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九十一話:大蛇と大亀

「……負け犬風情が、調子に……乗るなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ロキは絶叫し、信乃とシラに向けて次々と更なる魔物の軍勢を差し向ける。

 だが信乃の神杖は二人の魔法を強化し、シラの属性相性不利も無い闇属性魔法は数値の暴力によって次々と魔物達を倒していく。


「……すごい」


 カリンは思わずそう感嘆の声を発し、シンジやハマジ、周囲にいた他の冒険家達も呆然とその二人を見ている。

 

 ずっと、二人は各々の正体を隠しながら戦ってきたようだ。勿論勇者たる神杖や、魔物や魔王しか持ち得なかったはずの闇属性魔法だって封じ続けてきたのだろう。

 だが、この多くの命と世界の命運すらも左右しかねない大きな戦いを前にして、遂にその枷を解き放つ決意をしたらしい。


 そうして解禁された二人の力は、本当に凄まじいものだった。


「ありえぬ……なんだ、なんなのだ貴様らはアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 あのロキですら焦った声を上げている。魔物達だけではない。絶えず差し向け続けている魔物達の軍勢の壁が薄くなるタイミングを見計らって、信乃やシラの魔法は正確にロキの分身達すらも次々と消しているのだ。

 もうこの地帯にいる魔物達に指示を送るロキの数は随分と減り、魔物達の動きもおぼつかなくなってきているように見える。


「……」


 きっと最初から、この二人だけいれば良かったのかもしれない。カリン達冒険家がやれることなどちっぽけなものでしかないのかもしれない。

 それでも――


「……ふっ。シンジさん、カリンさん。これは……見ているだけというわけにもいきませんね?」

「……ああ、そうだな。アルマ君達は勇者である以前に、冒険家としては俺達の後輩なんだ。負けては……いられないか」

「……ええ、そうね。私達だって戦う立派な冒険家。全部彼らに、助けられてばかりじゃダメよね」


 そう大人冒険家達三人はようやく明るく笑いながら頷き合った後に、今一度戦場を見据えた。



 □■□



【08:30】


 以前は、何も出来なかった。魔人という圧倒的な力に晒されて、ただロア達の後ろで震えて見ていることしか出来なかった。

 だからこそ、全てを失うしかなかった。


 だが、今は違う。


 もう、信乃は何も失わない。

 もう、逃げたりはしない。


 必死にバイク型の魔器を限界速度でとばして来た甲斐はあった。後ろにいるカリンも、シンジも、ハマジも、ミルラ、サシャ、ニノ、キースも、分隊メンバー全員が無事だ。

 ちゃんと、間に合った。


 ならば今度こそ、全てを守ってみせる。


「『エクスプロージョン・バースト』!!」

「限定顕現――ムラマサ。『シャドウ・ダークネスソニックスラッシュ』!!」


 信乃の神杖が強化し、ガンドとタイムボンバーの魔法が周囲を爆破し、シラの闇魔法が黒き光を放ち煌めく。


「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」


 それらに晒された魔物達は、成す術もなく悉くが絶命していく。


「クソクソクソクソ!! この馬鹿者共がァ!! あと少しで、これからが楽しくなるというのに! ワタクシは今日という良き日に、アウン様に最上の祈りを捧げなければならぬというのに!! アア、アア腹立たしい!! 邪魔をするでない、抗うでない、生きるでない――『神杖の勇者』アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「……うるせえよ、馬鹿はてめえだロキ・クルスベルグ。お前こそこれから祈る相手はそのアウンとかいう神ではない。冥界にいる神様だ」


 また、信乃はロキの分身を爆破する。

 これで、周囲に確認できる分身は残り一体となった。


「黙れ黙れ黙れェ!! 死ぬのは貴様らの方だろうがよォ!! もうよいわァ! 焼き溶かせ、押しつぶせ、超大型魔物――『ウロボロス』、『タラスク』!!」

『『グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』』


 いよいよロキは、とんでもないものを呼び寄せる。

 身体の奥にズンと響くような、大質量を伴った重低音が二つ同時にこの地帯へと響く。

 そして響くのは咆哮。音の洪水、空気震。

 思わず耳を抑えてしゃがみ込んでしまった冒険家達の前に、そのとてつもなく巨大な二つの影が姿を現す。


 一つは、巨長な胴でとぐろを巻き、持ち上げた頭で天より彼らを見下ろしながらちろちろと舌を出す、赤黒い大蛇「ウロボロス」。

 一つは、まるで岩の巨山のような甲羅を背負い、その下から覗く頭と四肢すらも大木のように太く堅そうな、超巨大な緑茶の亀「タラスク」。


 冒険家の魔物討伐クエストにおける危険レベルは、最大クラス。冒険家達が束になっても敵わないような化け物――超大型魔物が二体もこの場に集結していた。


「「ひ……っ」」


 当然、冒険家達はその圧倒的な質量を持つ二体に気圧されて怯んでしまう。

 

 それでも、「二人」だけは冷静だった。


「これはまた、とびきり面倒なのが出たな。普通の魔物や大型魔物とは格が違う。光属性変換してシラの闇魔法で雑にあしらえる相手でもない……か。なあ、どうだシラ。……お前、どっちか一体をお前だけで殺れるか?」

「そういうシノブは……別のもう一体大丈夫なの?」

「さあな。だが、超大型魔人で言えば実績はある。ならば強気にこう答えてやるべきか。――勇者を舐めるなよ、魔王」

「……ふふっ。シノブは、凄いね。それなら、私だってこう言わなきゃ。――魔王の力を見せてあげる、勇者」

「……ふっ、そうか」


 二人はそう不敵に笑い合った後に、巨怪獣達へと向き合った。

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