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四十八話:私達に、意味はない

「ミルラ、大丈夫? 立てる?」


 シラはミルラに手を指し伸ばし、立たせてくれた。


「……ごめん、なさい。またシラさんに助けて貰ったです……」

「そんなの、気にしないで。理不尽に酷い目に遭っている人を助けるなんて、当たり前のことだから」


 理不尽。

 そう言った彼女は、別段深い意味は込めていなかったのだろう。

 それでも、その言葉が深くミルラの心に突き刺さってしまう。

 

「……ミルラ?」


 顔を上げられない。折角助けて貰ったというのに、お礼すら言えていない。

 他の三人も、暗い顔をしてしまっている。

 

 理不尽だ、酷い。そんなこと、分かっている。

 だが何よりも悔しくて腹立たしいのは、そんなことをされても何もやり返せない自分自身の弱さだった。


 結局は全部シラ達に助けて貰っているだけで。

 この作戦が終わって彼女達と別れた後、またザンボスに支配されてしまう変わらない日々が待ち受けていることなど分かりきっていて。


 ザンボスが怖い。魔人達が怖い。何もかもが怖い。

 あらゆる恐怖にずっと晒され続けてきて、もうミルラの心は限界で――


「……っ、……ぅえ……ぐすっ……うぅ、うわああああああああああああああああああんっ!!」


 とうとう、彼女は泣き出してしまった。

 


 □■□



「えっ、えっ……? どうしたのミルラ? どこか痛いの? あのザンボスって人に、酷いことをされたの? それとも、私が何か……?」


 ミルラが殴られそうだったところを間一髪。むしろこっちが怒られそうな程の威力でシラはザンボスを殴り飛ばし、そのまま彼は連行された。

 そうして事なきを得たと思ったのも束の間、何故か急に泣き出してしまったミルラに対してシラもこの上なく動揺してしまう。慌てて彼女を抱きとめてその背中を優しくさすっても、その涙は止まらない。


「……っ、うぅ……ち、がう……ちがう……です……!!」

「……ミルラ、ちゃん……」


 違う、違うと彼女は繰り返す。その涙につられて、他の三人も涙目で俯いてしまう。そんな収集のつかなくなってきた状況の中、それでもシラはミルラのその言葉の先を根気強く待ち続けていた。


 咄嗟に辺りを見渡したが、誰もいない。

 こんな時、信乃ならどうするのだろう? 本当は誰よりも優しく、人の感情に機敏な彼なら、きっとこんな時にどうすれば良いのか分かるはずだ。

 だが、彼はこの場にいない。探しに行きたいが、今のミルラを放置することなど出来ない。だから、シラが一人でどうするのかを考えなければならない。

 そんな頼りない彼女にもやがて、ミルラは語り出してくれた。


「……ぐすっ……分かんない、分かんないです……。ミルラは、自分が情けないんです……嫌いなんです……!」

「……そんなことない。ミルラは素敵な子で、いい子だよ。どうして、そんなことを思うの?」

「……だって、ミルラは弱いです……あなたみたいに、強くないです……。だから、何にも出来ないです……。そんな自分が、嫌なんです……ッ!!」


 彼女は感情のまま、言葉を吐き出し続ける。その言葉を、シラは優しく抱きしめながら一言も聞き漏らさないように耳を傾ける。


「ミルラ。あなたは、弱いの?」

「……ッ! そんなの……当たり前です……ッ!! だって弱いから、情けないから、こうしてまたあなたに助けられたです……っ。あのポイズン・ホーネットに襲われた時だって、さっきサイクロプスに襲われた時だって……! あなたがいなければ、私はとっくに死体になっていて、こうしてみっともなくあなたにすがりついてもいなかったですよ……! なんで、こんな迷惑なミルラを助けたです? なんで、こんな明らかに役立たずな私を助けようだなんて思ったです……!?」

「……助けて欲しく、なかったの? 私は、それを良かれと思ったのだけれど。あなたは、死にたかったの? そう言われてしまうと……私はとても悲しくなってしまう」


 血を、何度も見た気がする。何度も、命が散る瞬間を目の当たりにしてしまった気がする。

 シラは、きっと人一倍命の重さは分かっているつもりだった。

 だから、「どうして生かした」というミルラの言葉に、怒る権利すらないシラはただ本気で落ち込んでしまう。

 そんなシラの言葉を聞いてミルラは愕然と目を見開いた後、またそこから涙があふれてきてしまっていた。


「なん……で……! どうして、私を責めないで、自分……ばっかり……! 悪いのは、ミルラ……なのに……! だって……折角あなたに助けて貰っても……私、何にも出来ないよ……! どうせ生きていても、またザンボスさんに支配される生活が待っているだけで、私はそれにずっと逆らうことも出来ない臆病者で……! こうしてあなたに助けて貰った私は、結局ただ辛い未来が待っているだけです……ずっとずっと、誰かの私利私欲の為に都合よく支配され続けるだけです……! そんなこと、分かりきっているです……! だったら……だったら――」


 涙で顔も感情もぐちゃぐちゃになってしまったミルラは俯いてしまう。

 本当に何もかもが嫌になってしまっているようだった彼女は、その感情のままに叫んでしまった。


「――どうして、何のために、こうして冒険家という道を踏み外したミルラは生きているですか……ッ!?」

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