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十四話:捨てきれない甘さ

 □■□



「……親勇者の風潮が強い国……か。しかし反帝国の思想も強く、だから帝国に特に目をつけられている。しばらくここにいていいものか、判断が難しいな」


 そんな呟きを漏らしながら、信乃は王都の裏路地を歩いていた。

 クエストに向けてのある程度の買い物は済ませた。ポーション、食糧。あとは――


「あとは、装備か。『タイムボンバー』は、欠陥品じゃなければ買っておきたいところだな。どこかに、武器屋は……」

「おっ、冒険家さん! 武器が欲しいのかい? だったらうちの店に寄っていきな!」


 信乃の呟きを耳ざとく聞きつけたらしい男の声が返ってくる。そこに、見覚えのある武器屋があり、見覚えのあるムキムキのおっさんが立っていた。


(……本当は狭いのか王都? 前に会った人とまた会いすぎだろ)


 心の中でため息をつく。彼は、このミズル王国で一番初めに話しかけられた武器屋の親父だ。初めてが美少女とかではなくおっさんと言うのがまたなんとも。


 向こうはやはり、信乃だと気付いている様子はない。しかし、信乃を知っている者との積極的な接触は避けたいところではあるが――


(まあ、次は客として来るって約束してしまったしな)


 信乃は、武器屋に足を向けた。


「構わないが、品揃えはいいんだろうな?」

「へへっ、当然。……前はブレード・ガンドばかり仕入れて全然客来てくれなかったから、今は色んな魔器を揃えているぜ!」



 □■□



 武器屋の品揃えは、確かに以前来た時より良くなっていた。

 ブレード・ガンドはもちろん、普通のガンド、スナイプ・ガンド、アサルト・ガンドなど、基本的な魔器が揃っている。更には、ミズル王国にしては珍しく「タイムボンバー」等の使い捨て魔器の在庫も多かった。


「タイムスリーパー、タイムボンバー、それと、ピンチプロテクトを一つずつくれ」

「まいど! 少しおまけして、全部で一万ゴールドにしといてやるよ!」

「高い。なんで魔法三回分のために、一万ゴールドも払わなきゃならない」

「か〜手厳しい冒険家さんだねぇ。じゃあ、八千ゴールドにしといてやるよ。ガンドの魔器の方も見ていくかい?」

「そっちはいい。かさばるし、今のガンドで事足りている」

「そうかい。じゃあ、そのガンドのメンテナンスはどうだい? いざって時に故障も困るだろ? それ込みで一万ゴールドってのはどうだい?」

「……商売上手め。いいだろう」

「まいどありー!」


 武器屋の親父は指定した魔器を渡してきたので、信乃も代金と、二丁あるうちのいつも使っている方のガンドを渡した。

 渡されたガンドを、親父はまじまじと見る。


「ほぉ、いいガンドだ。特注品か? 外装は強度と魔力吸収に優れるアルビオン合金。使われている魔晶石も純度の高い上質。市販のものよりもかなり使いやすく、詠唱からより短い時間で魔法を撃てるだろうな。これなら、確かに他のガンドなんていらないわけだ」

「……世辞はいい。さっさとメンテしてくれ」

「そっかそっか、こんなのを持つくらい強くなったんだな。……片目のあんちゃんよ」

「……っ!」


 瞬時に、信乃はロアから貰っていた二丁の内の、もう一つの予備として腰に付けていたガンドを抜き、親父に銃口を向けていた。彼は怯えも抵抗する様子もなく、真顔でこちらを見たまま両手を上げる。


「……いつから気付いていた?」

「俺の耳は良くてね。顔を隠していても、来店予約をしてくれた客の声を忘れるかってんだよ」

「率直に聞く。俺をどうするつもりだ? 答えによっては、この場でお前を殺す」

「おいおい、今は他に客がいないからって、勘弁してくれよ。お互い困る場面じゃないか、これは?」

「減らず口を……!」


 王都の善良な一般人に危害を加えていると知られれば、確かに信乃は捕まってしまう。だからこそ、早急に事を済ませる必要があった。

 更に銃口を近づけ、脅しではないことを伝える。すると親父は、ため息を付いてから答えた。


「どうにもしないさ。言ったろ? あんたは俺のお客様だ。そこに、神杖の勇者も帝国からの指名手配者も関係ねえよ」

「その言葉を、そのまま鵜呑みにすると思うのか?」

「んー確たる証拠を出せって言われてもないけどもよ。でもあんたもきっと見ただろ、ミズル王国民は勇者を捕まえるつもりはない。まあどこで報酬目当ての冒険家が見ているか分からないから、顔を出すのはまずいだろうけどよ。それにあんたを捕まえるつもりなら、こうして身の危険を晒して本人と接触する必要はないと思わないかい?」

「……」


 確かに、捕まえたいのなら今は信乃のことを知らない振りして、後から冒険家や帝国へ通報すればいい。現時点でそれはもう出来ないだろう。理には適っている。

 それでも、完全に雲隠れした神杖の勇者の所在を知ってしまった者の口は、容赦なく封じるべきではあるが――


(……くそ、俺もまだ甘すぎる。これがいつか命取りになるんだぞ……)


 親父に敵意はないと知り、どこか安心してしまっている自分がいる。

 もう、信乃にはその引き金を引くどころか彼を脅すことも出来なかった。


「……なあ、あんちゃん。前会った時とは随分と雰囲気が変わったように見える。追われているからってだけの気の張りようじゃねえ。何があったんだ? 俺は、それが聞きたかったんだ」

「……お前には、関係ない……」


 ガンドを下ろし、疲れ切った声で答えた信乃に対して何かを察したかのように、悲しそうに親父は目を伏せる。


「……そうかい。あんたは、少なくとも相手にガンドを向けられるような人間だとは思わなかった。そうならなくちゃならない程の何かがあったとだけ、理解しておくよ」

 

 その後、しばらくの沈黙を破って、店の奥から老人が姿を見せた。


「これギンカ。神杖の勇者様を困らせるでないわ」

「オヤジ」

 

 親父――ギンカというらしい――から、オヤジと呼ばれた老人は信乃を見るなり深々と頭を下げた。


「ようこそ、お待ちしておりましたわい有麻信乃様。先代の神杖の勇者――ミシェル・カナート様の意志と神器を継ぎしお方よ」

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