十五話:魔器の仕組み
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信乃が老人――キンジというらしい――に案内された店の奥は、小さな工房になっていた。
刀身を鍛造する窯や、何かの部品を鋳造している窯の中ではごうごうと火が燃え、手前の作業台では完成したばかりの魔器が並べられている。
「俺のオヤジはな、二十年前に勇者達へも武器や防具を売っていた凄腕の武器屋だったんだ。店主が俺に代わった今でも、こうして魔器の製造やメンテナンスをやっている。さっさと隠居しろってんだ」
「ほぉんギンカ、お前がまだまだひよっこだからおちおち死にも出来んし引退も出来んのじゃよ。この前もロマンだとか何だとか抜かしてブレード・ガンドばかり造りおって。この阿呆が。脳みそまで鉄で出来とるんかお主は。カッ、ペッ!」
「ああ!? なんだとクソジジイ!!」
「……親子のじゃれあいはよそでやれよ。メンテしてくれるんだろ?」
言い合いをする似た者同士に信乃が口を挟むと、二人は我に返って話を戻した。
「おお、そうじゃったのう。ほれギンカ、信乃様のガンドを渡さんかい。お主は作業中信乃様の話し相手になってやれ。あ、他の客が来たらちゃんとそっちの対応もするんじゃぞ。また勇者様の為に働けるとは、腕が鳴るわい」
「へいへい……」
ギンカがキンジにガンドを渡すと、彼は早速ガンドを真っ二つに分解し、メンテを始める。
「ふむふむ。引き金部分のスプリングが少々緩んどるか? 取り換えじゃな。ハンマーから魔力集針への動作は問題なし。ん、魔力集針自体が少し痛んどるな。これも取り換えじゃ」
信乃は拳銃の構造自体それほど詳しくは知らない。だがこのガンドは似たような造りをしているのだろう。魔器は魔法という弾を無限に放つので、銃弾の再装填や排莢といった概念は無いからその辺の構造はないのだろうが。
だが明らかに違うと感じるのは、銃口から内部へ続くバレルの先――本来なら銃弾が納められるであろうチャンバーにあたる空間に、クリスタルのような小さな石が入っていることだった。
「ガンドってのは存外簡単な装置で、ざっくり言えば引き金を引くことで魔晶石と魔力集針を接触させて魔法を生み出すってものだ。外装はあくまで、発生した魔法を前方に飛ばすための筒だな」
待ち時間の間、ギンカは魔器について語っていた。
「魔器とは本来、魔法を撃つための魔法触媒のみを指す言葉だった。適正型魔器である魔導書や杖は書かれている文字、形状概念そのものを魔法触媒として魔法を放つものだな。だが剣や槍の形をした武器型魔器は、長い時間魔力に晒してその物体そのものを魔法触媒にする必要があった。そいつは長い時間と手間がかかるし、失敗することも多かったのさ。だからロストエッダ前は貴重品だった」
そこまで言うと、彼は更に羊皮紙に書かれたガンドの設計図のような絵を広げていた。
「だが、周囲環境や術者から魔力を吸収する魔力集針と、魔力を詠唱に応じた魔法に変換して放つ魔晶石、この二つの接触によっても魔法触媒なしで魔法を発生させられることが分かった。これがロストエッダ後に開発された、現在のガンド系を始めとした新しい武器型魔器の仕組みだな。どちらも普通に採掘出来る物質だし、発見前はこんな力があるとは分からず見向きもされなかったのにな。ちなみに、魔器の属性はこの魔晶石の属性によって決まるな」
「……ほう」
興味深い話ではあった。設計図を見ると、ファンタジー世界に存在するものにしては複雑な構造をしている。確かに技術革新とも言えるレベルだ。
書かれている銃身の後方に付いている針のようなものと、その前方にある石をそれぞれ指さしながらのギンカの説明を聞いていると、キンジはメンテを終えたガンドを持ってきた。
「ほれ、完成じゃ。いいガンドじゃの。メンテのし甲斐があったわい」
「親子そろって似たようなことを言うな。……教えてもらうぞ、この神器について」
「ほっほっほ。もちろんですとも」
この老人に素直に付いてきてまで聞きたかった趣旨について切り出すと、彼は朗らかに笑った。
四か月前、ギンカが「変な格好の少年に会った」とキンジに語った所、彼はすぐに「それは新たに召喚された勇者じゃ」と答えたらしい。間違いなく先代の勇者達に接触しているし、それならば神器も見ているはずだ。
継世杖リーブについて、未だに分からないことの方が多い。彼の話を聞くことで、少しでもその力を引き出せればよいのだが。
「ふむ、まずは先代の勇者達について……信乃様に話すのなら、やはり『銀麗の巫女』ミシェル・カナート様についてかのぅ。彼女は何とな……超絶美人じゃった。銀色の髪は綺麗じゃったし、お淑やかじゃったし、笑いかけてくるその顔がハイパーアルティメットキュートビューティフルわしの心がギャラクシーダイナマイじゃったよ。あれはこの世界に降り立ったわしの天使じゃ。特におっぱいと尻なんてわし好みのいい大きさで……すいませんごめんなさいうそですガンド向けないで」
「いいぞ構わん、今こそここでその変態クソエロジジイに引導を渡してやれあんちゃん」
無言でキンジにガンドを向けた信乃に、ギンカも賛同する。本気で命の危機を感じたらしいキンジは、慌てて仕切り直した。
「ご、ごほん! ……まあわしが先代の勇者様について語れることなど精々人格くらいじゃろうし、やはり見せてもらった神器についてかの。信乃様、継世杖リーブを実体化させてもらえるかの?」
「……」
一瞬躊躇ったが、ここは密室で、既に信乃を知ってしまっているこの二人しかいない。
霊体化を解き、この世の美の全てを体現したかのような、華のような聖杖を実体化させた。




