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八十八話:反理の悪魔

「――接続(コネクト)。ガンド・光属性」


 彼女はそう言い放つと、その手元にまで伸びている台座の頂上に空いている穴に、すっぽりと自身が持っていたガンドの銃身をはめてしまった。


「属性、委託。現世――反理、座標リンク。空間感知センサー、モニター共に異常なし。魔導砲20門、魔導大砲20門、魔動手10腕、大星主砲1門、全て動作不良なし。魔力路回転率・80%。起動シーケンス・100%完了」


 その台座が、ガンドごと再び穴の中へと呑み込まれる。彼女が付けている左目の眼帯の模様が目まぐるしく点滅し始める。


 彼女は不敵に笑い――そしてこう宣うのだった。


「さあ、おいでなさいな私の魔器、私の乙女。起動せよ、『ヴァルキュリア・タイプ――<ブリュンヒルデ>0000』!!」


「……は?」


 信乃達も、そして魔人達も、ただ呆然と目の前の有り得ない光景を見ていた。


 ヨルムンガンドの周囲に、複数の穴が開く。

 その一つ一つから、長大な砲身が次々と顔を出す。

 

「……ふふっ、いいでしょう。そちらから来ないのであれば、こちらから打って出てあげます。繊細かつ奥ゆかしい子故、本体の顔出しはNGでお願い致します。ですがご安心を、その力は本物ですので☆ さて、あなた達はニーズヘッグさんを『赤銀の悪魔』などと呼んでいるそうですが――今ここに、本物の『悪魔』と言うものをお見せしましょう」


 莫大な魔力を発する何かが、穴の中で――理を隔てた世界の向こう側でキリキリと機械音を立てて蠢き、こちら側を複数の砲門で覗き込んでいる。


 その末端を垣間見た瞬間、信乃はどうしようもなく戦慄と共に悟ってしまう。

 それは怪物ですらない。それに自我も思考もない。

 ただ持ち主の意向のまま、敵を屠り続ける機構だ。


 次の瞬間にヨルムンガンドは、右手を前にかざし叫んでいた。

 

「――魔導砲20門、魔力充填、一斉照準、一斉照射!! 放て、焦がせ、蹂躙せよ、『ブリュンヒルデ』!! 『ハイホーリー・ライトニングマルクスネーカー』!!」

 

 視界が、光で覆われた。


 穴よりはい出た複数の砲門より、一斉に光の帯が照射される。それらがまるで蛇のように縦横無尽な起動を描き、魔人達へと迫る。


〝ハイホーリー・ライトニングマルクスネーカー

 魔法攻撃力:315

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 光属性補正:×1.2

 ヴァルキュリア補正:×1.2

 魔法威力:7257.6〟


「な……は、反撃を!!」


 咄嗟の判断で、相手達は防ぐための魔法をそれらに向けて一斉にぶつけ迎撃する。

 しかしその直後、敵の攻撃を受けた光束達が一斉に爆発するかのような閃光をまき散らし、魔人達を派手に吹き飛ばした。


「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」」」


〝白閃

 魔法威力:3628.8〟


 ――光属性固有特性・「白閃」。

 相手の魔法と相殺以上に持ち込んだ場合に発生する、第二波だ。


「な、なんだあれは!? くそ、闇属性魔法を使える魔人は前に出ろ!! 威力的に勝てなくともただ当てるだけで『白閃』は無効化出来るはずだ!」

「あー、エクストラ属性同士がぶつかった時の痛いところ突いてきますよね。闇属性も珍しいとはいえ、それだけの数がいれば魔物由来で何体かは持っていますか……。いいでしょう、ならば純粋に――火力で圧倒します☆」


