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十三話:勇者とその仲間達

 杖から緑光が広がり、あっという間にこの広間を埋め尽くす。


「お、おい! これって……!」

「は、はわわ~。そんなまさか、あの魔人にやられた傷が一瞬で……!」


 遠くでカインとキノの驚いた声が聞こえる。近くにいたロアの傷も、みるみるうちに塞がっていく。


「凄い……超回復魔法。こんなの、他の杖だったら使えないわ……」

「みんな、大丈夫か!?」


 信乃が声をかけると、さっきまでの苦戦が嘘のように三人とも不敵な笑みを浮かべた。


「ええ。それは間違いなく本物の神器よ。これなら……あの魔人にも勝てるわ!!」

「ク、クク……」


 魔人から笑いが漏れる。


「神器に、勇者。まさかそちらからのこのこ姿を現してくれるとはねえ。まだ未熟な今なら私でも捕えられる。そして帝国に持ち帰れば報酬は思いのまま。……ヒ、ヒヒっ。これはまたとないチャンスなのだァ!!」


 三つの頭がまた火を噴く。ガトリング型の魔器も再び唸るような回転音を上げ、風の刃をまき散らしていく。


「「「ぐあああああああっ!!」」」


 また三人に容赦ない攻撃が降り注ぐ。

 まずい、と信乃は思った。

 回復は出来たとは言え、あの魔人ケルベロスの攻撃力が高いことに変わりはないのだ。三人は守りに必死で攻撃に転じられず、相変わらず状況は変わっていない。三人の魔力もいつまでもつか分からない。


「ハハハハハハ! まずは三人が死ぬまで打ち続けてやる! 貴様がいくら回復しようと、不利なことに変わりはないぞ! 神杖の勇者ァ!!」

「クソ……あの魔人、魔力は底知らずか!? どうすれば……!」


 その時、信乃の頭の中にまた新たな詠唱が流れ込んでくる。


「……! これは……。神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、かの者達に万夫不当の力を与えよ――『ユグノ・ブースト』!!」


 すぐに唱えると、今度は杖から黄光があふれ出る。


「な……!?」

「「「……っ!?」」」


 また、四人とも驚いた表情になる。

 黄光が三人を包み込んだ途端に、回避や防御に精一杯だったはずの魔人の魔法を簡単にはじき返せるようになったのだ。


「えっ……、『ギガント・バースト』!」


 その理由は、たった今近くでロアが放った魔法の威力数値を見れば明らかだった。


〝ギガント・バースト

 魔法攻撃力:154

 威力階級ギガント:×4

 無属性補正:×0.8

 二丁持ち補正:×1.2

 魔法威力:591.4〟


「なっ……!?」


 信乃自身も大いに驚く。

 彼女の魔法攻撃力が、100も増えていた。


「今度は強化魔法……!? 魔法威力がすごく上がっている……キノ、カイン!!」

「おうさ!!」

「了解です~!」


 ロアがすかさず二人に連携を呼びかける。それぞれの魔器の魔法は炎を吹き飛ばし、風の弾を蹴散らしながら敵に接近出来るまでになっていた。


「すげえすげえこの強化! 魔法威力だけじゃねえ! 筋力も上がっているのか、いつもよりすげえ早く動ける!」

「なんか身体も頑丈になりました~! 何回か向こうの魔法もかすっているのに、あんまり痛くないです~!」


 カインとキノが歓声を上げる。

 逃げ場を失くすために三方向から敵との距離を詰め、魔人を追い詰める。


「おのれおのれ!! ただのニンゲン風情が!! これが勇者の力だとでも言うのか!? こ、この、魔人である私を……!!」

「キノ、カイン、ロア!! 行けえええええぇ!!」


 とうとう三人は魔人の目の前まで迫り、キノとカインが魔法を唱えた。


「『ギガント・フレイムレーザー』!!」

「『ギガント・ボルトスラッシュ』!!」


〝ギガント・フレイムレーザー

 魔法攻撃力:150

 威力階級ギガント:×4

 魔法威力:600〟


〝ギガント・ボルトスラッシュ

 魔法攻撃力:150

 威力階級ギガント:×4

 魔法威力:600〟


「ぎゃぁああああああああ!!」


 太い熱線が左方の狼頭をえぐり取り、激しい雷を帯びた刃が右方の狼頭を切断。そして絶叫する最後の頭へ、ロアが迫る。


「とどめよ!! 『エクスプロージョン・バースト』!!」


 二丁の拳銃を合わせ、二つの銃口に現れた魔法陣から大きな衝撃派を生み出し、最後の一撃を放った。


〝エクスプロージョン・バースト

 魔法攻撃力:154

 威力階級エクスプロージョン:×8

 無属性補正:×0.8

 二丁持ち補正:×1.2

 魔法威力:1182.7〟


「お……お……。アウン様の、祝福あれ……!!」


 大きな爆発の余波で、三人も吹き飛ばされてしまう。


 煙の収まったそこには、もう何も残されていなかった。



 □■□



「はう~。ロア、もう少し力の加減を考えてくださいよ~」

「ハハ……危うく俺達まで死ぬところだったぜ……」

「し、仕方がないでしょ!? まさか信乃の強化魔法が、魔法威力をあそこまで強化してくれるなんて思っていなかったんだから! 何よ千オーバーとか!? 悪いのは信乃よ!」

「それはあんまりだと思いますよ~……」

「要は、俺達があの神器について行かなくちゃいけないってことだよなぁ。ハハ、先が思いやられるぜ」


 目を回して倒れている三人の元へ、信乃は駆け寄った。


「ロア、キノ、カイン! 大丈夫か!?」

「……ええ。魔人相手によく生き残れたわね、私達。あなたに助けられちゃったわ」

「そんなことはない! この神器の力もあったけど、三人がいなきゃ勝てなかった」


 言ったことは事実だ。どうやら使える神器の魔法はあの二つだけのようだし、攻撃らしいことは出来なかった。信乃一人ではあの魔人は倒せなかったし、これから先もきっと難しい。


 それでも、神器の力とこのパーティならば、本当に世界を救えるかもしれない。魔人倒し、信乃はそれを確信していた。


 信乃は上体を起こしたロア達に手を差し出す。


「正直、俺はこれからあんな奴ら相手にどうやってこの世界を守っていけばいいかもまだ分からない。だからその……三人が良ければ、これからも俺の護衛をして欲しい。俺に色々教えて欲しいし、一緒に敵を倒して欲しい」


 そう言うと、三人は顔を見合わせた後に笑った。


「うーん、『護衛』ですかぁ~」

「それは今更ちょっと、なぁ?」

「えっ……!?」


 断られてしまったと思って硬直する信乃の手を、三人は笑いながら取っていた。


「謹んで、私達はあなたの『仲間』となるわ。どんな運命にも困難にも立ち向かい、最後まで貴方を守り通すと誓う。……これからよろしくね、勇者様」

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