二話:テロリスト
「「ぎゃああああああああああああああぁぁぁっ!?」」
爆音と絶叫が重なる。一瞬で火の海の地獄と化した場を信乃は瞬速で駆け、駅舎からの脱出を試みる。
「くそ! 撃て! 殺せ!!」
魔人達からの、彼を狙っての一斉魔法。信乃はシラをしっかりと担ぎ直し、真上へと跳躍。
「「な……っ!?」」
とても人を担いだままそんな俊敏な動きは出来ないと思っていたのだろう。驚愕の声と共に、空振った魔法達が炸裂してまた彼らが吹き飛んでいく。
「……温い、温いんだよ雑魚共が!! そんな威力がお前らの全力か魔人共!! だったら……俺が付け足してやるよ!!」
「「ぎゃああああああああああああああぁぁぁっ!!」」
中空に飛んだまま再び「タイムボンバー」を真下の群れ目掛けてばらまく。直後起こった絶え間ない爆発に次々と巻き込まれ、血肉と瓦礫が舞う。
それでも、まだまだ魔人達の数は多い。ちょうどその取り巻きの外側に着地するや否や、すぐに混乱に乗じてホームを後にする。
「ぐ……逃がすか!」
「……っ!」
すかさず「マジックポーション」で魔力を回復をしている間に、真後ろから飛んできた魔法の追撃が肩にかする。
すぐに振り向き、信乃は術者へ殴り掛かっていた。
「ぐふっ……!?」
数発の顔面殴打の後、失神し崩れ落ちそうになっている相手の腹を思い切り蹴り飛ばして後ろの群れにぶつける。
そしてすかさずガンドで発砲。
「『エクスプロージョン・バースト』!」
近くにいた魔人達諸共爆散。その爆風に顔を顰めることも無く、すぐにまた後方へ「タイムボンバー」をばら撒く。直後、後方の駅舎入口から殺到し囲んで魔法を撃とうとしていた魔人連中も吹き飛んでいた。
破壊。殲滅。殺戮。絶えず爆炎と硝煙が舞う地獄を、男はまた背を向けてただ突き進む。
「ひ……! なん……だよ、あいつ……」
負傷した魔人とのすれ違いざまにふと、そんな声が漏れたのを聞いた。
「あの危険な爆弾魔の……どこが杖使いだってんだよ……!?」
「散れ!!」
信乃は駅を脱出すると同時に、その各所へばら撒いていた「タイムボンバー」を一斉起動。彼の鼓膜すらも破いてしまいそうな程に苛烈な爆発音と共に、大きなレンガ造りの駅舎が中に取り残されていた魔人達諸共崩れ落ちた。
少々全力を出し過ぎている。あれだけキンジからもらっていた「タイムボンバー」も、もうバックの中にはあまり入っていない。
だが彼はそんな危機的状況にも、炎を上げる駅舎にも気に留めることは無い。
怒りに燃える鋭い眼光で、ここからはまだ遥か北――この第二区画と第一区画を隔てる壁を見据え、叫んだ。
「帝国!! 連邦!! 待っていろ、これ以上お前達の好きにはさせない! 俺は勇者として……この物語を終わらせる!!」
□■□
【01:00】
第二区画の片隅にある壊れた噴水広場に、多くの魔人の骸が転がっている。
その中で立つのは、たったの三体。
一つはふらふらの信乃。残りは、彼の行く手に立ちふさがるボス級――大型魔人の二体だ。
「おのれ……よくも我が同志達を。だが、それもここまでだ!! 大型魔人二体を相手に生きていられることを期待せぬことだな!! この魔人『ファイアー・ギガスドレイク』と『サンダー・ギガスドレイク』が貴様をその背中の娘共々あの世へと送ってやろう!!」
そう叫ぶ、全長二メートルは超すトカゲ頭の巨漢。辛うじて人間サイズに収められているが、それでもでかい。そんなでかい二体の存在が赤と黄色の色違いで、それぞれブレード・ガンドとアサルト・ガンドを装備し信乃を睨みつけている。
「……どけ。『エクスプロージョン・バースト』」
