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二十五話:そして少年は、立ち上がる

 異質、異形。それはこの半人半魔だらけの光景の中、その言葉が最もふさわしい怪物だ。


 全身が黄金の甲冑で包まれて顔すらも見えないものの、包まれているそれは明らかに人のシルエットでは無い。

 全長三メートルは越える巨躯、そこらの丸太よりも太い手足、前に長く突き出た頭部、その後方に生える大きな二本の角。

 そして、右肩にはその体躯にふさわしい巨大な鎌を担いでいた。


 魔人、と言うよりは完全に魔物の姿をしているそれに対し、ヴィーザルは一転して機嫌の良さそうな声を発した。


「ヘイムダルお姉様! じゃあこれ、第三師団の一部!? ウッソーどうしてこんな所まで!?」

 

 ヘイムダルと呼ばれたその怪物は、やはり見た目にそぐわない気だるげな女性の声で呆れ気味に返す。


「そのままそっくり返すぞ、ヴィーザル。この一ヶ月軍議にも出ずどこをほっつき歩いていたかと思えば、こんな辺境の村で大好きな殺戮か? 兄上から探してくるよう命じられた私の身にもなってくれ。お前には、帰って相応の罰を受けてもらうぞ」

「ごーめーんってオネーチャン! 可愛い妹のやんちゃくらい許してよ……って、あ、嘘嘘許してくださいお姉様。これでもちゃんと見合う成果はあったからネ」


 鎌を振り上げたヘイムダルに、慌てて真面目に謝罪する。その拍子に口が滑ってしまったことを後悔した。


(あっちゃー。本当はもうしばらく一人で探し回ってみたかったんだけどなぁ……)


「……ほう。お前はこの一ヶ月、何を追っていたと言うのだ?」


 こうなってしまえばもう素直に報告するしかあるまい、お叱りも軽くなるだろうしとヴィーザルは話すことにした。


 これは、アース帝国をかつてないほどに大きく揺るがす出来事だ。


「最後の神器、継世杖リーブを発見だヨ!! でも、その保有者――神杖の勇者まで現れてしまった! 確保しようとしたものの、上手く逃げられてしまって行方も分からないネ。このままでは力を付けてアースへ反逆、なんてこともあり得てしまう! さあ大変だー!!」


 わざとらしく、周囲の魔人達にも聞こえるように声を張り上げ、その動揺を楽しむ。


(あぁでも、これはこれで楽しくなりそうだなァ……)


 僅かな沈黙の後、基本平坦な口調で喋るヘイムダルが珍しく食いつき気味に言葉を発した。


「……それは、一大事だな。魔人達には捜索命令、更に周辺諸国への指名手配、場合によっては我々が出張る、か。ともあれ、早速帰って詳しい話を聞かせてもらうぞ。今度こそ来てもらうからな、ヴィーザル」

「はいはい、分かりましたヨー」


 ヘイムダル達は回収作業を再開。ヴィーザルもそれに加わり、穴に戻る途中で澱んだ空を見上げる。


 今、この世界のどこかにいる彼に向けて、不気味に笑うのであった。


「さて、これでキミの物語は壊れた。さぁキミはどうする有麻信乃? 諦める? それとも、今度こそボク好みの新たな物語を紡ぎあげてくれる? あぁ、キミとの再会がとてもとても楽しみだ。ボクと共に、この壊れた世界で狂い続けよう。キャハ、ハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」



 □■□



 雨の降りしきる山中。

 人気の無い薄暗い森林の中で、有麻信乃はずぶ濡れになりながら膝を付き、項垂れる。


 この日、全てを彼は奪われた。

 仲間を、家族を、住まわせてくれた村を、勇者として歩むべき未来を、皆が与えてくれていた暖かさを。


「ロア……キノ……カイン……村の、みんな……」


 残された信乃は、静かに肩を震わせ、つぶやく。


 信乃一人が生き残ってどうなる。ヴィーザルによって今度こそアース帝国に信乃の存在が知られてしまい、これから多くの魔人達が彼を狙うだろう。


 これからどうやって一人で立ち向かうというのか。

 これ程の絶望的な状況があるものか。


 だが――


『お願いね、信乃。あなたが終わらせて』


「――アース、帝国!!」


 右の拳を土に叩きつけ、彼は叫ぶ。


「俺は……お前達を、絶対に許さない!!」


 ――だが、彼の心の灯火が消えることはない。


 託された思いがまだ残っている。

 初めて、「信乃にしか出来ない」と認めて貰えたことへの、意地が残っている。


(なあ、ロア。俺に何が出来るかなんて、やっぱり分からない。でも、お前が信じてくれた俺を、俺も信じてみたい……!)


 この日、何も無かった彼は初めて、自身の生に目的を見出した。

 それはあまりにも傲慢で、途方もない戦いだ。

 でも、一人の少女が命を賭して与えてくれた願いだ。


「お前達には、今日俺を逃がしてしまったことを深く後悔させてやる!! 覚悟していろ! お前達が見くびった俺は、必ずお前達を滅ぼしに行くぞ!! お前達がどれだけ強かろうが、俺がどれだけ弱かろうが、知ったことか!!」

 

 だから、信乃は叫び続ける。

 彼方に見える、雲の切れ間から差し込む光を泣きはらした目で見据えながら、彼は再び立ち上がる。


「ああいいぜ、やってやるよ! 俺が、お前達魔人を全て殺し尽くしてやる!! 俺が――世界を、救ってやる!!」




 少年は、狂いゆく世界で自分の運命を知り、慟哭する。


 されど彼は託された願いを抱え、始まりでしかなかった物語を超え、その先へ足を踏み入れる。




【序章・完】

 次回からは「第一章:偽りの少年と、偽りの少女」となります。


 ここから、彼の反撃が始まるーー


 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!


 いいね、ブクマ、☆☆☆☆☆等いただけると本当に嬉しいです。よろしくお願いします!

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