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二十三話:私が見つけた、最高の勇者

 信乃は、変われもしないくせに「変わりたい」などと願ってしまった。

 きっとそれが、罪だった。

 

 あの世界ではない、いくつも見てきた物語のような違う世界で生きられたらどれだけいいのだろうと憧れた。

 そんな時にこのファンタジー世界に召喚されて、今度こそ自分の何もかもが変わるのだと思った。 

 信乃しか使えないという神器を手に入れ、勇者と持て囃され、ずっと抱き続けてきた劣等感も薄れていた。


 だが、その結果がこの村の惨状だ。


 勇者が敵に狙われるなど当然のことなのに、信乃はこの村まで巻き込んでしまった。恐ろしい怪物に対抗出来ず、多くの人を見殺しにしてしまった。


「俺じゃない、勇者らしい他の誰かならもっと上手くやれたはずだ! あのヴィーザルの撃退にせよ、逃亡にせよ、策を巡らせてちゃんと出来るはずなんだ! それを、お前や、キノ、カインの後ろでただ震えて見ていただけだった。その結果、二人も、身を寄せさせてくれた村人達も死なせてしまって……。だから、全部俺のせいなんだ」


 ロアは、何も言わない。ただじっと目を伏せ、石碑の操作を続ける。そんな彼女へ、信乃も懺悔と懇願を続ける。


「お前が俺を置いて、この神器と共にワープすればいい! そうすれば、きっとまた俺よりも勇者らしい、この神器にふさわしい別の勇者が生まれるはずだ。お前がそいつと共に世界を救え! こんな世界を救える保証が全くない無能を生かすよりも、遥かにいい選択のはずだ!」


 地上の方から、微かに物が吹き飛ばされるような音が聞こえる。あの道化の拘束が解けて、彼らを探しているのだ。ここが見つかるのも時間の問題だろう。

 焦りから更に激しく鉄格子を揺らし、俯きながら信乃は叫ぶ。


「だからもういいから、俺のことなんて見捨ててしまえばいいから……勇者の仲間なんて――俺の仲間なんて、もうやめちまえええええええっ!!」


 だが、そんな信乃の叫びをかき消すような更に大きな声が聞こえた。


「――神杖の勇者、有麻信乃!!」


 反射的に信乃は顔を上げる。

 ロアだ。彼女は手を止め、じっと信乃を見ている。

 目が合うと、彼女は笑った。


「私は、元の世界のあなたを知らない。でも今のあなたなら知っている。あなたは弱虫なんかじゃない、臆病なんかじゃない。いつか世界を救う、本物の勇者なんだってことを」

「……違う。お前は何も分かっていない。さっきも言っただろ!? 俺は、何も出来なかった人間だって! 今だって、こうして……!」


 頑なに否定するしかない信乃に対し、彼女もまた首を振る。


「何も違わないわ。……ねえ、覚えている? その神器を取りに行った日。あの恐ろしい魔人に襲われながらも、あなたは一人で神器まで走ったのよ」

「……!」


 思わず、息を呑んでいた。

 確かにあの時は、無我夢中だった。死にたくなくて、誰も死んで欲しくなくて。ただただ必死に走ったら、いつの間にか目の前に神器があった、そんな感覚だった。


 ――どんな理由であれあの時、信乃は自らの意志で動いていたのだ。


「あなたが恥ずかしがり屋で、人付き合いが得意ではない方なのは知っている。実は結構頭が回るし色々器用に出来る人なのに、自分を過小評価していることも知っている。――そんなあなたは、それでもあの時走ったの。魔器だってろくに使いこなせなかったくせに、戦闘だって初めてだったくせに、魔人に遭遇すらしたことなかったくせに。そんな不安と恐怖の中、誰があの状況の中走れたの? カインもキノも、私ですらもきっと無理よ。……あなただから、あなただけに出来たのよ、信乃」

「……ッ! でも、でも……!」


 首を振るが、その先の言葉が出ない。

 信乃だけにしか出来なかった。

 そんな言葉、やはり信じられない。信じられないはずなのに。

 信乃は何も出来ないし、勇者など務まるはずがないのに。


「ねえ、忘れないで信乃。あなたはあの日、紛れもなくあなたが、あなたの意志で神器に触れて――勇者になったんだよ。だから、信じてる。あなたは私の見つけた、最高の勇者だってこと」


 それでも、彼女の言葉が深く信乃の心に染み渡った。

 それを、拒絶してしまいたくなかった。


(――ああ、そうか。俺は初めて、誰かに認めてもらえて……)


『システム・ゲートノア。起動シーケンス九十パーセントまで完了。行先を入力してください』

「条件検索。このミズル王国以外の、人も魔物も魔人も生息していない場所!」

『検索該当。入力完了。これより対象を、隣国アルヴ王国のヴァール山中へと転送します』


 魔器の自動音声とロアの声の掛け合いの後、ゲートノア自体が青く発光を始める。起動が開始したのだろう。


「……そうだ。この子達も、連れてって貰える?」

 

 ロアはこちらを向き、鉄格子の隙間からそれを投げ入れる。

 二丁のガンド、ロアの魔器だ。


「頼む……待って、待ってくれ……! 行かないでくれ、ロア……! これから俺一人で、どうやって……!」

「お願いね、信乃。あなたが終わらせて。私達人間に、今度こそ希望と平和をもたらして。大丈夫、信乃にならきっと出来るよ! 私、ずっと待っているからね」


 泣きながら懇願する信乃に、ロアもまた泣き出しそうになりながらも精一杯の笑顔を向けた。


 その時、部屋の入口の扉が勢いよく破壊される。


「みィーつけた」

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