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四十四話:かつてなき成果

 □■□



 その戦場にいた皆が、息を呑んでいた。


 一斉照射されたヴァルキュリア達の魔法が止まる。

 まだ煙も収まらない中、信乃、シラ、ヨルム、シンジ達他の冒険家が穴へと群がり、中を覗き込む。


 やがて晴れた煙の先。穴の底には、黒焦げになってピクリとも動かなくなった魔人サイクロプスの骸が転がっていた。


「「「……ッ!!」」」


 再び、皆は目を丸くする。

 その中で唯一、シンジだけはヨルムへと目を向ける。


「ヨルム中将、さん……」

「……ふふ。我々は結局とどめを刺しただけ。この戦いのほとんどの功績はあなた達冒険家によるものです。――ですので、どうか勝ちどきは……あなた達のやり方に乗っ取って上げて下さい☆」

「……! そうか。では、お言葉に甘えるとしよう」


 そんなやり取りを彼女とした後、彼自身にこみ上げてくるものを噛み締めるように右拳を握ってから、それを空に突き上げ、大声で宣った。


「ここにいる戦場の皆……超大ギルドの諸君!! 超大型魔人・サイクロプスはここに倒れた!! もちろんこれが今回我々の依頼された主目的ではないことは百も承知だが、これは冒険家ギルド協会史上でも全く前例のないことだ!! だから、どうか言わせてくれ!! ――『超大型魔人討伐クエスト』!! 大っ成功だああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


 その後に続いて、この区画全てに届くような怒号が響いた。



 □■□



【16:30】


 現在交戦中の第四区画のボスらしき魔人・サイクロプスを倒してからは、その区画の攻略はあっという間だった。

 各地で他の分隊と戦っている魔人達の耳にも魔人サイクロプスが討ち死にしたことが伝わってしまった結果、その士気と戦意が下がってしまったようだ。どんどん各地で魔人達の討伐及び撤退の報告が上がるようになる。魔人サイクロプス戦に臨んでくれた者達が早々に上げた功績は余りにも大きい。

 これで、第四区画の敵勢力はほぼ全て掃討出来た。


「はい。こちら、ヨルム中将☆ ダイン大佐、西部付近の制圧も終わりそうですか?」


 残党処理も終わりかけている分隊メンバー達から少し離れて、ヨルムは作戦本部と通信していた。


『ヨルムの姐さーん! お疲れ様です! そうですねぇ、分隊長達からは次々ともう敵が居ないって報告が上がってやすよ! アビル大佐、ラザ中佐とも既に連絡を取りましたが、情報を統合するともう第四区画ではほぼ戦闘が終了しているようですわ! いやすげえです! こんな短時間、しかも被害も想定よりも全然少ないですぜ!』

「もうー! 『姐さん』呼びはヴァーナ軍事基地内だけって言ってるじゃないですかー。ヨルムちゃん、怒っちゃうぞ☆」


 少し砕けた渋い男の声にそうおふざけを返した後、すぐに司令官モードで話を進める。


「ともあれ、それは上々。……その、少ないという我々の被害は? ご遺体は、ちゃんと回収出来ましたか?」

『あー。ヨルム中将のご報告含めた全体の情報を統合すると、ヴァーナ連邦軍の負傷者2241人、死傷者181人。ヴァルキュリアの部分破損810機――こちらは作戦本部へ負傷者の搬送も兼ねて既に到着済み、緊急修理を終え次第すぐにそちらに戻れますわ。完全破損は90機、こっちはすぐ修理は無理なんで一旦本部放置で。そして冒険者の方々ですが……負傷者が7531人、死傷者が624人といったところですねぇ……。肝心のご遺体ですが、やはり戦いに集中している最中にほとんどが消えてしまったとのことです。地下に潜んでいた魔人達に持ち去られたんでしょう。ほんとまあ、帝国ってのはとんでもなく闇が深いこってす』

「……ちっ。やっぱ気色悪いですねぇ地下の魔人達(あの蝿達)。確かに想定よりも被害は少ないですが、その尊厳を踏みにじられた死に方をしている者達がいるのも事実。地下にも殴り込みに行きたいところですが、そんな重箱の隅をまでつついていては他の区画にいる魔人達に追い付いつかれてしまいます。……口惜しいですが、お亡くなりになられた冒険家の方々には、その功績を称えてせめてそのご遺族に報酬をお渡しするようにしましょう」

『了解。英雄を我々は惜しみなく称えましょうや。……あとヨルム中将、もう少女って年じゃねえ女がそんな舌打ちと言葉遣いはいけませんぜ? あっという間に婚期を逃しちまうよ、ガハハハッ』

「よーし作戦が終わったら覚悟しておけよーダイン、私と楽しく祝杯を上げましょう? オジサマだからって、容赦はしないんだからな☆ ……こほん。では、一度集合しますね。外壁と隣の第三区画を仕切る壁が交わる、この区画の角周辺に一度全員集めるよう各分隊長に伝達をお願いします。そこで今後の作戦についても軽く話し合い、全体に共有した後に冒険家さん達を第三区画へと運び出します。――これにて、第四区画の制圧を終了と致します。お疲れ様でした」


 そんなやり取りをして通信を切った後に、溜息を付く。


 この現状は、ヴァーナ連邦としても重く受け止める必要があることだ。

 十三年前の報復では、結局は外周区の一区画の制圧が達成出来ただけだったそうだ。後は外周区の全体図データが手に入ったという副産物があった程度か。

 もちろん、今回の作戦はそういったデータが既にあったからこそ実現出来たという背景もあるし、用意した兵力も以前よりも多いものとなっている。


 それでも突入から数時間、まだ作戦軍に大きな損傷も無いまま、既に以前と同じ成果を上げてしまった。

 ヨルムはもう戦いの終わりつつある戦場を見つめ、うっとりとした笑みを浮かべて呟くのだった。


「ふふ。やはり、あなた達を雇ったのは正解だったようですね、冒険家の皆様。……そして、お二方♡」

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