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八十話:共に、世界を救いましょう?

「……!? ヨル……ふぐっ」


 思わず叫びそうになっていたミルラの口を、シンジが咄嗟に手で塞いでいた。


「……待て。彼女が無事なようで安心したが、このまま声をかけず少し様子を見ようじゃないか、みんな」

「……」


 小さな声量での口調自体は穏やかなものの、彼の顔はこの上なく切羽詰まり強張っている。分隊の皆も困惑しながらも特に反論はなく、素直に頷くのみだった。信乃もまた彼らと似たような心境で、ヨルムの様子を息を殺して見守る。

 やがて彼女は通信機を取り出し、どこかと連絡を取り始めた。


「――はい。こちら、ヨルム中将。ダイン大佐ですか。ええ、私は無事ですよ☆ 少し()()を探すのに手間取ってしまっていますが。不安だから早く第二区画で戦っている本隊に戻れ? うふふ。もう、なんやかんや私を心配するだなんて可愛げのあるオジサマですね。全然大丈夫だと言っているのに。それで、現在の我々の状況はどうですか? ……ふんふん……ほう、なるほど……」


 そんな何度かのやり取りや相打ちの後、彼女は急に表情を明るくしてこう告げる。


「……まあ! ついに見つけたのですね――『ユミル・リプロス』を! あの日ミズル王国を滅ぼした、素晴らしき破壊の巨人を!」


「「「……ッ!?」」」


 皆が再び息を呑む。特に信乃の動揺が大きい。


(なぜ、その名が今ここで……連邦の、ヨルムの口から!?)


 ――ユミル・リプロス。


 ()()()()について、大なり小なり皆が知るものだった。 

 それは約二か月前、アース帝国がミズル王国を侵略した際に突如出現した、謎の巨人だ。それは出現するなり、あちこちに光線を照射しあっという間に大地を焦土へと変えて、一つの国を物理的に滅ぼすに至ったのだ。そんなとんでもない噂は、もはや国境を越えてガルドル大陸全土に知れ渡っているだろう。


 そしてこの場では、間違いなく信乃が一番その強さと恐怖を知っている。

 光線のただの一つすらも凌げなかった。敵からかけられた情けが無ければ間違いなく死んでいた。

 信乃とシラは、結局それから尻尾を巻いて逃げることしか出来なかったのだ。


 しかしそんな下手をすれば大陸そのものすらも滅ぼしかねなかった巨人だったが、不思議なことにあの日以来忽然と姿を消してしまった。噂によれば、滅亡し帝国領になったミズル王国に、白い外壁が造られている途中の隙間から見えたその国土にすらも、その姿は全く無かったそうだ。

 ある者は幻だったのだろうと言い、ある者はすぐに壊れて消えてしまったのだろうと言う。そんな憶測が飛び交い、やがてはその巨人の存在自体を皆忘却し始めて――あるいは忘れたいと目を逸らして、誰もそれについて口を出さなくなっていた。信乃やシラだって、無意識のうちにその名を出すことを避けてしまっていた。

 しかし今ヨルムの口からその存在の名を聞かされて、改めて皆はそれが起こした惨劇と殺戮を思い出さずにはいられない。


「場所は……そう、ビフレスト第一区画に機能停止したままこれ見よがしに放棄されていたのですか。あんな危険物を、内周区にまでは入れておかないだろうという我々の読みが見事に当たってくれましたね。では今、本隊が交戦中の第二区画の方はどうなりました? ……なるほど、敵の総合勢力が第四第三区画よりも強くて手こずってはいるものの、何故か肝心の首領クラスの魔人は不在。なので危険は少ないため戦力を分け、一部を偵察隊として第一区画へ送ったのですね。第二区画の首領の存在が少し気になりますが……まあいいでしょう。もう、私を差し置いて有能ぶりを発揮しないでくださいよ☆ しかし、お手柄です。私も目的を果たし次第、すぐに第二区画に合流しさっさとそこも制圧して戦略を練りましょう。そろそろ相手も本気を出してくるでしょうが、今作戦は必ず成功させます」


 動揺している間にも、彼女の通話は容赦なく続く。それを信乃達はただ聞いていることしか出来ない。

 そして――


「――いよいよです。『ガルドル大陸完全破壊計画』のために、かの巨人は我々ヴァーナ連邦がいただきますよ」


 そしてヨルムの口からさらりと明かされた連邦の真の目的は、更に衝撃的なものだった。


 がたんと物音が立ち、彼女はそれで初めてこちらに気付く。

 ミルラだ。真っ青な顔で思わず立ち上がり、微かに震えている。勿論、周りの皆にもそれを止められるような余裕はなかった。


「ヨルム……中将さん。今の話……どういうことなのです? え、ミズル王国を滅ぼした破壊の巨人……『ユミル・リプロス』? ――『ガルドル大陸……完全破壊計画』?」

「……噂をすれば、向こうから来てくれたようですね。話を聞かれたようなので、即刻拘束します。また後程、ダイン大佐」


 重大な話を聞かれたというのに、特にヨルムに慌てた様子はなかった。真顔でこちらにはよく聞こえない声で短くやり取りをしてから通信機を切り、再びこちらを見て不気味な程の変わり身の速さで明るい笑みを浮かべる。


「……あらあら、こんばんは。ミルラさんに私の分隊の皆様方。それにアルマさんに、瀕死のシラさんも。フェンリルさんの奇襲を受けた時はどうなるかと思いましたが、とりあえず皆さん生き残ったのですね。見失ってしまった時はどうなることかと思いましたが、良かったです☆ これでまた、私達は戦えますよね? サイクロプスさんやオルトロスさんのような強敵が来ても、私達なら勝てますよね?」

「……えっ? えっ……?」


 ただ困惑した声を出し続けるしかなかったミルラに向けて、ヨルムはやはりただにこやかに笑いながら手を差し出し、語り続けるのだった。


「いやあ、必死に探して良かったです。私、本当に心配したんですよ? さあ、まだ我々は戦っております。私と共に本隊のいる第二区画へ参り、この作戦を続けましょう。またヴァーナ連邦に力をお貸しください。――共に、この世界を救いましょう?」

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