十一話:魔法威力
(……火力が、足りない。タイマンなら勝てる? ふざけるな、お前は魔人達を殲滅するんだろうが。しかしいくらユグノ・ブーストで強化しているとは言え一人で戦っていては、そう出来るだけの魔法威力には全然届いていない……!)
信乃も、少しは魔法について勉強していた。
この世界には、空気中に魔力という見えない力が漂っていて、人や魔物、魔器はこれを自然に各々の最大保有魔力量まで吸収している。
この溜め込んだ魔力を消費・変換し、具現化した神秘の力が「魔法」だ。
この魔法の威力や性能というものは、少々複雑だが主に三つの要因で決まってくる。
まず一番重要になるのは、個体によって決まってくる「魔法に込められる魔力量」。自分の魔法だろうが持っている魔器の魔法だろうがこれは変わらない。
ゲームのキャラによくあるステータスで例えるのなら、これを「攻撃力」や「魔力」といった言葉で表してしまってもほぼ差し支えはないだろう。
故に、この世界でもこれを「魔法攻撃力」という俗称に言い換えているようだ。
この「魔法攻撃力」を基礎値として、以前もロアから教えて貰っていた「属性相性」による補正、そして「威力階級」による補正が倍率として掛け合わされ、後はその他の細かい補正がかかって最終的な魔法威力が決まる。
「威力階級」とはその名の通りに魔法の威力を示す階級だ。これも結構重要な魔法威力の要因であり、この階級が一つ上がるだけでも属性相性有利並の倍率で魔法威力が上昇する。
仮に、両者魔法攻撃力が40という値である水属性使いのAさんと火属性使いのBさんがいて、お互いの魔法をぶつけ合ったとしよう。
Aさんが、「メガロ・アクアバースト」を撃つ。威力階級メガロの補正倍率が×2、属性有利補正倍率が×2となるので、その魔法威力は40✕2✕2=160となる。
対するBさんは、「ギガント・フレイムバースト」を撃つ。威力階級ギガント補正倍率は×4、属性補正倍率はそのままの×1となるので、魔法威力は40✕4✕1=160。属性相性不利であるにも関わらず、威力階級が上がっただけでBさんはAさんの魔法と相殺出来てしまうこととなる。
しかしこれを上げれば消費魔力が増えてしまうので、Bさんが不利であることに変わりはないのだが。
実際の戦いでは他の補正倍率も色々かかる場合がある為、これはあくまでも簡単な例えではあるが、このくらい威力階級というものも重要になるという話だ。
基本的に魔法詠唱には、この威力階級を示す言葉が先頭に付く。魔物の特別な魔法にはない場合が多いが、それらもこの威力階級のどれかには当てはまる。
現在市場に出回っているガンド系の武器型魔器は、基本的に四段階の威力階級の魔法が使える。
初級(×1)、メガロ級(×2)、ギガント級(×4)、そしてエクスプロージョン級(×8)だ。
エクスプロージョン級は属性によって名前が変わってくるが(炎属性のメテオ、風属性のトルネード、土属性のグランド、雷属性のライジング、水属性のダイダル)、無属性のエクスプロージョンから取ってこう呼ばれている。この威力階級が、現在人間が撃てる魔法の最大威力のラインだ。
また、その下には属性による詠唱が付き(フレイム、ウインド、ロック、ボルト、アクア)更にその下には、魔法の攻撃形態を決める詠唱がつく。
バースト、レーザー、スラッシュ、インパクト、ジャベリン、マルクバースト等だ(ここでも威力補正がかかったり消費魔力が増えたりする場合もある)。
信乃の持つガンドが放てる魔法は、無属性の「バースト」系。
つまり、彼の現状の最高火力はエクスプロージョン級の「エクスプロージョン・バースト」になる。
「ユグノ・ブースト」によって魔法攻撃力が大幅に強化されたそれは、魔法威力は1000近い値を叩き出して辺りをすさまじい威力で爆発させる。これをもろに受けて無事で済む魔人はほぼ存在しないだろう。
だが、これでも結局は一般兵魔人のエクスプロージョン級魔法と相殺相当の威力であることが現実だ。防がれてしまう以上、当てることに工夫を凝らす必要がある。
これにより、信乃は魔人一体への粘り勝ちという今の戦闘スタイルを取らざる負えないのだ。
『……ヒ、ヒヒ……。哀れ、哀れナリ……。お前がどれだけ魔人を殺そうと……まだまだ腐るほど、そしてオイラよりも強い魔人が帝国にはいる。お前に、帝国は滅ぼせない』
悔しいが、現状ではあの魔人の捨て台詞の言う通りだ。
今の帝国に、果たしてどれほどの数の魔人が蔓延っているのかは見当もつかない。
しかし少なくとも一日魔人一体、良くて二体倒すという今のペースでは、彼らを滅ぼすまでに果たしてどれほどの時間を要するのか分かったものではないのだ。
(だから魔人を同時に複数相手して、討伐ペースを上げる必要がある。使い捨て魔器を大量に買い込んでの惜しみない一斉起動、なら行けるかもしれない。だが、そう出来るだけの資金はない。何か裏商売や金策は……成功する気はしない。冒険家の方がまだ天職だろうな)
ちなみに、「タイムボンバー」といった攻撃魔法等を発生させる使い捨て魔器は、近年アルヴ王国で開発されたものだ。
予め魔力を込めてから相手に付着させる小型チップ形状と、術者が持つスイッチが連動していて、ボタンを押すことで(もしくは別魔法でかなり強い衝撃を与えることで)チップから魔法が作動する。
他にも状態異常魔法、補助魔法、防御魔法を発生させられるものまである。
一度きりしか使えない上に、まだ開発段階で高額。魔人はおろか、人ですら装備する者は多くない。
だが、一人でも神杖で強化した魔法を複数同時展開出来るという有用性を見出した信乃は、積極的に使っている。
金さえあれば強くなると言うのが、また何とも滑稽な勇者だ。
(資金を増やすために、一日にもっとたくさんのクエストを……何なら金になる大型魔物や超大型魔物の討伐クエストもこなしたいが、奴らが持つ高魔法威力にも対抗出来るだけの火力がない……くそっ、結局は火力だ。……だが、これ以上どうやって火力を上げる?)
何を考えようとも、結局のところその問題に行きついてしまう。どうあってもまずはそれを解決しなければならない。