六話:神杖の勇者
□■□
「……ブ、ヒ……?」
一瞬、意識が途切れた気がする。
ストーンピッグは、周囲を見渡す。
目の前に、押しつぶしたはずの男がガンドの銃口をこちらに向け、立っている。
自分は、地面に倒れている。
「な、何が……?」
首を後ろに向け、自分の身体を見る。
防御魔法としての効力を失った「ストーンシェル」が、砕けている。
自分の胴体が半分消失しているほどの大穴が開き、そこから血がとめどなく溢れ出ている。
「ギ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
遅れて襲ってきた痛みに絶叫しながらも、何とか意識が途切れる直前のことを思い出した。
確かに、ストーンシェルは男の魔法を防いでいた。
しかしその直後、なぜか殻の内側で爆発が起こったのだ。
「な……あ……!? あれは、一体……!?」
「『タイムボンバー』。一番最初の『バースト』に乗せて吹っ飛ばし、お前の身体に付けていた爆弾……チップ形状の小型魔器だ。まんまとそのお堅い殻の内側で爆風を籠らせてくれたな、感謝するよ馬鹿が」
全く状況を理解できないストーンピッグに、男は言い放つ。
「さすがに村人の目の前でお前を爆散させるわけにもいかなかったからな。一度きりしか使えない魔器だが、『エクスプロージョン・バースト』を付着箇所から任意のタイミングで発動させられる。……って奴だったんだが、しかしうまく作動しない不発弾だったのが誤算だった。衝撃を何度もぶつけてようやく無理矢理の起爆だよ。欠陥品売りつけやがって……くそったれが」
小さなスイッチのようなものを落とし、苛立たしそうに踏み壊した。
「な……な……」
ストーンピッグは、ますます困惑するだけであった。
男の計画性にも驚いたが、やはり彼自身の力が未知数だ。
ストーンシェルがなくとも、ストーンピッグは並みの魔人よりも身体がかなり頑丈である。もしも、生身で並みの人間の魔力で放つ無属性魔器最大魔法を受けても、少しの負傷で済む程度だ。
しかしどうやら岩の殻の密封性を逆手に取られたようであり、内側で爆発させることによってその殺傷力がより増してしまったようだ。
(それでも……それでもやはりおかしいのだ! さっきの魔法……人間如きが無属性のガンドで、千近い魔法威力をたたき出していた! でなければここまでの致命傷は負わないはずだ! これまでやつの出す魔法の数値を見てきたが、やはりおかしいのは……そう、魔法攻撃力だ! なんだ150って! オイラよりも断然上――大型魔物相当の魔法攻撃力ではないか!? 人間ではあり得ない……この男が、何か埒外の力によってを大幅に強化しているようにしか思えない……!)
せめて沸き上がり続ける疑問を払拭しようと、ストーンピッグは男に問いかけた。
「お前、何者だ……?」
「これから死ぬお前が、それを知ってどうする?」
しかし返ってきたのは答えではなくガンドの銃口だ。いつでも魔法を至近距離でぶつけられてしまう鼻先に突きつけられる。
「ひ……! ゆ、許してくれ……! オイラも、帝国に命令されて仕方がなく……! もしも命を助けてくれたら、二度とこんなことはしないし、なんでもやりますから……!!」
「ほう……?」
幸福の姿勢を示すと、男の気が一瞬緩んだ。
「――ヒッ」
その隙を付いて、ストーンピッグは薄笑いを浮かべて彼のガンドを手で払い、少し離れた所まで飛ばす。
次の瞬間には血を吹き出しながらも俊敏な動きでジャイアント・ガンドまで戻っていたストーンピッグは、最後の魔法を放っていた。
「バアアアアアアアアアァカ!! 油断したな!! ガンドもなければ防ぐ手段もあるまい! 死ねぇえええええええ!! 『メテオ・フレイムバースト』!!」
〝メテオ・フレイムバースト
魔法攻撃力:100
威力階級エクスプロージョン:×8
ジャイアント補正:×1.2
魔法威力:960〟
今までで最も大きな炎が、彼の魔器の最大魔法が、男を呑み込んで――
「――神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、我が障害をこの聖域より払え――『ディヴァイン・サンクチュアリ』」
――防がれた。
〝ディヴァイン・サンクチュアリ
魔法攻撃力:150
威力階級ディヴァイン:×128
光属性補正:×1.2
スフィア補正:×1.5
魔法威力:34560〟
「……は? おい……なに、その……数値……? あと……今の、詠唱……」
「……気が変わった。お前には、冥土の土産としてこの姿を目に焼き付けてもらう」
爆散した炎をいとも簡単に払ってしまったそれは、光る透明な半球だ。その中で、男が無傷で立っているのが見える。
そして、その手にはさっきまではなかった――華のような美しい造形の杖が握られていた。
「……!! ま、まさか……お前、お前は――」
ストーンピッグは、その神々しい杖を知っている。
その持ち主を、知っている。
「見るがいい。これが、お前達アース帝国を滅ぼす者の姿だ。その時に怯えながら、先に地獄で待っていろ」
被っていたフードも、マスクも外している。
そこには、片目だけ前髪で隠れた少年の顔がある。
男は――その人物はガンドを拾い上げ、銃口をこちらへ向けた。
「――神杖の、勇者あああああああああああああああああああぁ!!!!」
「『エクスプロージョン・バースト』!!」