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一話:冒険家ギルド協会

 □■□



 このガルドル大陸には、「冒険家」という職業が存在する。


 冒険家とはその名の通り、未踏領域・古代遺跡などのダンジョン探索を行い、財宝を採掘する者達――だったが、近年ではその高い戦闘能力を評価され、個人・王国の依頼を受けて報酬を貰う、傭兵業務も請け負っている。


 そして冒険家と、彼らが数人で結託して作ったパーティギルドの登録、冒険家が受ける依頼――クエストの管理・発注を行う非国家組織が冒険家ギルド協会だ。

 ロストエッダ以前からもこの組織はあったものの、むしろ現在の方が活動が活発になったと言える。魔器の普及によって、個人でもクエストの遂行が容易になったからだ。


 主なクエストとしては、ダンジョンの探索、特定の物資の確保・調達、人に害を及ぼす魔物の討伐、そして――魔人の討伐がある。 


 協会は設置を禁じた帝国以外の国に支部があり、魔人以外の人や亜人が冒険家登録をしている。現在での全国冒険家登録人数は百万人を超え、登録ギルドパーティ数も一万五千組を超えているという、非常に大きな組織になっていた。

 

 そしてここは、アルヴ王国王都――冒険家ギルド協会・アルヴ王国支部。

 中年の男性冒険家、ドスは渋い顔でクエスト掲示板を見ていた。


「……やだねぇ、このクエスト。また報酬金が上がってらぁ」


 視線の先の張り紙には、「神杖の勇者・有麻信乃の捕獲。皇族を殺害しようとするも失敗し、現在逃走中。帝国への反逆罪が課せられている。報酬は一億ゴールド。受ける方はこの依頼書をはがさず直接受付まで」と書かれている。

 その下には、片目だけ髪で隠れた少年と、美しい造形をした神杖の絵まで見せしめのように描かれていた。


 よく彼とクエストに同行する冒険家の男、ケベもそれを見る。


「ああ、アース帝国がギルド協会に出している依頼かい? ……魔王もいないこのご時世にまた勇者が現れたってのも驚きだが、それを捕まえろだなんてねぇ」

「ギルド協会だけじゃねえ。帝国は、捕らえてくれた国へのしばらくの不可侵を条件に、周辺国家にまで依頼しているって話だぜ。このアルヴ王国の軍隊も一応動いている。応じていないのはミズル王国くらいだ」


 どうやら、帝国はよほどこの勇者を捕まえたいらしい。ここまで大規模に協力を要請するなど初めてのことだ。


『はいはい! あの勇者の捕獲ってやつ、受けるぜ! 杖持ってるやつを捕まえればいいんだな!?』

『クエスト、発注しました。気を付けて行ってらっしゃいませ!』


 遠くのクエスト受付カウンターで、若い冒険家とクエスト受付嬢のそんなやり取りが聞こえてしまい、ドスとケベはため息をつく。


「……なぁドス。なんで、俺達の英雄であるはずの勇者様を捕らえるなんてことが出来るかなぁ……」

「……そりゃケベ。みんな、もう勇者ですら世界は救えないと諦めてて、目先のことしか見られていないからだろう。報酬が欲しい、アース帝国の脅威から逃れたい、そんな欲に囚われて、取り返しのつかないことをしている気がするぜ。まだ捕まっていないのが救いだよ」


 書かれている内容から察するに、再び召喚された勇者は帝国を魔王並の脅威とみなして倒そうとしたが負けてしまい、逃げざる負えない状況なのだろう。召喚されたのはたったの一人のようで、それは勝てるはずがない。

 だから、人は勇者を見限ってしまったように思える。この「勇者」とわざわざ書いている依頼書が、そもそもそうさせる目的があるのだろう。逃げる勇者の心を間接的に折ろうとしているのだろうか。帝国には随分とえぐい手を考える者がいるようだ。


 しかし、本来の目的の方はまだ達成されていない。

 このクエストが出されて、三ヶ月は経つ。報酬はどんどん釣り上がり、このクエストを受ける薄情者の冒険家も増えているが、未だに勇者は見つかっていないようだ。こうしてクエストが続いていることが何よりの証拠だろう。

 流石に逃げることで手一杯で打倒帝国どころではないだろうが、彼自身がまだ諦めていないことは確かだ。


「上手く逃げるよな、勇者も。大陸中から指名手配されているようなものなのにな。見る限りまだ若いのに、大したもんだ」


 少年の似顔絵を見ながら、ケベが腕を組んで関心する。


「どうだろうな。顔は被り物でも隠せるだろ。肝心の杖をどうするかだろうな。こんな派手な造形は目立っちまうからな」

「真っ二つに折って、懐にしまっとくとかか」

「アホ」

「はいはいーくだらない会話してるところ申し訳ないですが、少しどいて下さいー」


 ドスとケベが駄弁っていると、後ろから受付嬢が割って入り、掲示板に新たなクエスト依頼書を貼って去っていった。

 ケベがその受付嬢の後ろ姿を、鼻の下を伸ばして見る。


「今の子、見慣れないけど新しい子かなぁ。可愛かったなぁ」

「おいやめろケベ。女性にはジェントルメンであれがモットーの俺達、『ドスケベコンビ』という誇り高き名を汚すな。……ってうわ、また魔人討伐のクエストか」


 ドスはケベに文句を言った後、追加されたクエストを見てまた渋い顔になっていた。

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