十四話:神器探索成功祭
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ノルン遺跡での冒険を終えた晩、トネリコ村では再び宴が開かれていた。これで二日連続である。しかし、仕方がないことなのかもしれない。
信乃達は見事継世杖リーブを持ち帰り、神器探索は大成功を収めたのだから。
「うぃぃ~信乃のにいちゃんー! 今日は無礼講だ、ぱぁーっと呑もうぜー!」
「そうれすよ~! 信乃も~盛大にはっちゃけていきましょ~!」
「げっ。何カイン、キノ!? 酔っ払い!? 悪いけど俺未成年……ってお前らもじゃね? やっちまったなおい!? ……ってこれただのミルクじゃねえか!! なんで、どゆこと!?」
信乃は隅っこで茶でも飲んでいようと思った矢先、すぐにカインやキノに発見され、絡まれる。
カインは出会った今朝こそただのチャラ男かと思ったが、わりと聞き上手で気配りも出来る。信乃の話のペースにもちゃんと合わせてくれて、オタクに優しいヤンキー的な奴だった。
キノはおっとりお姉さん気質かと思いきや、マイペースで人を振り回すトラブルメーカーな一面がある。探索の帰り道もいきなり「疲れました~」と信乃に寄りかかってきた時は驚いた。すぐに引っぺがしてくれたカインに感謝だ。
「信乃様ー!! そちらにおられたのですねー!!」
「我らが勇者、ここに復活せりー! 万歳ー!」
「うおお酒ー!!」
二人のだけではない。トネリコ村の人達も集まってきて、もみくちゃにされてしまう。もう滅茶苦茶だ。
「……はは、村人達の名前も覚えていかないとな。クラスメイトの名前すら覚えようとしなかった俺が、一度にこんなに覚えられるのか……?」
呆れながらも、心は昨日と比べてとても晴れやかなものだった。この世界に来て、初めて気持ちが休まったかもしれない。
どんちゃん騒ぎしながらも、今後の村の方針も決めていた。
明らかに脅威となるであろう神器と勇者が現れたと知れば、アース帝国も黙ってはいないだろう。四人がかりでやっと一体の魔人を倒せるという現状、魔人の大群で攻め込まれれば勝ち目はない。幸い襲い掛かってきた魔人ケルベロスは死亡し、帝国にそれを知る由はないはずだ。
帰ってから、村人全員に信乃の強化魔法をかけてみようとしたが、それは出来なかった。信乃を含めた四人が限度のようだ。
ならば少数精鋭で行く必要があるので、勇者の存在を村で秘匿しつつ、勇者信乃と仲間の三人はしばらく村で鍛錬を積むことにした。
いつかアース帝国の魔人達を倒しに行く――世界を救いに行くその日まで。
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宴も終わり、夜も深まった村はすっかりと静寂に包まれていた。火が消えて初めて分かったが、今夜は満月だ。
「ああ……疲れた……」
村人に長時間もみくちゃにされて疲れてしまった信乃が、しばらく一人で風に当たれる所を探すために村の外壁沿いを歩いていた時だった。
「あれ、ロア……?」
外壁の上にロアが座り込み、じっと村の外を眺めている。夜風で黒い髪がなびき、月明かりで艶やかに煌めいていた。
彼女もこちらに気付く。
「あれ、信乃。まだ家に戻っていなかったの?」
「ロアこそ。こんなところでどうしたんだよ」
そう言えば、今日の宴の間には一度も姿を見なかった。
ひょっとして、ずっとここにいたのだろうか?
外壁の内側に張って伸びているはしごを登ってロアの元まで来ると、彼女は隣に座るよう促してくる。信乃はまたちょっと赤面しながらもしぶしぶそこへ座った。
「……まあ、今日は色んなことがあったからね。ちょっと夜風にあたりながら頭の整理をしていたところ」
「確かにな。……ってか俺、本当に神器を使える勇者になっちまったのか。すご……」
隣に置いた杖を見ながら、また感慨深いものがこみ上げてくる。
「もう、何他人事みたいに言ってるのよ。しっかりしてよね。明日からは猛特訓だから。私達で、アースの魔人全てを倒せるくらいに強くならなきゃ」
「そりぁ、まだまだ先の長い話だことで……」
「……その、ありがとう。信乃」
突然そう言ったロアの顔を見た。近くで見る、月明かりに照らされた彼女の横顔はいつになく真剣で、綺麗だった。
そして彼女は、唐突に告げる。
「私の両親ね、数年前に殺されたんだ。魔人に」