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百二話:巨人の捕縛

「……は。……ちょい、なんや今の火力。なんや……本当にあれは……太古にいなくなった神様かなんかかいな……?」


 魔法威力60000オーバー。勿論血盟四天王(フォルス・ブラッド)の魔人ヨルムすらもそんな火力は出せない。

 

 確かに今の光線を連発すれば、国一つどころか大陸そのものも破壊できるというものだ。


『……っ、ライザ少将、ご指示を! 準備はいつでも出来ております!』

「……! あ、ああ……せやな! もう後には引けへん! 歩き出す前に、あの巨人を捕獲するんや!」

『『『了解!! 各ポイント、起動します!!』』』

 

 たじろいだのも一瞬、切羽詰まった声でライザは号令を出すと、それぞれのポイントで「起動役」を任されていた連邦軍人達も一斉に応答。

 直後、巨人の足元よりそれを等間隔に囲う八つの点が発光した。


『……むゥ?』


 巨人から魔人ロキの、困惑の声が聞こえてくる。だがもう何をしても遅い。


 ここから、連邦軍の魔器製造の超技術により開発された究極の捕縛装置が発動する。


「タルタロス、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、全機起動!! 神をも捕縛する鎖よ、あの巨人の手網となれ!! ――『イクシオン・プリズム』!!」


 各光点より、数多の光の鎖が伸びた。


 一つ一つが大樹のように太く頑丈なそれらは、瞬く間に巨人に触れ、その手足や胴にツタのように絡まっていく。

 抵抗する為に伸ばした腕をすらも、どんどん伸びる鎖達が絡め取り動きを封じてしまう。


『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!』


 雄叫びも虚しく、とうとう巨人は完全に鎖によってがんじがらめにされ、捕縛されてしまった。


『せ……成功! 成功ですよライザ少将。あの巨人は、確実に我が連邦の考案した最強の捕縛魔法にかかりました!!』

「……あ、ああせやな! 言わんくともこっからも見えとるわ! こちらライザ少将、連邦作戦軍全機に告ぐ! 巨神ユミル・リプロスの捕縛に成功! 直ちに対象を囲み、魔人相手に防衛しつつ回収作業に入る! どうやらあれを動かす鍵になっとる、中にいる『司祭』諸共や! 可能か分からんけど連邦本土からも応援を呼ぶわ! それまでの、あともう少しの辛抱やで!」

『『了解!!!!』』


 通信でそう冷静な声でやり取りした後、しかしライザもまた思わずはしゃいでいた。


「や、やった……やったでヨルムちゃん!! どこでのびとるんか知らんけど、ウチら勝ったんや!! ほんまはよ戻って来いや! 一緒に、この喜びを分かち合わんと……!」


 後は、動けない巨人を連邦本土へ搬送するだけだ。ここで初めて「帝国ビフレスト降下作戦」は完遂され、世界を亜人達の楽園にする夢は目の前まで近付く。

 当初はヨルムの反理にぶち込むという案があったが、本人から「そんなくそでかい穴開けられるわけないでしょう馬鹿☆」と一蹴されてしまっている。

 なので結局は物理的に持ち上げて運んでいくしかなく、ヴァルキュリア達が一斉に鎖を引っ張って飛ぶという手段となった。

 

「……ふふ。とは言え、こんなアホみたいな巨体運ぶんに、一体何百機必要になるんやら……」


 そう苦笑しつつ、ライザは改めて捕まえた巨人を見上げて――


 ――ピシッ。


 とても、嫌な音を聞いた。


「……は?」


 それを見て、笑顔だったライザの表情だって凍り付く。


 数多に絡みつく光の鎖が。二か月前にヨルムが観測してくれていた巨人の力量データから、十分に動きを止められるとの結果が出ていた最強の捕縛装置が。


 どんどん、ひび割れている。


『――オオ、オオ……。我々は、愚かだ。この巨神は、長い時間と苦労をかけて復活させたものの……ワタクシがこうして操らねば動いてもくれぬ失敗作だった。だが連邦の無能共よ。皆様では……こんな失敗作にも及ばぬようだ。駄作なれどかの巨人こそは、世界の創造と破壊を司りし神造兵器。そんなものに、どうして下等な生物共が造ったガラクタで干渉できようか。アア、アアお許しをアウン様。ワタクシ達……皆等しく愚か者だったのだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』


『ギ……ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


 ――バキィイイイイイイイッ!!!!


 そこからは、あっという間の出来事だった。

 連邦の鎖がその巨人の動きを止めていられたのは数十秒程度。それは予測を遥かに超えた怪力を発揮し、拘束を引きちぎる。


 数時間の苦労をかけて形成した捕縛魔法は、あっさりと、いとも簡単に砕かれてしまった。


「……うそ……やろ……?」


 通信機から絶えず焦った音声が流れてくる中、しかしライザはしばらく呆然としているしか無かった。

 その頭で、悟るしか無かった。


 ――かの巨人は、連邦の手には負えない。「帝国ビフレスト降下作戦」は失敗である、と。


『アアアしかし良いですとも!! ワタクシ、やはりその絶望が見たかったのだァ!! よし決めました! もはやこの区画だけの地獄では物足りぬ!! 連邦の皆様方の無念を汲み取り、このまま巨人が壊れるまで周辺各国を暴れ回ってやろうではないかァ! 力の差を知れ、神を知れ、慈悲を知れ!! 信仰も無き異端なる貴様らは、所詮はただ浄化されるだけの命だったのだよォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

『『『う、うわあああああああああああああああああっ!!!!』』』


 ロキの狂った雄叫びと、連邦軍の悲鳴によって何とかライザは自我を取り戻す。

 だが、それでどうすることも出来るはずがない。


「て……撤退や!! 各防衛ポイントを直ちに放棄!! 連邦本土に帰還する。繰り返す……に、逃げろおおおおおおおおおっ!!」


 その命令にも意味などなく、巨人が次々と放つ光線によってヴァルキュリア達が消し飛ばされていく。連邦の亜人達の尊い命が、虫けらのように踏みにじられていく。


「や、やめろ! ウチらが悪かった!! 降伏や! だから、こんなことはやめてくれや……!!」


 そして光線の照準は、ライザのいる塔に向いた。


「…………あ」


 動揺し混乱しているはずの頭で、どこか冷静に悟る。

 終わった、と。


 もう、次の瞬間には光線が全てを埋めて――


「「「うらあああああああああああああああっ!!!!」」」


 ――巨人の頭に、一斉に数え切れない量の魔法がぶち当たり、その動きが止められた。

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