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九十話:どうか諦めると言ってください

「あ……」


 呆然と、ミルラは周囲を見渡していた。


 もう、動いている影が一つもない。

 中空に浮いているヨルムンガンドが、この場にいた全ての魔人達を殺し尽くしてしまっていた。

 障害も完全に無くなり、今度こそ彼女は信乃達を見つめている。


「……ッ、ごっはああああああああああああああああああああああっ!!」

「ハマジさん!!」


 光の刃で身体を貫かれ、そして抜かれたハマジは盛大に吐血し、その場で倒れてしまう。

 そして更に()()()()()()()。動かないハマジはそのまま、彼の下に空いた黒い反理への穴へと呑み込まれてしまったのだ。カリンが叫び、伸ばした手も届かなかった。


「うふふ。甘い、やはりあなたは甘すぎるのですよ信乃さん。何を躊躇っているのです? かつての仲間とは言え、錯乱して裏切り、あなた達の命を狙う不届き者はこうしてきっちりと殺してあげないといけません☆」

「ヨルムン、ガンド……貴様……!!」


 怪しく笑うヨルムンガンドを、信乃は真正面から睨み返す。

 だが、この好機に逃げることが出来なかった信乃にもう打つ手がない。


「もう一度聞きますよ信乃さん。我々につく気はありませんか?」

「……断る」

「……そうですか。やはり馬鹿なんですね、あなた。ですが、そういう男らしい馬鹿さはあまり嫌いでもありませんよ。だから――尚更屈服させて私のものにしたくなるのです」


 目の前から、ヨルムンガンドの姿が突如消える。彼女自身がその下に開けた「穴」に潜り込んだのだ。


「きゃああああああああああああああああああっ!?」

「サ、サシャ!?」


 その直後に後ろから悲鳴が上がった。すぐにそちらへ振り向くと、再び穴からはい出たヨルムンガンドがサシャの首を掴んでいる。


「はーい。カワイ子ちゃん、捕まえちゃいました☆」

「い、いや……はなし……かは……っ」

「や、やめるです! サシャを離すで……っ!?」


 彼女の近くにいたミルラ、キース、ニノが咄嗟に救出へ向かおうとしたものの、その間に出現した穴よりはい出た三つの砲門によって動きを止められてしまう。


「だーめ、ですよ。これは罰なのです。恨むなら、そこの意固地な勇者さんを恨んでくださいね☆」

「う……っ!?」


 首を掴まれて持ち上げられたサシャの後方に、新たな「穴」が出現する。そこにヨルムンガンドは彼女を押し込み、ハマジ同様その向こう側の世界へと(いざな)ってしまった。


「あ……いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!! サシャああああああああああああああああああああッ!!」

「く……ふふっ。よい悲鳴をありがとうございます、ミルラさん。私、これでも真面目な女なのですよ? ですので、そんな絶望的な声を上げられては困ります。……私、不本意でも高ぶってしまうではありませんか♡」


 下衆な笑みを浮かべたヨルムンガンドはまた穴に潜り、先程と同じ位置の中空へと穴を通して戻ってくる。


「ねえ信乃さん。折角ですので、分隊の皆様にもあなたが勇者である証を見せられてはどうです? ……そして勇者でありながらも、守るべき人達が成す術なく消されていく絶望を味わってはどうです?」

「……っ!」


 彼女の周囲から再び、反理より複数の砲門が顔を覗かせる。当然、これらの攻撃をガンドで凌げるものではない。


 信乃は、この世の物とは思えない美しい花のような神器「継世杖リーブ」を顕現させていた。


「……っ! それが、アルマ君の……『神杖の勇者』の真の姿……!」

「――神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、我らが障害をこの聖域より払え――『ディヴァイン・サンクチュアリ』!!」

「――魔導大砲20門、駆動。相手にとって不足なし。かの絶対領域を浸蝕せよ、『ブリュンヒルデ』!! 『カタストロフ・ライトニングマルクレーザー』!!」


〝カタストロフ・ライトニングマルクレーザー

 魔法攻撃力:315

 威力階級カタストロフ:×32

 光属性補正:×1.2

 ヴァルキュリア補正:×1.2

 魔法威力:14515.2〟


〝ディヴァイン・サンクチュアリ

 魔法攻撃力:160

 威力階級ディヴァイン:×128

 光属性補正:×1.2

 スフィア補正:×1.5

 魔法威力:36864〟


 残された分隊の皆を包み込む半球状の「聖域」を展開。直後、ヨルムンガンド側より放たれる複数の光線が降り注ぐ。

 だが、スルトの「レーヴァテイン」やフェンリルの「レギオン・ファンタズム」程の威力ではない。聖域は軋みながらも、悠々とその攻撃を凌ぎ続けていた。


 だが、ここで信乃は更なる異常に気付く。


「……ッ、お前……ぐ……う……っ!」


 相手の攻撃が、余りにも長すぎる。その絶え間なく降り注ぐ光線が途切れる気配が、一向に訪れないのだ。


「……う……っぷ。私の魔力切れを期待しても無駄ですよ、信乃さん。私の反理にいる『ブリュンヒルデ』には、大量の『マジックポーション』を積んでいます。その内部の液体を、直接私の体内の胃袋まで繋ぐ門を介して接種して、こうして攻撃中でも魔力を回復しているのです。アウンなる神様の『無限魔力』の加護など、この私にかかれば不要なのですよ……!」


 ヨルムは、若干顔色を悪くしながらそう説明してくる。

 ほぼ物質の瞬間移動(ワープ)にすらも近い芸当だ。それで信乃は、「ハイドラ・ゲート」が想像以上に厄介な魔法だということを再認識せざる負えない。


 勿論彼女には帝国からの魔力供給がないまでも、それを無理矢理補う手段を編み出しているようだ。そして魔力が切れることがないために、実際にこうして光線を撃ち続けていられるのだろう。


 いつもならばそれも大きな問題でもない。この時間稼ぎの間にシラが魔力を回復し、敵に突っ込んでくれていた。

 だが、そのシラは背中で眠ったままだ。


 このままではいずれ信乃の方の魔力が付き、聖域が消えてしまう。


「……っ、しかし……やはりこれを簡単に防ぎきりますか。素晴らしき力……だからこそ惜しいのです。このままではあなたの魔力が先に尽き、私の魔法があなた達を焼き焦がしてしまうでしょう! あなたの負けは確実なのですよ!? だから大人しく、降伏しこちらの要求を呑んでください! 『参った』と、そう言ってください!」


 この状況の中、しかし先程までの余裕とは一転し焦った声を上げていたのはヨルムンガンドの方だった。まだ信乃達を味方に引き入れることを諦めていないのだろうか。


 それとも、彼女の中に最後の良心が残っていたのだろうか。


「いつまでくだらない意地を張って、無駄な血を流すのですか!? あなたのそのプライドは、ただただそこの人々を傷つけるだけなのですよ!? 現実を見据え、夢など捨ててください! 在りもしない救いに身を投じないでください! 諦めて、妥協して、弁える……それだって、立派な命の在り方というものでしょう!? だから、『連邦に下る』と言ってください!! 言いなさい、有麻信乃!!!!」

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