。


「さっきも言った通り、神器は所有者と共に成長する。ならば、同じ神器でも所有者の性質によって使える魔法が変わってきてもおかしくはない。信乃様、この差……この強化魔法、そして補助魔法ばかり覚えてしまっていることこそが、あなた様の価値であり、神杖に適正者として選ばれた、人間としての本質だとわしは思うのじゃよ」

「……」



 □■□


 

 神器についての情報の収穫は多少はあった。

 キンジとギンカに礼をいい、信乃は店を出た。しかし、すぐにギンカに呼び止められる。


「おい、あんちゃん! これからどこへ行くんだ!?」

「魔人を倒す、それだけだ。……悪いが、あんたらのことを完全に信用したわけじゃない。行先は伏せさせてもらうよ」

「……そうか。なあ、あんちゃん」

「なんだ」

「……死ぬなよ」


 深刻そうな顔のギンカに向けて、信乃はそのまま背を向け、右手を挙げて別れを告げた。


「また来店予約、しておくよ。おっさん」 

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