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九十五話:必ず、戻ってくる

 信乃は、思わず焦った声を上げて呼び止める。


「お、おい待て! お前達、何をするつもりだ!?」

「決まっているだろうアルマ君、時間稼ぎさ。頼りないが、それでも数十秒は何とか稼ぐ。その間に、カリンがあんたとシラ君を逃がしてくれるそうだ」

「ふ、ふざけるな!! 相手は血盟四天王(フォルス・ブラッド)の魔人だ!! お前達に勝てるはずがない、下手をすれば一瞬で殺される! ……シンジ、お前は今でも充分凄いが、きっとこれから多くの冒険家を率いるもっと凄い人物になる! ミルラ、キース、ニノ、サシャ! お前達はさっき言った通りだ! こんなところで、無駄に命を散らしていい人間ではないんだよ! だから、やめろ……戻れ!! 俺達のために、死に急ぐんじゃねえ!!」


 そう必死に叫ぶ信乃に、四人は振り向いた。


「……ッ!? お前、達……」


 皆、何かを覚悟した顔で信乃に微笑みかけている。


「……ふっ。もっと冷酷な男だと思いきや、あんたにもそんな一面があるんだねアルマ君。……そんなあんた達の願望だって、確かに聞き届けた。俺もそれに託したい、俺みたいな馬鹿の心を踊らせるに充分な理由なんだ。安心しろよ。見ていた限りあの魔人ヨルムンガンドは、ハマジさんの急所を外していたし、サシャ君をその場で殺しまではしていなかった。あの影の向こう側でどうなるのかは見当もつかないが、それでも現状では確定の死じゃない。確率は極めて低いかもしれないが……きっと俺達はまた、生きて再開出来ると信じている」

「ありがとう、です。アルマさん。私達はあなたに、シラさんに勇気をもらいました。アルマさんが勇者で、シラさんが魔王だと聞いた時は驚きましたが……そんなこと今更どうでもいいのです。あなたの言う通り、私達はいつか、あなたにも負けないような凄い冒険家になりたいです。でもそれは、そうなるべき世界があっての前提です。あのヨルムンガンドさんの選ぶ世界に、きっとそれはない。――だから卑怯ながら私達も、あなたのその願望に寄り添わせてください……! 行きますよ、みんな!」

「「おおー!!」」

「おい……待て、待てええええええええええええええッ!!」


 そう言い残し、四人は煙の向こう側に消えていくのだった。


「……あは。あの人達も……そしてあたし自身も、みんな馬鹿よね。本当に叶うかも分からない希望に……それでも私達は命がけでも叶えたいと思ってしまった。あたしなんて……あなたやシラちゃんみたいな凄い力も持っていないし、シンジやミルラちゃん達みたいな才能もない、ハマジさんやヨルムンガンドみたいな執念もない、本当にどうしようもない女だけど……それでも、託すことなら出来る」


 カリンはそう呟き、信乃とシラに右手を向けると、その手が淡く青色に発光し始める。


「……っ!? カリン、お前……まさか……!」


 信乃は、きっとこの魔法を受けたことがある。

 奇しくも似たような状況だ。迫り来るどうしようもない強敵。何も出来ない信乃。覚悟を決めた、少女の顔――


「……代償魔法、とも違うわね。あたしの生まれつき持っている……条件魔法ってやつよ。こうしてかなりダメージを負った時のみに使えるんだけど……これがやばい敵から逃げるという面では、意外とかみ合っている魔法なの。それでもまあ対象は……精々アルマ君とシラちゃんの二人が限界かしらね」

「……やめろ」


 煙の向こう側から、聞きたくもない声と砲声が聞こえてくる。


『……私は、本気です。ええ本気ですとも。かつての分隊の仲間だろうが、関係はありません。私に立ち向かうのならば、邪魔をするのならば容赦なく撃ち抜くのみです!!』

『うぐ……ぐあああああああああっ!!』

『うわああああああああああああああっ!!』

『キース!? ニノ!? このおおおおおおおおおおおおっ!!』

『くっ……ふふ、ほらほら! また人が死にますよ!? それでいいのですか!? 目の前の命を捨ててでも、あなたはこのわけの分からない世界そのものを取るのですか!? だったら、あなたもとんだ化け物ですね!! 勇者になるのでしょう!? 物語のように、大切な何かを救うのでしょう!? だったらさっさと出てきなさいよ――有麻信乃!!』


「……ッ! 俺は……!!」


 自分の所在を知らせるために叫びそうになった口を、カリンが震える左手の人差し指を当てて止めていた。


「……」

「……ふふっ。うん、それでいい。それでいいのよアルマ君。あなたの神杖の魔法……確かに見させてもらった。それは本当に綺麗な、澄んだ光を放っていた。あんな光、他の誰にも放てはしないわ。……あなたは間違いなく勇者なのよ、――有麻信乃君」

「……カリ、ン……」


 カリンの右手の青い光がより一層強くなる。その魔法は、着実に構築されていく。


「……だから、いいじゃない。あなたは何をしようが、どう言われようが、それでもあなたは、まごうこと無き……勇者なの。そんな暴論をかざしてしまえばいい。あいつの言葉であなたは言葉を変えてやらなくていい、化け物でいい。だからこそ、勇者である前に――男なら。あなたが男だってんなら……あなたが抱いた夢だけは、そしてあなたに付いてきてくれる女の子の夢だけは、何を犠牲にしてでも守ってみなさいよ……!!」

「……っ!」


 もうそれ以上、信乃は何も言えなくなってしまった。

 覚悟、とも違う。もうこの運命は覆らない。

 それでも再び戦場に立つ勇気だけは、今日出会ったばかりの女冒険家に貰ってしまった。


『く……ああああああああぁぁぁっ!!』

『ミルラ君!? ……ふっ、ここまでか。あとは、頼んだよ……俺達の、勇――』


 爆発音が止む。四人とも、もうやられてしまったらしい。すぐにヨルムンガンドがここを見つけるだろう。

 だがそれよりも早く、カリンの魔法は発動する。


「……なーんて、あたしも出来れば死にたくはないわ。――だから、助けに来てよ。さっさとシラちゃん起こして、あのヨルムンガンドも、ユミル・リプロスも、全部ぶっ飛ばしに戻ってきて。そして共に、明日も変わらず生きていくという大団円を迎えましょう? ……お願いね」

「……カリン、みんな……っ。……ああ、約束だ。俺達は、必ず――」


 視界全てが青白く染まっていく。薄れていく血まみれの顔でカリンは微笑み――唱えた。


「――『ワープ』」

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