百四話:真・共同戦線
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【10:00】
見事魔物の軍勢を撃ち破ったシンジ達冒険家軍団「対巨神レイド戦線」は、遂にユミル・リプロスの足元までやってくる。
その巨人は、さっき遠くから座り込んでいた姿を見てもデカいと思っていたのに、こんな間近で立った姿を見ては更にデカい。窪地に立っているにも関わらずそこを膝下で余裕で突き抜け、頭頂には雲がかかり良く見えないくらいだ。
だが、もう再びこの巨人に世界を壊させるわけにはいかない。何としてでも、ここで止める。
全体指揮を取るシンジは、冒険家達に向けて号令を送るのだった。
「さあ、相手にとって不足無しだ。……みんな、あいつを倒せええええええええええええええっ!!!!」
「「「無理じゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」」」
返って来たのは、ごもっともな怒りだった。
「さすがにあれは勢いとやる気だけで勝てる域を超えとるわ!! 死ぬ、普通に死ぬ!!」
「でかいでかいでかい、無理無理無理無理」
「さっき全員の魔法をぶち当てても全然びくともしなかっただろうが! 俺達にどうこうできる相手じゃねえって!!」
「ぐ……み、みんな! 何を情けないことを言っているんだい! それでも勇者に憧れた冒険家達かね!? 例えどう見ても勝てそうになくても、勇敢に突っ込んでみせろーー!!!!」
「「「じゃあおめえが一人で行けやシンジーー!!!!」」」
「すいませんでしたぁーー!!!!」
「……アルマ君、シラちゃん。見ているかしら? この今、あたしの目の前で綺麗な土下座しているお馬鹿が、本当にここまで冒険家達を引き連れてきちゃったわよ……」
「ふむ……そもそもシンジさん。我々があの巨人を倒すのではなく、勇者様達の為に動きを止めるという話だったはずです。それを皆様に伝えられては?」
逆に冒険家達に一撃論破されてしまったシンジに、カリンが呆れ声を、そしてハマジが優しく助言をかけてくる。
「……まあ、そうだね。確かにアルマ君達との約束は、彼らがあの巨人にとどめを刺すために動きを止めるというものだ。……でもさぁ、それすらどうやるんだって話だよ……」
だがシンジは、そんな情けない言葉しか返せない。
もう相手は冒険家達の力でも倒せた魔物ではない。ただの一体で国一つを簡単に破壊できる正真正銘の化け物だ。そもそも根本的にその巨人にダメージを与える火力すらも冒険家達にはないだろうし、さっきの一斉射撃でそれを証明してしまった。
シンジもまた、頭は回るとは言え冒険家らしいお調子者だ。勢いとモチベだけでここまで来たはいいものの、結局「ここにたどり着くまでに何か思いつけばいいか」くらいに楽観的だった巨人への対抗策を、何も思いつかず仕舞いだ。アルマ達に良いところを見せようと盛大に見栄を張ってしまった結果がこれだ。
そうして後悔し、うじうじ悩んでいる間にも、巨人の方が動き出す。
『――子羊。アア迷える子羊共よ。この期に及んで、貴様らも邪魔をするというのかァ!? ならば良かろう、貴様らも浄化だ!! 愚鈍なる貴様らには、慈悲深きアウン様に代わりこの巨人の裁きを以てその命を解放してやろうではないかァ!! クカカカカカカカカカカッ!!!!』
「「「……!!」」」
それを魔人ロキが中に入って動かしているようで、彼の低い怒りの声が巨躯を震わせて空に轟き、同時に巨人頭部の穴に光球が出来る。
どうやらそこから、また光線を照射するようだ。
「ま、まずい! みんな、退避を……!!」
食らえば、間違いなく跡形もなく蒸発する。しかし建物や地下に隠れようとも、あの光線は易々と障害物を貫通してくるだろう。放たれれば最後、ただ当たらないように皮肉にも「神様」に祈るしかないのだ。
そんな意味の無い指示の直後――