〝エクスプロージョン・バースト
魔法攻撃力:160
威力階級エクスプロージョン:×8
無属性補正:×0.8
魔法威力:1024〟
信乃からの問答無用の発砲。だが相手の一体、サンダー・ギガスドレイクが怯むことなく応戦する。
「無駄だ! 『ハイライジング・ボルトブレス』!!」
〝ハイライジング・ボルトブレス
魔法攻撃力:150
威力階級ハイエクスプロージョン:×16
魔法威力:2400〟
黄色いトカゲ頭から吐き出される、電の吐息。大型魔法らしき高火力のそれは信乃の魔法を容易く撃ち破り、彼に迫る。しかし回避準備の出来ていた信乃はそれを何とか避けていた。
「ふはは! 無駄よ無駄! 神杖かなんだか知らぬが、人間如きが我らに敵うものか! ファイアーの兄者! ここは俺におまかせあれ!」
「ふむ……良かろう、サンダーの弟よ。存分にいたぶってやれ」
そんなやり取りの後、サンダー・ギガスドレイクのみが信乃へと接近する。
「無属性とは愚かだったな! 魔法攻撃力は随分と高いようだが、属性相性も無しにハイエクスプロージョン級は止められまい! 魔器の出番もない……我がブレスのみで仕留めてくれる! 『ハイライジング・ボルトブレス』!!」
〝ハイライジング・ボルトブレス
魔法攻撃力:150
威力階級ハイエクスプロージョン:×16
魔法威力:2400〟
再び吐き出される雷に対し――信乃は何もせずに立ち向かった。
「な……っ!?」
当然直撃するが、新しく装備していた「ピンチプロテクト」の魔法防御が発動する。
〝プロテクション・シールド
魔法攻撃力:160
威力階級エクスプロージョン:×8
無属性補正:×0.8
シールド補正:×2
魔法威力:2048〟
「がは……っ」
しかし防ぎきれるものでもない。防御を破ってきた僅かな雷が信乃を襲い、ダメージを受ける。
それでも、信乃は魔法を潜り抜けてサンダー・ギガスドレイクに接近していた。
「な……貴様!?」
「……ぺっ。捕らえた……ぞ」
口の中の血を吐き捨て、信乃は二つの物を相手に付着させる。
一つは「タイムスモーカー」。
どうせ近づけたところで、大型魔人クラスを簡単には仕留められない。向こうが不利を悟ればすぐに距離を離されて終わりだ。
だからこそ動きを止める。大型魔物以上にもなると「タイムスリーパー」や「タイムスタン」と言った状態異常付与の使い捨て魔器の効きは悪くなる。だが「タイムスモーカー」ならば誰だろうと確実に視界は奪える。
更にもう一つは、「光」だ。
これはシンジから教えてもらった知恵だった。この世界の植物には、揉みこむ等の刺激を与えると葉が短時間強い光を放つ「ヒカリソウ」というものがある。これを樹木よりとれた樹脂で作った簡易接着剤で敵に貼り付ける。これらの材料も少しだけ譲ってもらっていたことが幸いした。
「ぬう……!?」
そして「タイムスモーカー」が作動。当然辺りは煙で覆われ、何も見えなくなる。
もう一つ――たった今サンダー・ギガスドレイクに付けた、一際強く輝く「光」以外は。
「『エクスプロージョン・バースト』!!」
「な……ぐあああああああああああああっ!?」
煙の中を移動しながら、信乃は正確に相手へ発砲。一方で信乃の位置が全く分からない彼はどこへ逃げていいのかも分からず、一方的に魔法を喰らう。
勿論一度だけではない。煙の切れる時間までの間、信乃は容赦なく発砲を続けた。
「が……ぐ……ぐぎゃああああああああああああああああああああああっ!!」
そんな断末魔も途切れた直後、ようやく視界が開ける。
信乃の目の前には、爆発で焼け焦げた魔人サンダー・ギガスドレイクの骸が転がっていた。




