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十二話:継世杖リーブ

 □■□



 もしも、もしもの話だ。


 あの石碑に神器とやらが封印されていて、信乃が近づいてそれを解くことが出来たのなら。

 その神器を、信乃が使うことが出来たのなら。


 それがどれほど強いものなのかは分からない。だが、神器というからにはきっと強力な武器なのだろう。

 あるいは、今のこの状況を打開できるくらいの。

 きっと、勝機はそこにしかない。


(だが、そもそもここからあそこまでは少し距離があるし、炎だって蠢いている。無事、あそこまでたどり着けるのか? 相手は魔人とかいう恐ろしい化け物だ。あの三人だって子供のように弄ばれている。そんな相手に、無力な俺が出し抜けるのか?)


 ――自分は、無能の臆病者だから。何もしてこなかった、何も出来なかった人間だから。


(怖い。あの炎に全身を焼かれてしまったら、あの刃にずたずたに切り裂かれてしまったら。いやそもそも、石碑にたどり着けたとしても何も起きなかったら……!)


 勝手に増え続けてしまう嫌な考えを、しかし信乃は頭を振って無理矢理抑え込んだ。


「……ああ、そうだよ。何迷ってんだ有麻信乃。これじゃあっちの世界といた時と何も変わらない。どの道ここで何もしなかったら、三人とも死んで俺も死ぬんだぞ。覚悟を決めろ……お前は、戦いに満ち溢れた、異世界に来たんだろうが……!!」


 信乃は、意を決して走り出す。


「おや、無能さんは何を動いているので? そんなに死に急ぎたいのですかな?」


 案の定魔人はすぐに信乃の動きに気付き、風の刃の一部を彼の元にも差し向けてくる。

 だが刃達は信乃の前に現れた光の膜に弾かれてしまった。


「……っ、信乃には、傷一つ負わせない。行って、信乃……!!」


 ロアが、炎も刃も何とか躱しながらこちらに魔法をかけてくれている。彼女も信乃の魂胆に気付いてくれたようだ。


「ロア……! おおおおおおおおっ!! 『バースト』!!」


 信乃は自身に迫って来た炎にガンドを向け、撃つ。霧散した炎の先に出来た道を一気に駆け抜け、石碑に迫る。


「……ちぃ、どいつもこいつも。しかし何かと思えば、その祭壇が目的か! 誰が悪戯で文字を掘ったか知らんが、そこには何もないことはもう調べがついている! それに近づいたところでお前に何が……!」

「……っ、頼むぞ。ここで何も起きなくて、何がファンタジーだ!!」


 苛立った魔人の声を無視し、信乃は石碑に触れた。

 


 □■□



『そう、私は選ばれたのですね』

 

 声が、聞こえる。


『分かりました。こんな命で良ければ、お役立て下さい。よろしくお願いしますね、リーブ』


 青い瞳。長い銀髪。たおやかな笑顔で、その少女はこちらを見ている。

 これは、記憶なのだろうか?


『また、今日も魔の手から沢山の命を救えました。あなたのおかげですよ』


 少女だってきっと夢見ていた。誰かの役に立つことを。主人公となって、物語の中心に立つことを。

 そんな少女の願いは、きっと叶ったのだ。


『救えなかった……! 間に合わなかった……! ああ、どうして。どうしてまた、私は……!!』


 それなのに、どうして。


『さようなら。今度は私の番みたいですね。……これも、あなたの力なのでしょうか? 何となく、これから私がどうなるか分かってしまうのです。……ねえ、教えてください。それでも、私は私の望みを叶えることが出来ますか……?』


 どうして彼女は、そんなに悲しそうに泣いていたのだろう?



 □■□


 

 その場にいる全ての者が、息を呑んでいた。


 信乃が触れた瞬間に石碑は眩い光を放ち、粉々に砕け散ったのだ。

 その中から神々しい光と共に、一つの杖が姿を現す。

 それは、あの村でみた銀像と同じ姿をしていた。


 樹木を連想させる、うねりながら伸びる暗い黄赤の柄。幾つかの細枝に分かれて短く螺旋を描く先端。

 そして、その中に収められた大きな碧の宝珠。


 この杖からは、魔器と同じような見えない力の奔流を感じる。だが、その強さは魔器の比ではない。こうして立っているだけでも、その輝きと得体の知れなさに呑み込まれてしまいそうになる。


 ――これが、原典。この世界の神秘そのものの体現。


「神……器……!」


 信乃はゆっくりと手を伸ばし、それを掴む。凄い力を放っているにも関わらず、拒絶されることもなく案外簡単に手に馴染んでしまった。


「馬鹿な……『継世杖リーブ』だと!? ついぞ我々でも見つけられなかった神器が、なぜここに!? まさか貴様、本当に『銀麗の巫女』の後継者――神杖の勇者だとでも言うのか!?」

「信乃……あなたは……!」


 魔人ケルベロスとロアの声が、どこか遠くに聞こえる。杖を手にした途端、信乃の頭の中に詠唱が流れ込んできたからだ。

 瞬時に、それを唱えていた。


「神杖よ、勇者の名の元に神秘をここに具現し、かの者達の傷を癒せ――『ディヴァイン・ヒール』!!」

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