五話:最弱の無属性
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「この世界で最弱の魔法属性は何か」と聞かれれば、誰もが迷わず無属性だと答えてしまうことだろう。
無属性には相性有利を取れる属性がない。代わりに、相性不利を取られる属性もない。
それだけ聞くと汎用性の高い属性だと思われるが、その実態は威力が他の属性よりも少し劣っているという特性が付いてくる。
補正数値としては×0.8。これは小さいように見えて大きな威力減少となる。
故に、高い魔法威力を出してくる強敵との相手には決しておすすめをされない。
ましてや、強力な帝国の尖兵である魔人が相手ともなれば、人間が無属性の魔器で戦おうなど自殺行為にも等しいだろう。
――その無属性魔法が、並みの威力の無属性魔法である限りは。
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「……は?」
煙が晴れたそこに、男は悠然と立っている。
魔人・ストーンピッグが放った爆炎は、確かに直撃したはずである。
しかし、先程出た数値を見れば明らかだ。
無属性のガンド如きの魔法が、このジャイアント・ガンドの魔法と相殺してみせたのだ。
「……!」
ギリッと、ストーンピッグは歯を食いしばる。
「……あ、あなた様は……! 本当に、本当に助けが……っ!」
「邪魔だ、あんたらは家の中に隠れてろ。この村から出るな」
縋るような村人達の言葉に、男は素っ気なく返し、すぐに動いた。
「なっ!?」
速い。
あっという間にストーンピッグへ接近した男は、ガンドを向けて魔法を放つ。
「『メガロ・バースト』」
〝メガロ・バースト
魔法攻撃力:150
威力階級メガロ:×2
無属性補正:×0.8
魔法威力:240〟
「ブ、ブヒィイイイイ!?」
至近距離でそれを受け、ジャイアント・ガンド諸共村の外の林まで吹き飛ばされてしまった。
(ば、馬鹿な……! 何故だ。さっきといい今といい、ただのガンドで放つ無属性魔法が、なぜこれほどの威力になる……!?)
巨体は何度かバウンドした後に着地。飛ばされてきた方向を見ると、既に男はこちらに走りながら接近していた。
「くそがぁあああああ!! 『ストーンシェル』!!」
弱い冒険家という認識を改める他無かったストーンピッグは、本気を出す。
詠唱と共に、その巨体が突如現れた岩にすっぽりと覆われてしまった。
〝ストーンシェル
魔法攻撃力:100
威力階級エクスプロージョン:×8
スフィア補正:×1.5
魔法威力:1200〟
「『メガロ・バースト』!」
〝魔法威力:240〟
また男は魔法を射出するものの、今度はそれを喰らっても微動だにしない。
「ブヒヒ!! 無駄ナリ!! この岩の外殻は絶対に砕けないナリよ!」
「……チッ。それはお前の元となった魔物、『ストーンピッグ』としての防御魔法か。威力数値で勝っていても攻撃魔法のように反撃が出来るわけではないが、その分補正が高い。面倒な魔法を使いやがって、クソが」
男が悪態をつくのを聞き、ストーンピッグはようやく自分が優位になったという自信が生まれた。
「ヒヒヒ!! それだけじゃないナリよ! ここまでは魔物『ストーンピッグ』としての最強防御! そしてここからは――魔人『ストーンピッグ』としての最強攻撃!!」
ストーンピッグは頭と手足を縮こまらせ、ほぼ完全に岩の球体となって転がる。
そのまま、その先にあったジャイアント・ガンドの銃口の中へすっぽりと入りこんでしまった。
「……!!」
「ブヒヒ! 死ねぇええええ!! 『ギガント・フレイムバースト』!!」
銃口から、炎をまとった巨大な岩が凄まじい速度で男へ向けて放たれる。
人間大砲ならぬ、魔人大砲だ。
〝ストーンシェル(火の玉)
魔法攻撃力:100
威力階級エクスプロージョン:×8
スフィア補正:×1.5
他魔法による補助:×1.2
魔法威力:1440〟
魔人ストーンピッグが独自に編み出した、防御魔法の保有する高い魔法威力を無理矢理攻撃魔法に転換する切り札だ。しかも「他魔法による補助」という新たな補正も増え、更に威力が上がってすらいる。
「『ギガント・バースト』!!」
〝ギガント・バースト
魔法攻撃力:150
威力階級ギガント:×4
無属性補正:×0.8
魔法威力:480〟
男は先ほどよりも強い魔法を放つものの、それすらも易々とはじき返す。しかし、僅かに速度の減衰した燃え盛る岩球はギリギリでよけられ、その先にあった木々や土を派手に蹴散らした。
「……これは面倒なことになった。本当なら、最初の『メガロ・バースト』でここまで飛ばした時点で倒せていたはずなんだが」
「ブヒー! それはお互い、相手のことを舐めていたと言うことナリ! だが残念、勝つのはオイラ! 何故なら……オイラの方が強かったのだからぁああああ!!」
やっと止まった岩球を再び回転させ、またジャイアント・ガンドの銃口へ戻る。
「今度は外さん、これで終わりナリ!! 『ギガント・フレイムバースト』!!」
〝ストーン・シェル(火の玉)
魔法威力:1440〟
再び巨大な炎の球が放たれ、今度こそ男を押しつぶさんと――
「――うるせえよ。終わってんのはてめえの方だ。『ギガント・バースト』」
〝魔法威力:480〟
再び相手の魔法を受けると、軌道が上に逸れてまた男には当たらなかった。
「ブヒッ!?」
どうにも、絶妙な角度で下側を狙われて弾かれてしまったらしい。
しかし直撃でもなくまったく速度減衰のしていない岩球をさらに高速回転させ、空を駆け上がる。コの字を描いて男の真上まで来ると、今度はすさまじい速度で落下を始めた。
「ヒヒヒ!! 下手な小細工をしても無駄ナリよ! 押しつぶされろぉおおおお!!」
「……」
男はため息をつくと、銃口を上に向ける。
溜めが今まで以上に長い。どうやら、魔器の最強魔法を放つつもりらしい。
「やめておけナリ! それでも、重力落下すらもプラスされたオイラの突進は止められないナリー!! ブヒヒヒヒヒ!!」
「『エクスプロージョン・バースト』」
ストーンピッグのせめてもの忠告も無視し、男は魔法を放った。
〝エクスプロージョン・バースト
魔法攻撃力:150
威力階級エクスプロージョン:×8
無属性補正:×0.8
魔法威力:960〟