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四十六話:作戦への恐怖

 □■□



【16:45】


 ミルラ達は同じ分隊のヴァルキュリアに区画の角へと降ろされ、他の分隊メンバーが集まってくるまでは待機となった。

 彼女達の分隊が到着した頃には、全分隊の内まだ半分程度しか集まっていなかったように思える。集まり終えるまでにまだ少し時間はかかりそうであり、ミルラの分隊も大人冒険達やアルマが作戦会議を始めてしまい、出番のないミルラ達子供は完全自由時間となってしまった。


「……」


 彼女達四人は気晴らしに近くを歩くことになったものの、皆浮かない顔をしている。


「何なのでしょうね、ここ。数多の鉄の建物に、鉄の馬車。そして、どこまでも続く大きく平べったい一枚の岩の道。この帝国は、まるで別世界なのです」


 重く沈黙した空気を晴らそうと、そんな話題を持ち出したのはミルラだった。

 実際に、気になるところでもある。長年謎に包まれていた帝国の内部は、ミルラ達にも到底知りえない技術が詰め込まれている異空間だった。

 そんな得体のしれない地に、彼女達はこうして足を踏み入れてしまっている。

 彼女の問いに答えたのは、四人の中では一番しっかりしているキースだった。


「……ああ。ここは本当に訳が分からない。未開拓の遺跡と変わらないよ。どこまでも続く未知の領域。そして、どこもかしこも蔓延っていた『魔人』なんていう得体のしれない敵。生きて帰って来られる保証なんてどこにもない。……俺達は、ここに来る前に遺書でも残しておくべきだったのかもな」

「「「……」」」


 ミルラの努力も虚しく、また場の空気が重くなってしまう。


「……あの銀髪のお姉さんが助けてくれなければ、ぼ、僕達は、あの化け物に容赦なく……殺されていた……」


 ニノがその紛れもない事実を言って、震える。


「ごめんなさい、なの。私が足を引っ張ってしまったばかりに……」

「さ、サシャは悪くないよ! 僕が、もっと早くサシャが瓦礫に巻き込まれてしまったことに気が付いていれば……」

「……ッ! そんな責任の請け負い合いはいい!」


 謝り合うニノとサシャにしびれを切らして、キースが強い口調で言う。


「俺達四人の、力が足りていなかった! ザンボスが勝手に受けたこのクエスト、俺達には荷が重すぎたんだ! 俺達は……どうしようもなく、弱かった……」

「……」


 二人は黙り、ミルラもまた何も言えなくなってしまった。

 この依頼もまた、報酬が良いからとザンボスの独断で受けることとなってしまったものだ。

 場所は、敵地ど真ん中――勇者の伝説に例えるのならば魔王城に殴り込みをかけているようなものだ。そして立ち塞がる相手は、底知れぬ力を持つ無数の魔人達。

 それでもヴァーナ連邦軍の助力もあり、味方も多い。確かにブレイブクラスのザンボスならばまだ安全と言える。

 それでも、まだろくに経験も積んでいない駆け出し冒険家のミルラ達には、余りにも危険すぎるクエストだった。


「どうせあいつは、今回もまた俺達を敵の攻撃避けにでもしようと思っていた。たまたまあいつだけは別の分隊に移ることになってくれてそうはならなかったけど……結局ここが危険であることに変わりはない。俺達はもう、このザンボスが気まぐれで受けたクエストでいつ死んでしまうかも分からなくて……」

「……ッ! ……ミルラ、達は……一体……」


 ミルラもまた俯いてしまった、その時だった。


「――おい。ミルラ、サシャ、キース、ニノ」


 聞こえるはずのない声が――聞きたくもなかった声が聞こえた。


「……え?」


 三人の顔は引きつり、ミルラも怯え切った声を出してしまう。

 四人の前には、派手な格好と大きな槌の魔器が目立つ若い男の冒険家が不機嫌そうに顔を顰めながら立っていた。

 噂をすれば何とやら。ミルラ達の所属するギルドパーティ「デスザンボス」のリーダー、ザンボスだ。


「ザン、ボス……さん。どうして、ここに……?」

「ああ!? 相変わらずお前はグズの馬鹿だなミルラ! 今この付近に分隊が集まってんだろうが! 俺もさっき着いたんだよ! それともなんだお前、俺がいなくなっていればとでも思ってたんじゃねえだろうなぁ!?」


 鬼のような形相で彼は怒鳴り散らし、ミルラの襟首をつかみ上げて持ち上げる。


「か……!? ち、ちが……う! 違う……です……! ごめんなさい……ゆる、して……!」

「……ちっ。てめえら結構ポーションも減らしやがってよぉ、生意気に。この俺様を、あんなクソぬるい仕事しかない分隊に置きやがって……!」


 ミルラが涙目で訴えると、ザンボスは更に苛立たしそうに顔を顰めて彼女を乱暴に落とす。

 尻もちを付いてせき込みながら改めて見ると、ザンボスのリュックからはほとんどポーションが減っていなかった。身体に血痕もほとんどなく、ほぼ戦闘はなかったのだろう。


「まあいいや、そんなことは。このくらいで許してやるよ。……その代わりに俺が不在の間、お前達四人に俺から仕事を与えるぞ」

「……え」


 彼がそう言うなり急に醜悪な笑みを浮かべた時点で、嫌な予感はしてしまった。


「アルマ、だっけか。あのクソ生意気な黒ずくめの冒険家だ。お前達、隙を見てあいつを殺せ。致命傷でもまあ許容してやる。後は、シラとかいう銀髪の女を無力化して俺に差し出せ。ヨルムとかいうあの年増クソババアメイドもうぜえが……まあクライアントだからな。報酬も貰う必要があるから、あいつはいいや。とりあえずお前達の分隊にいるあの二人をどんな手を使ってでも仕留めろ、分かったな?」

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