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九話:いつも見る悪夢

 □■□



 いつも決まって、同じ夢を見る。


 平和でのどかな、トネリコ村。


 仕事の手伝いをすると喜んでくれる村人達。

 鍛錬中に、気さくに笑いかけてくれるロア、キノ、カイン。


 知っていた。ロアは気が強いリーダーを演じていながらも、本当は臆病で、真面目で、心優しい女の子だったということを。

 知っていた。キノはカインへ密かに恋心を寄せていて、カインもまた満更でもない様子だったことを。このままいけば、どっちからの告白になったかは分からないが、きっと幸せなカップルになっていたこと。


 三人という大切な仲間だけではない。家族みたいな村人達がいて、守りたい日常があって、皆で歩むべき未来があって。


 信乃は、それだけで幸せだったのかもしれない。


 笑っている。

 皆が、笑っている。


 ――視界が暗転する。

 

 笑っている。


 道化が、笑っている。


「……あ」


 そこは、もう地獄だった。


 槍が振るわれる度に、血が飛び散る、肉が飛び散る。

 道化の高笑いが響く。


「キャハ、キャハハハハ、キャハハハハハハハハハ!!」


 女も子供も関係ない。村人達全員が、カインが、キノが、皆血の涙を流しながら見るも無残な肉塊に変えられていく。


「嫌、嫌ぁ……!! 死にたくない!! 助けて、助けてよ……信乃……!!」


 泣き叫びながら、ロアがこちらに手を差し出している。


「あ……あ……」


 その距離はどうしようないほどに遠く、伸ばした手が届くことはない。

 直後、彼女の心臓が槍で貫かれる。


 吹き出した血で、信乃の視界は真っ赤に染まった。


「……っ!!」


 宿屋のベッドで、信乃は飛び起きる。

 

 外はまだ暗い。

 これから新たな一日が始まるというのに、既に酷く疲れている。


 これは罰だ。

 あの日、何も出来ず皆を見殺しにした自分が、永遠に背負っていく罪だ。


「……ごめんな、みんな」


 今日もまた、あまり眠ることは出来なかった。

 


 □■□



 夜。その日のクエストからの、宿屋への帰り道のことだった。

 すれ違いざまに、見知らぬ一人の男から小声をかけられる。


「神杖の勇者、だな?」

「……」


 信乃は、足を止める。


「話があるんだ。付いてきてくれないかぁ? くくっ」

「……ああ」


 冒険家らしき装備を付けたその男に言われるがままに連れてこられた先は、人気のない暗い裏路地だった。


「来てくれたってことは、やっぱりそう、そうなんだよなぁ?」

「違う、と言ったら?」

「いいんだぜぇとぼけなくても! 偶然、そう本当に偶然だったんだがな。宿屋の外から、ほんの一瞬だけめくれたカーテンの先に、あんたの素顔が見えたんだ!! 昼はどっかに出かけていたみたいだったから、その間にあの宿を調べて、あの部屋に泊まっていたあんたのその格好を割り出したんだよ!」


 男はまるで酔っているかのように、べらべらと信乃を見つけた経緯を喋ってくれる。


「……で? ここに連れて来た要件はなんだ?」

「うわすっげ、あんた今追い詰められているのに、めっちゃ冷静じゃん。なに、俺の要件は単純だよ! 金、俺はたくさんの金が欲しい。二億! 二億ゴールド、あんた出せる!? このままギルド協会へ連行してもいいんだけどさぁ、あんたが依頼報酬よりも金出せるってんなら黙っててやるって取引だ! 流石に手持ちじゃ無理だろうけど、借金すればいけるよねぇ? なんせあんたの命がかかってんだ! さあどうするの!?」

「……」


 内容は理解した。

 彼は「勇者捜索」の依頼を受けた冒険家で、信乃を見つけてしまったというだけの話だ。


「……それ、他の誰かには言ったのか?」

「んー? まだ言ってねえよ! 報酬は独り占めしたいじゃん!! だって俺、強いし! 弱い奴に報酬恵んでやるなんて馬鹿な話じゃん!!」


 持っているブレード・ガンドの刃を舐め、男は下品に笑う。 


「……そうか」


 信乃は、安堵のため息を漏らしていた。

 

(……良かった。――俺を見つけてしまった相手がたまたま馬鹿で、本当に良かった)


 周囲を確認して、本当に彼以外の気配が無いことを確認してから、左手に神杖を顕現させる。


「おお! それがクエスト依頼書に書いてあった杖!? 見せてくれるってことは……」

「『ユグノ・ブースト』」


 何やら期待をしているその馬鹿を他所に、強化魔法を唱えてからすぐにまた神杖を消す。

 そして、ガンドを相手に向ける。


「……ええ、何。やる気なの、どっちだよ。言っとくけど、俺は今自前の防御魔法張っているよ。あんたの魔法は効かない。勇者かなんか知らないけどさぁ、逃げ回っているってことはどうせ弱いんでしょ? さっきも言った通り、俺は強いよ。なんせ俺ってばかつて、あの厄介な上位の小型()()ストーンピッグをたったの三人がかりで倒して……」

「『ギガント・バースト』」


〝ギガント・フレイムスフィア

 魔法攻撃力:40

 威力階級ギガント:×4

 スフィア補正:×1.5

 魔法攻撃力:240〟


〝ギガント・バースト

 魔法攻撃力:150

 威力階級ギガント:×4

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:480〟


 信乃の放った魔法は、相手の見えない防御壁を容易く貫通し、男の左太ももの肉を半分くらい抉った。


「……は?」


 一瞬呆けてから、絶叫。


「ぎゃああああああああああ!? いだい、いだいいだいいだい!! 嘘、なんで……!?」


 立ってもいられなくなり、その場に崩れ落ちる。すぐにその下の地面で血だまりが出来ていた。

 信乃は、無言で歩み寄る。


「ひ……! 来るな、来るな!! 『トルネード・ウインドバースト』!!」

「『ギガント・バースト』」


〝トルネード・ウインドバースト

 魔法攻撃力:40

 威力階級エクスプロージョン:×8

 魔法威力:320〟


〝ギガント・バースト

 魔法威力:480〟


 男が放った魔法に対し、信乃も先ほどと同じ魔法を放つ。また相手の魔法は打ち破られ、男は吹っ飛ばされてしまう。


「が……あ……!? なん……で……? どうして……属性魔法が、威力階級一つ下げた無属性魔法に負けて……!? ひぐ……っ!?」

 

 もはや動くことすら出来なくなった男の首を掴み、持ち上げてガンドを額に突き付ける。


「あ……っ! ちょ、ちょっと、冗談……だよね?」

「冗談? 何を言っているんだ? 俺は口封じのためにお前を殺すぞ。何を躊躇う理由がある?」

「だ、だだだだって、あんた勇者なんでしょ!? ひ、人殺しなんて、そんな……!」

「……なあ、聞かせてくれよ。急に絶望のどん底に突き落とされる気分ってどうなんだ? これから死ぬ運命にあるって悟った時の心境はどうなんだ? 教えてくれよ、なあ? ……なああぁっ!?」

「ひ、ひっ……!」


 信乃の一喝で、男の表情は完全に恐怖に染まった。

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