四十三話:三つ目魔人の最期
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【16:00】
「がああああああああああああっ!?」
信乃はシンジの言ったタイミング通りスイッチを押すと、冒険家達が設置してくれた「タイムボンバー」達が起爆。
サイクロプスのいた道路が倒壊し、沈んでいく。
羽もなく、超大型魔物程ではないとはいえ高重量の体躯ではそれに抗えず、口を開けた地下空間へと真っ逆さまに落ちていく。
「よおし大成功だ!! 所詮は取るに足りない人間達相手だと侮ったね、魔人!! その傲慢さが働く時だけは、君達の思考は魔物並みということだ!! 今だみんな出ろ!! チャンスはこれっきり!! 撃て撃て撃てーーーー!! ここでぶち殺せーーーー!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!」」」
シンジの合図と共に、一斉に上がった怒号が帝国の街並みを震撼させる。それと同時に、近くのあちこちの建物の影から冒険家達が現れて穴へと殺到。全員がガンドの銃口を穴の中――まだ落ちたばかりのサイクロプスに向けて、魔法を一斉放射した。
「な……ぐああああああああああああっ!!」
多少は瓦礫に守られているとは入れほぼ無防備なサイクロプスにそれらを防ぐ術などなく、明らかにダメージを負っている叫びを上げた。
「……ふっ、ははっ。確かにいいなこいつは! すごい、冒険家達の……人間の知恵と根性、勇気も捨てたものではない。これであの間抜けを狙い放題だというわけだ! 『エクスプロージョン・バースト』!!」
もちろん信乃も思わず笑いながら取り巻きに紛れ、ガンドで魔法を放つ。
それだけではない。二人組の影が滑るような空中水平移動で近くの建物の壁にへばりつき、そのまま地面に降り立つ。
「シラ! ヨルム中将!」
「はーい♡ お待たせしました。あなただけのメイド、ヨルムちゃんでーすなんちゃって☆ 我々も加わりますよ! ほら、シラさんも起きて下さいー!」
「きゅううぅ……はっ」
どうやらあらかじめこの近くに設置した別の子機に魔法のワイヤーを繋ぎ、逆にそれに引っ張られることで瞬時にここまで移動してきたヨルムがそんな軽口で答える。親機を握る右手とは逆のその左腕には、シラが(結局ヨルムのところまで引き寄せられてポーションによる回復等「色々」されたらしく)目を回してぐったりとしたまま抱えられている。しかしヨルムの呼びかけで正気に戻り、彼女の腕から凄い速度で離れて半べそで攻撃に加わった。
「……うう。ヨルム、やっぱり嫌いぃぃぃ……! 限定顕現――インドラスタッフ。『ライジング・ボルトバースト』!!」
「……刹那の、濃厚で熱いひと時でしたね、シラさん。大丈夫。どれだけあなたに嫌われようとも、私はいつまでもあなたをお慕いしておりますよ……(ぽっ)。『ホーリー・ライトニングバースト』!!」
「……ヨルム中将よ。仲良しなのは良いが、うちのシラをあまり変な道には引きずり込まないでもらいたいのだが。『エクスプロージョン・バースト』!!」
群を抜いて魔法攻撃力の高い三人も、そんな応酬をしながら魔法を放ち続ける。
「ぐ……がああああああああああああああああああああああああああッ!! 『ハイダイダル・アクアマルクアロー』!!」
しかし、相手は身体の頑丈さも超大型魔物譲りらしい。
何度も魔法が直撃して血まみれになりながらも、体制を整えて弓を上に構えて矢の魔法を放つ。穴の出口に向けて放たれる魔法達を搔い潜った複数の水の矢達は、丁度穴から突き出たあたりで減速し反転。そのまま、穴の周りにいた冒険家達に降り注ぐ。
「「「ぐああああああああっ!!」」」
「ぐ……くそ。あの魔人、まだあんな力を……! やられては元も子もない!! みんな、やむ負えないが降り注ぐ矢にも対処を割いてくれ!」
また発されたシンジの号令の元、冒険家達は降り注ぐ上空の矢に対しても攻撃魔法や防御魔法を展開。シラも雷属性の盾を展開し、信乃とヨルムを守る。
だがその間、確実にサイクロプスへの攻撃も緩んでしまう。
「はは……はははははははははははははっ!!」
彼は再び弓を構え、更に数を増やして複数の水の矢を穴の上に向けて放つ。
「「「ひ……っ!」」」
「だ、ダメだ!! 退避!! 退避だー!!」
またシンジの号令がかかり、冒険家達は穴から離れる。直後また穴周辺へ降り注いだ水矢の雨を全員が避けることは出来たものの、これでほぼ彼への攻撃が止んでしまった。
「……ちっ」
信乃達も撤退する。
これだけの策と攻撃を以てしても、終ぞ冒険家達の手では超大型魔人を倒すことは出来なかったのだった。
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痛みも顧みず水の矢を撃ち続けた結果、ほぼサイクロプスへの攻撃は止まってしまった。
人間達にしてはこの身体に多少のダメージを与えられたものの、まだ彼は健在だ。
「ふん、随分と粋がったが、どうやらここまでのようだな!! 無駄!! 貴様らハエが何体群れを作ろうが、どんなずる賢い策を行使しようが、この俺に勝つことなど不可能だ!! はははははッ!!」
そのタイミングを見計らい、ようやく立ち上がったばかりの彼はゆっくりとしゃがみ込む。その足には人間ではあり得ない量の筋肉を膨張させ、そして天井の出口に向けて凄まじい速度で跳躍する。
窮鼠猫を嚙む。雑魚達に想像以上に追い詰められて焦りはしたものの、結局は立て直すことに成功した。このまま穴から出さえすれば、また彼の独断場だ。しかも穴から退避したばかりの彼らはまだろくに隠れ切れていないだろう。ここからは、一気に殺戮を加速させられる。
「死ね!! 帝国に、この俺に歯向かったことを後悔しながら死んでいけ、人間共よ!! はははははははははははっ!!」
そんな勝利への確信の雄叫びを上げながらサイクロプスはとうとう穴から飛び出し――
再び広がった視界を埋めていたのは、大量の空飛ぶ鉄人の軍団だった。
「……は?」
『ふふ、あははっ! あなた、穴に落ちて視界が制限されて、どれだけ時間が経ったと思っています? これ見よがしに穴の淵にいた冒険家達だけ牽制していればそれでいいとか思っていませんでした!? いやぁ、やっぱり脳筋馬鹿でしたね!! ではあの世で、しっかりと学習でもしてもっといい男になってから生まれ変わるなりして出直してくださいねー☆』
どこからともなく聞こえたきた女の声と共に、鉄人達は構えていた銃口から一斉に魔法を放つ。
もはや弓を構え直す暇もない。
「う……ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
先程よりも更に強い熱量を浴びながら、サイクロプスは最期の叫びを上げた。