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二話:魔人討伐クエスト

 魔人討伐クエスト。これは何もドスだけではなく、多くの冒険家達から嫌厭されがちなクエストだ。


「『アイナ村を占領している魔人・ストーンピッグの討伐。生贄と称して村人を少しずつ殺し、被害は現在二十人以上に及ぶ。村が滅びるのも時間の問題。報酬は五万ゴールド。受ける方はこの依頼書を持って受付まで』。……うーんかわいそうだけど無理だ! 魔人を倒して魔器一つ新調出来る程度の報酬じゃ割に合わない! てか、俺らじゃ勝てない!」


 帝国に協力するクエストのすぐ横に、帝国を害するクエストが貼られるこのギルド協会ならではの混沌ぶりは嫌いではない。しかし、こちらの方を受けようとする者はほとんどいない。


 身体の一部に魔物の特徴を取り込んだ怪物――ロストエッダを境にアース帝国民へと成り代わった魔人は、かの国が生み出した生物兵器ともいえる存在だ。

 

 帝国独自の非常に高度な技術により、人間と魔物の身体を融合させて魔人は生まれるそうだ。その力は人と魔物のいい所取りといったもので、魔物並みの高い身体能力、魔法攻撃力を有し、そして強力な魔物由来の魔法を持ちながらも(人間の中にも魔法を持つ者がいるが、精々特殊魔法か弱い攻撃魔法となる)、更には人並みの知能を併せ持ち魔器を使用する。


 魔物と魔器の二属性の魔法。これが魔人の厄介なところで、魔物のように「有利属性でごり押せば勝てる」ということができない。

 近年出てきたばかりでまだ対策が確立していないというのもあるが、実際に帝国一般の兵士に当たる魔人一体を相手にするのですら、強い個体だとベテランの冒険家達四、五人でようやく討伐出来るかといった想定の強さだ。もう大型魔物を相手にするようなものだ。


 そして何よりも恐ろしいのは、その人並の知能と、帝国への深い忠誠心といえるだろう。


 それほどの力を持ちながらも、彼らは魔物のように闇雲に人を襲うということをやらない。帝国に命じられた通りにテリトリーに居座りながら、命じられた通りに少しずつ人を襲っている。

 帝国からの政治的圧力があるのか、国単位ではなかなか魔人を討伐するという動きがないのでその討伐はギルド協会に要請が来る。

 しかし被害が突発的に大きくはならず、討伐を依頼して報酬を支払う被害者も精々個々人規模が限度となるので、並みの魔物討伐程度の報酬しか出ない。

 ベテランの冒険家達は報酬の良い大型魔物の討伐へ流れてしまう。弱い冒険者では魔人を相手に出来ない。だから、ほとんどの人間は魔人討伐を受けない。

 

 帝国は知恵を回し、魔人が討伐されにくい現在の環境を作ってしまった。

 誰もが、その脅威が少しずつ大陸を蝕んでいっているという事実をどこかで感じ取っているにもかかわらず、彼らは今日も悠々と人を殺している。


「せめてヴァーナ連邦が動いてくれれば少しは話が変わるんだがなぁ。でもあそこ、帝国の次に何考えているか分からん国だし……」

「くぅぅぅー!! こうなったら仕方がない、勇者を発見して報酬たんまりもらって、その金で装備を強化して魔人を討伐だー!! すまない勇者、平和のためなんだー!!」

「……って、待て落ち着けケベー!! お前まで勇者を帝国に売るのかー!?」


 掲示板から離れて受付へ向かおうとするケベをドスは慌てて抑えつける。とち狂ってしまっている彼の気を紛らわせるために、話題を逸らした。


「そ、そういえばケベ! 例の噂を聞いたことがあるか? 『魔人殺し(アーススレイヤー)』の話!」

「うん、なんだそれ?」


 ケベの動きが止まってくれたことを安堵しつつ、話を進める。


「誰かが直接見たってわけじゃないんだがな。どうやら、最近誰かがほかの依頼そっちのけで魔人討伐のクエストばかりを受けているって噂だぜ。故にアース帝国の魔人殺し、『アーススレイヤー』だ。それも匿名で、たった一人の冒険家がだ」

「ええ……なんだよそれ。流石に眉唾ものだろ。魔人を匿名で、たった一人で討伐なんて」


 ケべが胡散臭そうな顔をするのも無理はない。

 冒険家には受けるクエストを秘密にする権利があるし、ギルド協会側も冒険家が受けたクエストを他者に口外しない義務がある。だから、秘密裏に魔人討伐を受けることも出来るだろう。

 しかし、魔人を一人で討伐出来る冒険家などほとんどいない。出来るにしても相当名の知れた超有名冒険家くらいだろうし、それなら売名の為に自ら名乗り出るだろう。だから、匿名でこの依頼を受けること自体あり得ないのだ。


「どうせいつもの、誰かが面白半分で流したデマだろ。危険を冒してまで魔人だけを倒すメリットもないし、『魔人殺し(アーススレイヤー)』なんているわけがない。そんな噂を信じるなんて、ドスは馬鹿だなぁ」

「なんかお前に馬鹿って言われると無性に癪……おっと、すいません」


 話の途中で、ドスは背後から誰かにぶつかってしまった。


 相手の顔は分からなかった。黒いフードを目深に被り、口元もマスクで覆われていたからだ。

 身体の方にも露出は一切ない。全身を覆う、黒いコートやベルト。胸や腕、足に付けた鎧。その上から被さるマント。コートの隙間から覗く、腰に付いた左右の二丁のガンド。

 

 性別・年齢すらもよく分からないその人物は、ドスの謝罪に対してただコクリと頷いて去って行ってしまった。


「……なんでぇ今の。まるで暗殺者だな。あれも冒険家なのか? ……とりあえずケベ! 今日も元気に魔物討伐だ! コツコツ稼いで魔人討伐の装備を買えばいい! 勇者探すのはダメ!!」

「ぐぅ……すいませんでした……」


 ケベを諭し、ドスは掲示板に戻る。


「……あれ?」


 しかし、ドスは首を傾げた。


 さっきまであったはずの、魔人討伐のクエスト依頼書が無くなっていたのだ。

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