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五十一話:ただ微笑みかける

 □■□



【17:30】


『あーてすてす。ヴァルキュリア全機に通達でーす。どうやら、各々所定の座標に着いたようですね。これにて準備完了ですー☆』


 アース帝国外周区ビフレスト・第三区画の上空。

 随分と傾いてきた夕日に照らされる中、再び冒険家達を乗せて滞空するヴァルキュリアの背中で、ヨルムが通信を取っていた。


 数十分前、第四区画の集合地点に全ての分隊が集まると、ヨルムは第四区画攻略成功の簡単な労いと軽く今後の第三区画攻略作戦の説明をしてくれた。

 とは言っても、やることは第四区画攻略時とほぼ変わらない。分隊単位で第三区画のあちこちの地点に降り立ち、魔人達を各個撃破。区画のボスと見られる超大型魔人を見つけ次第、近くの分隊が集まって協力して倒すというものだ。どんな力を持つ相手かも分からないので、対策はその時臨機応変に考えていく必要がある。

 

 そして、すぐにヴァルキュリアに乗って再び上昇。

 作戦は夜通し続き、寝ることも無く迅速に終わらせるようだ(この辺りの説明も三日前にされていた。皆前日は充分な睡眠を取ったことだろう)。情報遮断工作に加えてのこの進行速度。未だに別区画からの敵増援も追い付いて来るような様子もない。

 区画を挟む高い壁を越え、東へ――第四区画から第三区画へと全機は移動。壁上の見張り魔人を倒しつつ、次の襲撃場所である第三区画の端から端までヴァルキュリア達が配置され今に至るのだった。


 信乃達の分隊を乗せた二機のヴァルキュリアは、区画のほぼ真ん中にまで移動していた。

 ヨルムは、彼らを敵の本陣にぶつけた方が良いと先程の戦いで判断したのだろう。魔人サイクロプスもほぼ区画の中央にいたので、敵将はやはりその付近を陣取っているのだろうと考えているらしい。安直ではあるが、敵の情報もほぼないので仕方がない。一応どこに超大型魔人が現れてもいいよう、ヨルムは各分隊との通信だけは怠らないようにするとは言っていた。


「……」


 同じヴァルキュリアに乗っているミルラとサシャは、不安そうでありながらも気を引き締めた顔で真下の帝国の街並みを見つめていた。ちゃんと、先程のシラの言葉は届いたのだろうか。間違いなく、面構えに変化がある。

 そんな二人を、シラは陰ながら応援するかのようにじっと見つめていた。


『では、これより第三区画の制圧を開始します! 戦いはまだまだこれからですよ! 皆様、気張って行きましょうー!!』


 ヨルムの号令と共に、ヴァルキュリア達が帝国へと降下。再び戦いの火蓋が切って落とされる。


「……?」


 西から風が吹き付け、信乃のフードを揺らす。日が傾き始め、気温も下がり始めているからだろうか。


 少し、冷たかった。

 


 □■□



【17:45】


 第三区画中央付近、工場密集地帯裏路地。

 

「馬鹿な……この第三区画が亜人と人間共に攻め込まれているだと!? さっき入った情報では、第四区画ではなかったのか!?」

「くそ! 援軍に向かう準備を進めていたというのに、まさか我々が狙われているとは……!」


 驚愕し、悪態を付く魔人達が次々と倒されていく。

 ヴァルキュリアが空から襲撃し撹乱。その間に冒険家達は建物の影に潜みながら徐々に近づき、相手の背後から不意打ちで倒す。そして時には冒険家達が囮となり、その間にヴァルキュリア達が倒す。

 ヴァーナ連邦軍と冒険家達の連携も随分と取れるようになってきた。先程の第四区画攻略で得た成果とは、何も超大型魔人を討ち取ったという結果だけではない。

 こちらも少し死者や怪我人も出たので人数は減っているにも関わらず、第四区画よりも早いペースで制圧出来そうな勢いだ。


 そして信乃達の分隊もまた、奮戦していた。


「凄いね……これは。もうあんまり魔人が怖くなくなってしまったよ。いやもちろん一人で戦えと言われれば御免こうむるが。後ろのの建物から急に来るとかは絶対に止めてくれよ?」

「シンジ、あなた器が大きいのか小さいのかよく分からないわよ……」

「ほっほっほっ、そういう面を含めてのシンジさんの貫禄、というものですよ」


 例の大人三人も余裕があるのか、そんな無駄口まで叩いている。

 その中の一人――ハマジは、先程垣間見せていた闇はもう隠し戦いに専念していた。


「……」

「……アルマ。どうしたの? 疲れた? ぼうっとしている」

「……なんでもない。戦闘に戻るぞ」

「うん……」


 隣で心配そうに信乃の顔を覗き込んでいたシラから顔を逸らす。頭は切り替えているつもりだが、どうしても口数が少なく言葉もぶっきらぼうになってしまっているようだ。


「いたぞ、人間共! 死ねぇ!!」


 前方の建物の影から魔人が二体飛び出し、こちらに銃口を向けて魔法を放ってくる。

 

「シラ、お前は右を殺れ。俺は左を殺る」

「……了解」


 信乃もシラも一瞬で表情を引き締め、凄まじい速度で疾駆。あっさりと相手の魔法を避け、各々は狙いを定めた相手の眉間に銃口を突きつける。


「な……!?」

「『ギガント・バースト』!!」

「限定顕現――インドラスタッフ。『メガロ・ボルトバースト』!!」


〝ギガント・バースト

 魔法攻撃力:160

 威力階級メガロ:×4

 無属性補正:×0.8

 魔法威力:512〟


〝メガロ・ボルトバースト

 魔法攻撃力:300

 威力階級メガロ:×2

 魔法威力:600〟


 至近距離かつ急所に直接当てるならばこの威力でも充分。リュック内のマジックポーションにはまだ余裕があるものの、魔力消費を抑えておくに越したことはない。


「「ぎぁああああああああっ!!」」


 魔人二体は顔に風穴を空けられ絶命。今更ただの一般兵魔人の一体や二体に苦戦する信乃達では無い。


 動きには一切の衰えはない。

 戦いには、ちゃんと全くの支障はない。

 それだけで充分だ。


「……シノブ、あのね」


 シラが、何を思ったのか小声で信乃の耳元に話しかけてくる。


「なんだ。周囲に警戒しろ。どこから敵が現れるか分からんぞ」

「……大丈夫だから、何も怖がらなくていいから。シノブは、絶対に私が守るからね」

「……っ!」


 思わずシラの方を見る。もう彼女は信乃から顔を離し、一瞬だけ微笑んでから背を向けてまた飛び出してきた魔人へと突撃していった。


「……」


 思わず黙ってしまう。

 その時、そんな彼の心情もお構い無しに、少し遠くで通信機で連絡を取りながら器用に戦っていたヨルムが分隊に呼びかけた。


「皆さんー! この区画の超大型魔人を見つけたようです!! 予想通り結構近くっぽいですね! ここを制圧次第、我々もすぐそちらに向かいましょう☆」

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