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八十話:放ってはおけないのです

「ミルラちゃん、どうしたの?」

「いや、向こうの瓦礫の上に横たわっている巨体、魔物じゃないです。あれは……『ヴァルキュリア』です」


 そう言ってミルラが指さす先、確かに連邦の巨人型魔器がうつ伏せになって倒れている。今連邦軍はもっと区画の内側で魔人達と戦っているはずであり、ミルラ達のいる外壁沿いにいるのはおかしい。


 どうやら敵の攻撃を受けて大きく吹き飛ばされ、こんな所へ不時着してしまったのだろう。

 所々ボディにへこみや傷があるように見えるが、全壊まではしていないようだ。


「ん……ああ、本当だな。くっ連邦め、いい気味だ。そのまま魔物達に破壊されるといいさ」

「ま、まってキース。あの『ヴァルキュリア』の背中……蓋が開いて、誰か出てくるよ?」


 そんなニノの言葉通りに、操縦席の出口らしき扉から這いずり出るように人が出てくる。

 三人の、迷彩服に身を包んだ亜人達だった。


「うぐ……。おのれ魔人達め……機体自体はまだ動きそうだが、落下の衝撃で通信設備がやれた。手持ちの通信機も……くそっ、壊れているか。何よりも、我々自身が大きなダメージを……」

「ガ、ガヤ軍曹! リリヤ上等兵の意識が戻りません! 回復させなければ、命も危ないです……!」

「なに、本当かドド一等兵!? これでは戦闘も継続出来ないし、他の分隊に救助も要請できない。せめてリリヤ上等兵を治療しようにも……安全な場所まで彼女を運ぶだけの力が、我々二人にも残っていない。くそっ、すぐにここへ魔物達も襲い掛かってくるかもしれないというのに! ……すいません、ヨルムの姐さん。約束、果たせそうもありません……!」


 ミルラは彼らを知っている。彼女達の所属していた分隊の連邦軍メンバーだった。


 先程もヨルムンガンドの反理の中で会話をした、足を負傷した様子の狼の獣人男性・ガヤ軍曹。

 同じく負傷した右肩を抑えながら苦しそうに顔を顰めるエルフの若い男性・ドド一等兵。

 そして頭から血を流し、目を閉じたままぐったりと動かない猫の獣人女性・リリヤ上等兵。


 負傷している彼らに、意識を失っているリリヤ上等兵を担ぎながら移動できる力はない。あんな目立つ機体の下にいては、すぐ魔物達が駆けつけて彼らを喰い殺してしまうだろう。


 一瞬の逡巡の後に、ミルラは立ち上がった。


「……いきましょう、みんな。彼らを助けるですよ」

「な……正気かミルラ!? あんな奴ら助けたって、俺達には何の得も無いぞ!?」

「そ、そうだよぅ……! しかもあんなところに行ったら、ぼぼ僕達だって危険だよ……!?」


 当然、キースとニノには反対される。それでもミルラは真っ直ぐにガヤ軍曹達がいる方を見据え、静かな口調で言う。


「でも、困っている人を放ってはおけない。それが……冒険家というものではないですか?」

「「……!」」

「……私もミルラちゃんの言う通り、あの人達を助けたいの」


 絶句する二人に、今度はサシャが語り掛けた。


「私がさっさと回復魔法を使ってから、すぐに逃げよう? 見殺しにしてしまう方が、私は嫌なの。だからお願い二人共、一緒に来ては……くれないかな?」

「……っ、サシャまで。ああくそっ、分かったよ! 他でもないリーダーの方針だ! ほら、お前も行くぞニノ! サシャの頼みでもある!」

「ぼ、ぼぼぼぼ僕がサシャの頼みを断るわけないじゃないかー!! ……もちろん、ミルラのも。うわーんやってやるー!」


 サシャの説得のおかげで、二人もやる気になってくれた。いざとなったら自分一人だけでも行こうと思っていたのだが、それは正直怖かった。

 だから三人が来てくれることは、本当に心強い。


「……ありがとうです、サシャ、キース、ニノ。今のところ周囲に魔物の気配は無し。では、行くですよ……!!」

「「「おおー!!」」」


 威勢のいい掛け合いの後に、四人は駆け出す。

 

 接近者を認識したガヤ軍曹はすぐにこちらに向けてガンドの銃口を構えたが、すぐにハッとした表情になり固まってしまった。


「あ……あなた達は、我らの分隊の……! い、一体なぜここに……来ないでください、撃ちますよ!?」

「はー!? あなた達が囮としてここに飛ばしたんでしょうが!? もうあなた達の命令は聞かないです! 勝手に動きますよーだ! 問答無用にさあやれサシャー!」

「合点承知なのー! 『セイクリッド・ヒール』!!」


 威嚇するガヤ軍曹を無視して接近しながら、サシャは回復魔法を唱えてガヤ軍曹達を回復。リリヤ上等兵はまだ意識までは取り戻さなかったものの、三人共怪我は治ってしまった。


「……! な、なぜ……!? 我々は、あなたを裏切って……」

「知ったことか、なのです! このミルラ達のパーティは、そんな些細なことをずっと根に持つほど気の小さい連中だと思ったら大間違いなのです!」

「(……あれ、ひょっとして俺とニノは遠回しにディスられている?)」

「(……キ、キース忘れたの? み、ミルラって……割と根に持つタイプだよぅ……あわわ)」

「でも、もう後のことは知らないですよー! あなた達だってミルラ達と同じこの地で戦う者であるのならば、ここからは自分で何とかしやがれなのです! ほらあそこにさっき私達が隠れていた瓦礫の山があるので、そこで魔物達をやり過ごしつつその人の治療をしてやるといいのです! じゃあもう後のことは知りませんからね! アバヨ!!」

「(……ミルラちゃん、ダメなの。素の人の良さを全然隠しきれていないの)」


 こんな目立つ場所にいては、当然ミルラ達も危険だ。後は傷が治った彼らだけでもリリヤ上等兵を抱えつつ安全な場所へ避難出来るだろう。

 そうしてミルラも今後どうするべきかと考えながら彼らに背を向けて――


「……ま、待ってください!」


 ――ガヤ軍曹に、呼び止められた。

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