表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/307

六十一話:再戦の予兆

 □■□



 一時戦闘も終わり、リンドヴルムは超高速の安全飛行に戻る。


 その建物群一帯だけは、静かだった。


 後ろでは帝国軍と連邦軍との戦闘音。そして前方からは、複数の魔物達の雄叫び。


 ユミル・リプロスからも離れている。わざわざ防衛する意味もない地帯を、しかも近くまで来ている魔物達に巻き込まれるリスクまで抱えている場所で戦う利点もない。

 だからこそ帝国と連邦、魔物と冒険家達の両戦闘の狭間であるここだけは静かなのだろう。


 つまり、もう冒険家達の戦場も近いということだ。


(冒険家達に加勢し、魔物達を撃退。その後皆にも協力してもらい、帝国軍と連邦軍からの攻撃を防ぎつつ、シラの切り札とやらでユミル・リプロスを倒す。冒険家達も疲れているだろうし、どれだけ協力してくれるかは分からないが、こんな戦略しか思い浮かばないな。それにこうも大っぴらに先導しては、俺達の正体だって冒険家達に……この世界にばれてしまうだろう)


 無茶な作戦には当然代償がある。

 だが、覚悟の上だ。


 この戦いは紛れもなく、帝国へ看過できない損失を出すための、世界を救うための第一歩を踏み出すためのものとなるのだから。


 三人とも無言の中、信乃も自身の中で決意を固めつつ前方を見据え――


「――はいはーい☆ そこの御三方、お止まり下さーい。ここは私の一存で通行止めです☆」


 その先の中空に、見覚えのある眼帯メイドの姿を確認した。



 □■□



【07:30】


 少しだけ時間を遡り、外周区ビフレスト第一区画内の、連邦軍が既に制圧した一際高い塔の上。


 戦火に包まれる第一区画を見下ろしながら、その塔よりも高いユミル・リプロスを見上げながら、悪魔と鬼の様相をした二人の美女が連邦軍に司令を送る。


「こちら、ヨルム中将。ノック中佐、状況の報告を。……ふむ、予想時刻通りにポイント4を奪取、これから『タルタロスⅡ』を設置、ですか。ありがとうございます。現在敵勢力が少ないポイント6より、分隊15478、07414、12259、08825、18540をそちらへ派遣します。気だけは抜かぬよう、設置と『起動』までそのポイントを死守して下さいね」

「こちらライザ少将や。リッシュ大佐はん、現状のポイント7はどうなん? 『タルタロスⅤ』の設置は終わったん? ……ほう、まだかかっとるん? 地下に敵潜んでて奇襲におうてる? もう、そんな大事なことはよ報告せえ! こっちで今から暇そうな分隊探して、そっちに加勢するよう指示送るわ。機材だけは壊さんよう、死守するんやで!」


 一緒に指示を飛ばすライザを横目に、ヨルムの顔は浮かないものだった。


 一晩かけて話し合い、全軍にも共有させた作戦の流れは、全体で見れば概ね順調。

 

 邪魔をしてきそうだった冒険家達も、遥か後方でロキの操る魔物達と勝手に戦ってくれている。残った障害である魔人達も、ヴァルキュリア達で余裕で抑えられているようだ。

 そうして余った機体で、ユミル・リプロスの「捕獲設備」を決めたポイントへの設置と防衛。


 現在はこの状況のまま膠着。しかし「捕獲装置」の設置が完了し、ユミル・リプロスを捕獲した時点でこちらの勝利。

 これでなんの問題も無い。今の連邦に、障害など何一つないのだ。


 ――だからこそヨルムは、不安を拭えない。


「ん、また通信かいな忙しい! はい、こちらライザ少将や! なんやダイン大佐はんかいな! こっちも忙しいんや、小さい問題ならそっちで解決しいや! ……は、未知の敵影を確認? 明らかに只者達やない、やと!? 映像回せ! ヨルムちゃん、どうやら緊急事態や!!」