『――全機、一斉照射や!! 放てぇえええええええええええええええええっ!!』
『『『了解!! 「ハイエクスプロージョン・レーザー」!!』』』
――しかし、また巨人の動きが止められてしまった。
『な……なにィ!?』
ロキがそろそろ本当に鬱陶しそうに、困惑と怒りの声を上げる。
今度はさっきとは逆パターンだ。
冒険家達に向けて光線を放とうとしていた巨人に、突如また動き出した連邦軍の機体達が一斉に魔法をぶつけたのだ。
「な……! あ、あんた達……どうして……!?」
そんなシンジの困惑声に、連邦軍の内の一機が答えた。
『ライザ少将の指令通り、これより我々は今作戦方針を大幅に変更します。巨人は我らに楽園をもたらす天使などではなく、ただ世界を滅ぼすだけの脅威と認定! よって、これを破壊せんとする勇者様と冒険家の皆様に尽力することとなりました! 皆様方、今までご無礼を承知でお願いを致します。どうか我々と共に、あの巨人を止めてはいただけないでしょうか?』
「……!!」
驚きっぱなしのシンジ達に、また別の声がかかる。
『せや、ウチらも反省しとるんや! その誠意を示すためにシンジさん、ウチらの作戦進行をアンタらに任せてまうで!』
そこにいたのは、今まで見てきた黒色の機体とは明らかに違う、赤色のヴァルキュリアだ。しかも他のそれらよりも、一回りくらい大きくてごつく見える。
「そ……その声はまさか、ライザとか言ってた副司令官か!? あのヨルムンガンドと一緒にいた!?」
『せやでー! 数時間ぶりやなぁ、ようあの魔物共を相手に生き残ったもんや! あ、呑気に挨拶しとる間もないし、手短に言うで! ウチらも信乃ちゃん達の手助けすんねん! その方法は一つ、さっきユミル・リプロスの捕縛に失敗した「タルタロス」をまた起動させて、まーたあの巨人をぐるぐる巻きにするんや! 結局破られはしたんやが、確かにあの巨人の動きをしばらく止められとった! ……この意味、分かるやろ?』
「……! そ、そうか! その間に、アルマ君達が……!!」
『そういうことや! 全八基の「タルタロス」はまだ放棄してもた防衛ポイントに置きっぱやし、地上に残っとる魔人達の力でもそう簡単に壊せる代物やあらへん! ウチらが巨人を引き付けるから、あんたら冒険家達はこの八ポイントを魔人達より奪取、「タルタロス」をウチらの代わりに起動せえ! 信乃ちゃん達、もう塔の上で援護射撃しながらスタンバっとるで! なんやあの子ら……一撃であの巨人を消し飛ばすみたいやん! アホ過ぎやろ、おもろ! そんなアホみたいな話信じるのもあれやけど……まあ賭けるしかあらへんな。そんなわけで無事に全機起動して、「捕縛魔法」が発動出来る見込みが見えた瞬間に、あんたは信乃ちゃん達に合図送ったれや!』
さも当たり前と言うように、その機体の中でどの面下げているのか知らないライザは、シンジに次々と指示を出してくる。正直シンジはイラっとしてしまった。
「……この、偉そうにべらべらと指図しやがって……! その前に、あんた達は色々と俺達に言うべきことが……」
『そんなん後でいくらでも並べたるわ。言うたやろ、時間無いて。……どないするん? やるんか、やらへんのか?』
「……」
有無を言わさない強い口調で遮られる。
確かに、ごもっともだ。まだ窪地にいる巨人がこのまま歩き出そうものなら、その「タルタロス」が囲んでいる捕縛エリアからも逃れてしまうだろう。やるからにはさっさとやる必要がある。
だからシンジは、精々威勢のいい声を連邦にかけてやるのだった。
「……ああ分かったよ! その代わりお前達も『対巨神レイド戦線』の一員としてきっちり働けよ、巨人の囮役共!!」
『よーし、いい返事や! その部隊名もおもろいわ! さーて、シンプルな戦闘なら別に細かい指令も要らへん、ウチもめでたく前線入りや! ヴァルキュリア達の高度な戦闘力を、そしてウチの派手な暴れっぷりをしかと見とけやぁ人間共!!』