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六十二話:異常値のからくり

 一瞬驚いたように目を丸くするシラだったが、すぐに頷いてくれた。


「……分かった。あなたはいつだって冷静に、勝利へと導く策を思いついてくれる凄い人。だから私は、あなたを信じる」

「何を言う。俺はお前と言う優秀な前衛の後方支援を務めるからこそ客観的に戦況を見つめる余裕があり、考え付くだけだ。何より結局勝利を掴むのは、お前の力にかかっている。頼んだぞ、シラ」


 シラにまたマジックポーションを渡す。ここから魔法の発動までの数秒、短いようで長い時間を稼ぐために信乃はフェンリルに向けて駆けだす。


「……愚かな。自ら命を散らしに来るか、神杖の勇者!!」


 もうフェンリルは、防がれると分かっている氷塊を飛ばしてくることすらなかった。大剣を構え、やはりその巨身には見合わない速度で信乃へと振り下ろしてくる。

 

「うるせえよ、馬鹿はてめえだフェンリル。その大層な鎧に包まれて余裕ぶっこいていられるのも、もう終わりだぞ。――『ディヴァイン・サンクチュアリ』!!」


 それに対して信乃は、真っ向から聖域を展開していた。


〝ディヴァイン・サンクチュアリ

 魔法攻撃力:160

 威力階級ディヴァイン:×128

 光属性補正:×1.2

 スフィア補正:×1.5

 魔法威力:36864〟


〝グレイプニル

 魔法攻撃力:380

 グレイプニル硬鎧補正:×120

 魔法威力:45600〟


「……え?」


 真っ先に驚きの声を漏らしたのは、後方で魔力の回復はしたものの、相手の大剣の斬撃に対してなんの捻りもなく信乃が聖域を展開したことに対して悲鳴を漏らしかけていたシラだった。

 

 確かに魔法威力の数値上は負けている。しかし信乃の聖域は、相手の大剣を易々と防いでいた。


「……ちっ、貴様。やはり気付いていたのか」

「あたりめえだ、無策で突っ込むかよ。……お前のその大剣と鎧、ただの防御魔法だな?」


 苛立たしそうに舌打ちをするフェンリルに対し、信乃はその矛盾について種明かしをした。


「さっきお前の大剣を受けたはずのシラに、思っていたよりもダメージは無かった。あんな数値を叩き出す攻撃魔法の威力だってんなら、いくら装備と強化魔法で防御を上げているシラでも身体がばらばらになっている。だがそうはならず、彼女はしばらくして立ち上がれる程度のダメージだった。つまり、お前のその大剣には攻撃魔法としての力は宿っておらず、純粋に物理的な質量で彼女を押し潰しただけだった。あくまでもその滅茶苦茶な硬度――防御魔法としての高い補正倍率がかかった威力数値で、シラの魔法を()()()()()()()に過ぎないんだろ?」

「……」


 フェンリルの沈黙を肯定と受け止め、信乃は話と続けた。


「お前はあくまでも()()()()()()()()。その大剣を成す巨大な氷塊、純粋な物量としては十分だろう。だがそこに、同じ防御魔法をぶつけた結果はこれだ。防御魔法同士がぶつかっても何も起こらないのと同じように、攻撃魔法としての貫通力が皆無のお前のその大剣は、絶対に俺の聖域を超えることは出来ないんだよ! お前の足止めなど、やはり俺でも充分だというわけだ!」

「……貴様」


 正解なのだろう。素顔の表情は分からないものの、フェンリルからは明らかに苛立たしそうな声が漏れる。結局、その大剣を振り下ろすことが出来ない。

 これで、時間は十分に稼げた。


「……もう。シノブ、本気で心配しかけた。こっちの身にもなって欲しい。後で怒っちゃうからね」


 シラに説明していられるような時間が無く、心臓に悪いものを見せてしまったことは申し訳なく思っている。確実に頬を膨らませているであろうそんな少し呆れ気味の声と同時に、後方の上空で巨大な雷の渦が立ち上る。

 それらが凝縮し、それでも尚巨大な雷柱を成す。


 ――魔王たる魔法が、そこに具現する。


「雷星の巨槍よ、穿て――『アルデバラン・ボルトカイザースラッシュ』!!」


 信乃も、急いでその場から退避してシラの元まで戻る。

 シラが今は天に掲げているハルバードの動きに連動して、そこから立ち上る巨雷柱も動くようになっている。これから倒れる先は当然、棒立ちになってしまっているフェンリルだ。対象も定まり、「ラタトスク・アイ」も既に彼我の魔法威力比較を表示する。


〝グレイプニル

 魔法攻撃力:380

 グレイプニル硬鎧補正:×120

 魔法威力:45600〟


〝アルデバラン・ボルトカイザースラッシュ

 魔法攻撃力:300

 威力階級アルクトゥルス:×64

 カイザー補正:×1.5

 属性相性有利:×2

 魔法威力:57600〟


「そしてここからが、その防御魔法すらも撃ち破る絶対火力の顕現だ。さあ、既に魔法は発動した。その鎧の中にどんなむさ苦しいおっさんが入っているのかは知らんが、いい加減に出てきてもらうぞ――『黒氷の騎士』!!」


 そう吐き捨てるように信乃が叫ぶと、騎士は溜息を付いた。


「……ああ。素晴らしいな、魔王よ。貴様の魔法威力が見えずとも分かる。その絶大な魔力量、どうやら私のこの鎧を以てしても砕かれてしまうようだ。いつぶりだろうか、これほどの危機感にこの身が苛まれてしまったのは。本当に見事だ、神杖の勇者に魔王の魔人よ」


 シラの最大火力魔法を前にし、そう敗北宣言をして氷塊すらも飛ばさなくなった騎士の様子を見て、思わず頬が緩んでしまいそうになってしまう信乃だったが――


 ふと。


(……おい、待てよ)


 彼は、とあることを思い出して再び顔が強ばっていた。


(あいつは、魔人だ。あの恐るべき氷を繰る血盟四天王(フォルス・ブラッド)の魔物、「黒氷の狂牙」フェンリルとやらではない。あくまでも、その力を宿す魔人だ)


 この違いは些細なように見えてかなり大きなものだ。

 何故なら――


(じゃあ、あいつが魔人として装備しているべき魔器の魔法は――あいつの、もう一つの魔法属性は……!?)


「――だからこそ、私は貴様らを全力で潰さねばならなくなった。私は外周区ビフレストの騎士である。帝国を守る為ならば、私は絶対防御の盾にも……そして貴様らを瞬時に屠る諸刃の剣にもなろう」


 そう言って、フェンリルは空の雷柱に対して臆すること無く大剣の切っ先を向けた。

 それだけで何故か信乃は本能的な恐怖を感じ、思わず叫ぶ。


「……ッ!! まずい、シラ!! 早くその雷柱をぶつけろ!! 奴に、()()を唱えさせるな!!」

「……!?」


 どう見ても勝ち確の状況の中で、突然何を言われているのか分からなかったのだろう。シラは驚愕の表情を浮かべる。 

 

 だがそれももう遅い。次の瞬間には、もう相手はその魔法を唱えていた。


「これが正真正銘の本気の一撃だ。私の好敵手としてまだ立っていたいのなら、どうか耐えてみせよ。――さあ、反転せよ、反黒せよ、『アロンダイト』!! ――『レギオン・ファンタズム』!!」

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