 そう切羽詰まった声で、ライザはヨルムに呼び掛ける。


 ――それは、予兆としか言わざる負えなかった。


『ヴァーナ連邦! あなた達の作戦は、絶対に失敗する! 決してあなた達の思い通りにはいかない! だって――()()()()が必ずここに来るんだから!!』


 ヨルムはきっと、戯言でしかあり得なかったその言葉を、心のどこかで無視できなかったのだ。


「――」


 すぐに覗きこんだ機材に映った人物達には、全員見覚えがあった。


 竜を先頭で繰る赤髪の女、スルト。

 これだけならばまだいい。彼女の襲来など想定内だ。


 しかし、その後ろには絶対に一緒に乗っているはずもない二人が乗っている。


 片や全身真っ黒な装備に身を包んだ、ヨルムが()()()()()()()()()()()()()()だけでも「回復」、「聖域」、「不死の加護」という超サポート性能を有している、「死神のような勇者」。


 片や完成された赤銀の美貌に黒と灰色の装備を纏い、全属性を扱うことであらゆる魔物や魔人を圧倒し、更には「完全顕現」により血盟四天王(フォルス・ブラッド)の魔人とも渡り合う力を秘めた「天使のような魔王」。


 作戦上では完全に省いてしまっていた彼らが、その盲点が、今こうして連邦の企てを妨害しようとこの戦場に舞い戻ってきている。


「……そう、そうですか。あれだけ痛めつけたのに、絶望を見せつけたのに。それでもあなた達は、よもやスルトさんまで味方に従えて……ここにまた来てしまうのですね。――有麻信乃さん、ニーズヘッグ・ブラッドカイゼルさん」


 ヨルムは、今の感情が自身でもよく分からなかった。

 そう自身から発せられた言葉は、震えている。


 それは戦慄なのか、憤りなのか、もしくは歓喜なのか区別がつかなくなっているのだ。


「……え、これがヨルムちゃんが言っていた二人なん!? しかしこいつはまずいで! 連中、どうやら冒険家達への加勢に向かうようや! これで今のパワーバランス傾いて冒険家達が魔物の大軍に勝利してもうたら、今度はこっちの妨害に来てまう! 何としてでもそれは阻止せなあかんで!?」

「……ふ、ふふ。ふふふふふふふ。ご安心を、彼らの足止めは……この私が直々に請け負います。ライザ少将、あとの連邦軍への指示はあなたに全て任せましたよ」


 突如背を向け、前方に反理への穴を開けたヨルムを、当然ながらライザは呼び止めた。


「は!? ヨルムちゃんあんた、あれらをたった一人で相手するんか!? いくら何でも分が悪いやん!?」

「まあ、正々堂々ではかなりきついでしょう。しかし私の目的はあくまでも足止め、やばそうになったら適当に逃げますよ。……ああ、そうだ。一応一つだけあなたに指示を出しておきますか」


 説得の途中で言っておかなければならなかったことを思い出す。ヨルムは再び踵を返し、心配そうな顔をしたライザに耳打ちする。


「……!」

「……そんなわけです。さっきも言った通り、後はあなたに委ねます。よし、こうして部下に丸投げしたヨルムちゃんは好き勝手に暴れるのです☆」

「馬鹿、ヨルムちゃんの大馬鹿! 考え直せや! これであんたが、死んだりでもしたら……」

「馬鹿馬鹿うるさいですね、殺しますよ? ……ごめんなさいね。『中将』なんて大層な位を貰っておきながらも、結局こういう立ち回りが一番性に合っているみたいです。ご安心を、そう簡単に死ぬタマじゃないことはあなたも良く知っているでしょう? ではまた後程――ライザ姉」

「ちょ……待ちぃや、ヨルムちゃん! ヨルムちゃんーー!!」


 連邦軍指揮官としての仕事はこれで全うした。

 ここからは、「血盟四天王(フォルス・ブラッド)」としての力を示す時だ。


 ずっと呼び止めようとしてくれているライザを置き去りに、ヨルムは今度こそ決着の場へ向かうべく反理の穴へと入っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