 更に陣形を変えてくる魔人達に対して、ヨルムンガンドは全ての砲身を穴の中へ仕舞い、閉じる。

 そして再び複数の穴を開け、その内より更に一回り大きな砲身を次々と引きずり出した。


「……ッ!?」

「魔導大砲20門、魔力充填、一斉照準、一斉照射!! 瞬時に全てを焼き払え!! 『カタストロフ・ライトニングマルクレーザー』!!」


〝カタストロフ・ライトニングマルクレーザー

 魔法攻撃力:315

 威力階級カタストロフ:×32

 光属性補正:×1.2

 ヴァルキュリア補正:×1.2

 魔法威力:14515.2〟


 それらから放たれるのは、更に滅茶苦茶な魔力を孕んだ複数の光線。

 ヨルムンガンドを中心とした放射状に真っ直ぐ伸びたそれらは、敵が放つ魔法すらも容易く貫通。魔人達に直撃し、彼らをゴミのようにごっそりとどんどん焼却していく。


「なん、だ……何なんだよ……あの魔器は!?」


 信乃の気持ちを代弁するかのように、魔人達の間でそんな声が漏れていた。


 今まで見てきたどんな同威力階級魔法よりも、その魔法威力数値は高い。


 ヨルムンガンド自体の魔法攻撃力も滅茶苦茶な高数値となってはいるものの、スルトやフェンリル、ヴィーザルには及ばない。

 しかし、光属性特有の補正に加えて「ヴァルキュリア」の独自補正まで数値に乗算されている。

 その結果、彼女はシラの闇属性魔法すらも上回る威力数値を叩き出しているのだ。


 そんな代物を、次々と広範囲に敵陣営へぶちまけていく。


「「「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」」」

「あ……あ……」


 恐怖に顔を引きつらせているのは、魔人達だけではない。ミルラ達もその圧倒的な殲滅を目の当たりにし、言葉を失っている。


「く、そがああああああああぁぁぁっ!!」


 それでも、その攻撃を何とか掻い潜れた者達もいた。

 羽の生えた魔人が四体。魔力量や魔物要素の見た目からしてどれも大型魔人だ。速度が売りだったらしい魔物の力を引き継いだ彼らは飛翔して光線をかわし、そのまま同時に中空のヨルムンガンドへ近づく。


「たどり着いたぞ! あれが魔器だというのなら、所有者である貴様を倒せば止まるはずだ! 死ねぇ!! 『ハイライジング・ボルトスラッシュ』!」

「『ビッグ・ストーンクロー』!」

「『爆裂ファイアーファング』!」

「『ハイシャドウ・ダークネスクロススラッシュ』!」


 各々の魔人達はブレード・ガンドの刃に、爪に、大きく開けた口の牙に、広げた羽に魔力を込め高速でヨルムンガンドへ肉薄。もう新たな砲身を出して彼らを迎撃している時間も無い。

 その一瞬後、四つの魔法は女の身体を切り裂き――


「……は?」


 ――空振った。

 彼らが切り裂いたものは肉体ではない、この世界そのものだ。

 空間を割いた亀裂のような黒く細長い穴が彼女の周りに四つ展開。その各々が魔人達の魔法を別空間へ逃がし、完全に無効化してしまった。勿論亀裂の向こう側にいる彼女には一切の怪我が無い。


「あらあら、あなた達は魔人になっても馬鹿なのですね。一つをやってから新しい一つをやると、もうその前の一つを忘れてしまうだなんて。私の力は空間反転(ハイドラ・ゲート)による『絶対回避』の超防御。そしてこの世界そのものという最強の盾に守られながら駆動する、連邦の超技術の申し子による――超攻撃」


 直後、更にまた空いた四つ穴より這い出たのは、機械仕掛けの大腕――ロボットアームだ。

 それぞれの手には、ビームサーベルのような光で出来た刃を持っている。


「魔動手4腕、抜刀。全く、こんな可憐な女の子に向けて死ねは酷くありません? 罰として、同じことを言っちゃいます☆ ――死になさい、『ハイホーリー・ライトニングスクエアスラッシュ』」


 ヨルムンガンドが歪んだ笑みで、右手親指を立てて自分の首を左から右へ横一文字に掻っ切るようなジェスチャーをする。その動きに合わせて、四つの腕もその刃を振り下ろされる。


「「「ギッ……」」」


 魔法が空振ったばかりの四体は、無防備な背中から巨大な光の刃で両断され肉塊となって血飛沫を上げる。

 まともな悲鳴をあげることすら出来ないまま、大型魔人四体が一瞬で葬られてしまった。

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