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四話:それは、物語の勇者ではない

 そう言ってやると、母親の顔も絶望で大きく歪む。村人達の恐怖の色もより一層濃くなる。


「そ、そんな! 話が違います! 生贄は、一日一人だと……!」

「うるさい!」


 詰め寄ってきた村長を払う。彼はそれだけで勢い良く飛ばされ、家の壁に当たって動かなくなってしまった。骨の数本は折れただろうか。

 本当に、人間は弱くて脆い生き物だ。


「ブヒヒ! お前達に生きる資格などない! ただ我々アース帝国に弄ばれ、惨めに死んでいくだけナリ!! さてお嬢ちゃん、まずは君から逝こうか。安心しなよ、すぐに家族が後を追ってくれるナリよ~!」

「……っ!」


 いよいよお楽しみの時間だ。変な邪魔は入ったものの、更に面白いことになったので良しとする。

 縮こまった少女に向け、ストーンピッグは腕を振り上げて――


「――『バースト』」 


 魔法を横から受けて、バランスを崩して転倒してしまった。


「……は?」


 ストーンピッグは茫然となり、村人達は全員呆気に取られた顔でそちらを見、そして息を呑む。


 魔法の放たれた方向――村の入り口から、一人の人間がガンドを構えたままこちらに悠々と歩いてきている。


 ――助けなど来ない、魔人を倒してくれる人間などいない。誰もがそう思っていた。


 それは黒いフードとマスクに覆われ、顔は分からない。身体はコートやベルト、鎧などでかっちりと覆われている。その上に被さったマントを風になびかせるそれは、まるで暗殺者のような姿だった。


 ――それは決して、物語の勇者などでは無い。その物語は、とっくに壊れていたのだから。


「……なんだ、お前は?」


 尻もちをついたままストーンピッグが問うと、その人間はギルド協会のロゴが入った金属製のペンダントを掲げながら、男性の声で答えた。


「……冒険家だ。魔人討伐のクエストを受け、ここに来た。魔人ストーンピッグというのは、お前か?」


「「……ッ!」」


 ――だが、村人が皆下を向いてしまった中、その姿は彼らにどれだけの希望を与えたのだろう?


 すかさず、ストーンピッグは村人を睨みつけていた。

 彼らは怯えたが、それでも初めてこちらを睨み返してくる。


(……冒険家、だと? いつの間にそんな連中に助けを求めていたナリ? あの村長辺りが首謀か。後で尋問した後に殺してやる。しかし……)


 さらに辺りを見渡すものの、彼以外の仲間らしき姿が見えない。魔力の気配も感じないため、隠れ潜んでいるというわけでもなさそうだ。

 どうやら、依頼を受けて来たのはあの人間たった一人らしい。それも、無属性の魔器と来た。


 不敵に笑いながら視線を戻し、冒険家の問いに問いで返した。


「そうだと言ったら、お前はどうするナリ?」

「……ん、決まっているだろう? お前を攻撃して、殺す」

「ブ、ヒヒ、ヒヒヒヒヒ!! そうかそうか! お前が一人で、オイラに! ヒヒ、ヒヒヒヒヒ……」


 冒険家の答えにひとしきり笑った後に、一喝。


「それ聞く前から既に攻撃してきただろうがぁああああああ!!」


 その巨体に見合わない速度でジャイアント・ガンドまで移動。軽々と持ち上げて銃口を冒険家に向け、無慈悲に魔法を放つ。


「『ギガント・フレイムバースト』!!」


 巨大な火の玉が、すさまじい衝撃とともに冒険家がいた辺り一帯もろとも焼き払った。


〝ギガント・フレイムバースト

 魔法攻撃力:100

 威力階級ギガント:×4

 ジャイアント補正:×1.2

 魔法威力:480〟


 哀しきかな、帝国領外でちまちまと人を襲う下っ端という立場の「開拓兵」であるストーンピッグ達には、帝国から魔法威力可視化魔器「ラタトスク・アイ」までは支給されていない。だが使用が禁止されているわけでもないので人間から奪っても問題はない。彼もこの村から一つ奪っており、こうして魔法威力を見ることが出来る。

 そもそも、人間よりも圧倒的に強い魔人達には必要のないものなのだが。


 この大砲型の魔器、「ジャイアント・ガンド」は高重量の代わりに魔法威力に補正がかかる。

 同じ魔法でも、ただのガンドとはその威力はまるで違う。初めから、無属性ガンドなどを使っているあの冒険家に勝ち目など無かったのだ。

 

「ヒヒヒヒヒ!! バァーカ!! 魔人の強さも知らずに、正義感が先走ってしまった駆け出しの冒険家、といったところナリか!? たった一人でこのオイラに勝てるわけがないナリよ!! 死体が一つ増えただけだったナリね!! ヒヒヒヒヒ!!」


 哀れ。痛みを感じる暇もなく一瞬で焼き殺されたことが、彼の唯一の救いだっただろうか。

 立ち上る黒煙に向け、心底愉快な気分でストーンピッグは笑った。


「そ、そんな……せっかく、助けが来たのに……」


 村人達の顔が、また悲哀の色に染まる。

 助けが来たと少し希望を持たせてから、現実を突きつけてまた絶望に突き落とす。

 今日は邪魔が多かった。しかしこれはこれでまた良い趣向に――


「……あ? どう見てもてめえしかいないだろうが。ぶっ殺すぞ豚畜生」


 ――煙の中から、浮かび上がった数値と共に聞こえるはずのない声が返ってきた。


〝ギガント・バースト

 魔法攻撃力:150

 威力階級ギガント:×4

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:480〟

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