十三話:ミズル王国への帰還
□■□
いつもよりかは眠れた信乃は、今日も冒険家ギルド協会で魔人討伐のクエストを探していた。
「……今回はこのアルヴ王都への日帰りは、無理かもな」
掲示板を見ながら唸る。
いつもはより効率的に魔人を狩るため、近場のアルヴ王国内の魔人討伐ばかり受けていた。しかし多少は日々の討伐の成果が出ているのか、今日はアルヴ王国内で魔人討伐のクエストがない。どれも違う国のものばかりで、遠出となる。
「いっそ、そろそろ活動拠点を変えるか」
ずっとアルヴ王国内の魔人を狩り続ければ、帝国に不信感を抱かせてしまう可能性もある。冒険家ギルド協会は他の国にも存在するし、これを機に別の国へ移動するのもありかもしれない。
ふと、一つの魔人討伐クエストの張り紙が目に入る。
「『魔人ビリガエルの討伐。ミズル王国のブーリ森林内にある無人の砦に籠っているが、時折森を出ては周辺にある村を滅ぼしている。報酬は六万ゴールド。受ける方はこの紙を持って受付まで』。……ミズル王国、か……」
ミズル王国は、信乃が召喚され、彼がしばらく過ごしたトネリコ村もあった国だ。
街並みや村の暮らしはアルヴ王国と特に変わるところはない。堅実に今の武器型魔器を生産しているのがミズル王国、新しい武器型魔器の開発に少しだけ力を入れているのがアルヴ王国、といったくらいの違いだ。
このアルヴ王国へワープしたあの日以来、一度もあの国には戻っていはいない。
あそこも帝国の侵略をかなり受けていたように思える。そろそろ戻って様子を見た方がよいかもしれない。
(それに、今朝の夢……)
あの夢の声が言っていたグニタ洞窟は、このブーリ森林の中にある洞窟であったはずだ。
元々は凶悪な魔物が住んでいた洞窟だったらしいが、先代の勇者達が討伐してからは何もないと聞いている。
そこに、何があるというのだろうか。
(罠の可能性もある。そもそもあの声が、敵か味方なのかもよく分かっていない)
あの声によってこの世界に呼び寄せられたことは、何となく分かる。
だが、その意図はよく分かっていない。
信乃は、世界を救うために魔人を倒している。しかし、それが声の意図するものではなかったとしたら?
声もまた、アース帝国の仲間だとしたら?
(だがノルン遺跡に眠っていたこの神器を、アース帝国は危険視しているようだ。もしも、あの声もアース帝国とは敵対関係で、俺の行動とその意図がちゃんと合っているのなら……)
ならば今回も、ひょっとすると手詰りの現状を打開出来る何かがあるのかもしれない。
よく分からない者の言いなりになっているようで癪ではあるが――
「……くそ。あくまで魔人討伐のついでに立ち寄ってやるだけだ」
周りに誰もいないのを確認してから、信乃は乱暴にその紙を引っぺがした。
□■□
御者の馬車に乗せてもらっても、ミズル王都には二日もかかってしまった。
魔器ゲートノアの「ワープ」が如何に凄い魔法だったのかを、今更ながらに痛感する。
クエストの受注はアルヴ王都の方で済ませてきた。ここの冒険家ギルド協会には寄らず、食糧と装備の準備を整え次第すぐにブーリ森林へ向かう予定だ。
約四ヶ月ぶりにもなるミズル王都。当然、信乃を覚えている者はいないだろうし、いたとしても顔を隠した彼に気付くことはないだろう。
辺りを見渡すと、すぐに変化に気が付いた。所々で外壁や建物の破損が目立つのだ。
信乃は、近くを通った兵士に声を掛けていた。
「すまない、聞きたいことがある」
「ん……おお、冒険家の方ですか。お疲れ様です。いかがなさいましたか?」
疲れた声で返してくる兵士。たまたまだったが、見覚えがある。信乃をアース帝国の刺客と勘違いし、襲いかかってきた人だ。少しやつれただろうか。当然、信乃には気付いていない。
「久しぶりにミズル王都に来たのだが、街が損壊しているように思える。何があったんだ?」
「ああ……実は、魔物が以前より活発に攻めてくるようになりまして。我々も日々撃退に負われていますし、国からの予算も足りず、復旧も遅れています。……恐らくは、帝国の仕業なのでしょう」
そういえば、以前も魔物が街に侵入して建物や外壁を壊していたことを思い出す。今では復旧が間に合わないほどの頻度で来る物騒な王都になってしまったらしい。
その原因について、彼は以前も「帝国の操る魔物」と言っていたような気がする。
「帝国は、魔物も操るのか?」
「確証はないですが、それが帝国に永らく反抗してきた我々ミズル王国の認識です。帝国の中に、魔物を操る力を持つものがいる。魔人と違い、そこまでは関係ないと帝国にはしらを切られてしまうのですが。しかし、我々が勇者捜索を断ってから更に魔物の襲撃が増えているので、間違いないでしょう」
帝国が魔物まで操ることにも驚いたが、信乃は更に別のことに驚いていた。
「何? あんたらは、勇者の捜索に応じていないのか? もしも見つければ、その魔物襲撃だって止まるかもしれない。報酬も下りて、街の復旧も出来るはずだ。なのに何故……?」
「当たり前でしょう。如何なる理由があったとしても、何故、帝国に屈し、最後の希望である勇者様を売るようなことが出来るでしょうか」
そう、兵士はばっさりと言ってみせた。
「ミズル王国の人間は、その癒しの力で『銀麗の巫女』様に救われた者が多い。かく言う私も、幼い頃に村を魔物から救って頂いた。だからこの御恩を、新しく召喚されたという次の勇者様に返したい。これが、我々ミズル王国の総意です。帝国などの言いなりにはなりませんし、何をされようと、我々は負けませんよ」
「……そうか。ありがとう。仕事、頑張ってくれ」
内心の動揺を抑え、信乃は兵士に別れを告げた。




