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十九話:惨劇の始まり

「……は?」


 四人は、ただ茫然とするしかなかった。

 神杖の力によって大幅に強化された魔法が、確実に魔人を倒せるはずの一斉攻撃が、こうもあっさりと撃ち破られるなどと、全く思っていなかったのだ。

 しかも、相手は風魔法ならばキノの火魔法が有利であるはずだ。それすらも簡単に消すなど、普通はありえない。

 だが、さっき出た異常な数値が全てを物語ってしまっていた。


 あの道化が出していた魔法威力に、三人の最大魔法の同時攻撃を以てしても、キノの属性相性有利を以てしても、その威力が全然届かなかったというだけだ。


「いやーなかなか良かったヨ。ボクにこのレベルの魔法を撃たせるなんて。これは将来が楽しみ……だったねェ」

「……嘘、嘘よ……。その詠唱……私達の撃った威力階級よりも更に上位が撃てる……その槍が『古き魔器』だったことはまだ許容出来る。強い冒険家でも、持っている人はいるわ……。でも、今の魔法攻撃力は……超大型魔物すらも軽く凌駕するそれは、なに? あなた……何者?」


 明らかに以前戦った魔人よりも、強さの次元が違い過ぎる。

 徐々に恐怖へ染まっていくロアの声に、道化・ヴィーザルは心底愉快そうに答えた。


「何者って、さっき言ったジャーン。アース帝国の魔人だヨ。……まあ、少々特殊な部類ではあるケド。それより、そっちの手の内はもうそれで全部? ちょっとまだ物足りないけど、じゃーア――殺すね」

「うおおおおおおおおおおっ!!」


 雄叫びを上げながら、頭に血が上ったカインがブレード・ガンドを構えて道化へ接近する。


「ダメ、カイン! 戻って!」

「うるせえロア! 魔法威力で絶対に勝てないってんなら、肉弾戦で無理矢理こっちの魔法を直撃させるしかねえだろうが! 『メガロ・ボルトスラッシュ』!」


 雷を込めたカインの斬撃は、しかし道化の槍に軽々と止められてしまった。


「アハッ! なにお兄さん、まだボクと遊んでくれる? イイヨイイヨ、こういう戯れも、ボク大好きなんだヨ!」

「抜かせガキ! 『ギガント・ボルトスラッシュ』! 『ギガント・ボルトジャベリン』!!」


 魔法をかなり短いスパンで連続で唱えながらの薙ぎ、突きを次々と繰り出していく。

 カインは村一番の力持ちであり、近接戦闘の達人だ。見ている信乃が思わず息を呑むほどに、綺麗で素早く、そして正確に道化の頭を狙っている連続攻撃だ。魔法が中心となり魔法威力がものを言う世界となったが、別に筋力や技量があっても腐るということはない。あまりの動きの速さに、ロアもキノもサポートが出来かねている。


 だが、それを道化は全て受け止めていた。

 槍を高速で払い、突きだし、回し、巧みに繰りながらカインの攻撃の悉くを防いでいく。


 そして信乃の強化が続いているはずの魔法に対して、()()()()()()()()使()()()()()()


「ぐ……う……! てめえ、なんだ、その奇妙な技は……!? 何で生身で、俺の魔法が防げるんだよ……!?」


 カインもそれをよく分かっているのか、徐々に顔が曇っていく。


「――魔流絶技・斬式。……って言っても世間知らずのキミじゃまだ分からないかー。そりゃこんな道化の恰好はしていますけれど、槍なんて持っているからにはちゃんと槍使い(ランサー)やっちゃいますヨ! これはオニーサマ直伝なんダ! ほいっほいっと!」


 そう機嫌の良さそうな声で言う道化は次々と繰り出されるカインの斬撃魔法を、絶妙な角度で放つ槍の突きによって彼の刀身をはじき、その内より溢れ出す魔法にすらなっていない魔力だけで彼の雷撃を乱しているようだ。信じがたいが、それだけで彼の魔法が止められている。

 このままでは、先に魔力が切れてしまう方は明確で――


「クソッタレがああ!! くらえ俺の最強魔法! 『ライジング・ボルトスラッシュ』!!」


〝ライジング・ボルトスラッシュ

 魔法攻撃力:150

 威力階級エクスプロージョン:×8

 魔法威力:1200〟


 カインはブレード・ガンドを両手で持ち、莫大な量の雷を刃にまとわせて道化に向けて振り上げる。

 だが信乃はその瞬間に、道化から再び莫大な魔力が溢れ出るのを感じて、底知れない恐怖から思わず叫んでいた。


「ダメだ!! カイン、逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「んー。もういいや、楽しかったケドそろそろ飽きちゃったヨ。バイバイ。『トルネード・ウインドジャベリン』」


〝トルネード・ウインドジャベリン

 魔法攻撃力:400

 威力階級エクスプロージョン:×8

 ジャベリン補正:×1.2

 魔法威力:3840〟


 一瞬だった。

 道化の繰り出した、風魔法で加速した突きは全く目で捉えることは出来ず、次の瞬間には突き出されていた。


 あれだけ眩く輝いていた雷は、今の風に呑まれて一瞬で消えていた。

 そして、ガシャン! と、信乃達の近くに何かが突き立つ。

 それは、つい今カインの使っていたブレード・ガンド。

 

 一瞬遅れてそのグリップからぼとりと、両手首だけになった肉片が地面に落ちた。


「あ……あ……」


 道化の槍の周囲には、何もない。


 そこにあったはずの、カインの上半身も。

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